代数の基礎


1.群

 集合 G乗法とよばれる演算 j : G ´ G ® G が与えられ、j(a, b) を単に ab と書いて、結合律

(1-1)  (ab)c = a(bc)

を満たすとき G半群といい、更に単位元、すなわち任意の aÎG に対して

(1-2)  ea = ae = a

を満たす eÎG を持つとき Gモノイドといいます。単位元は存在すれば一意的です。もっと一般に、左単位元すなわちすべての aÎG に対して ea = a となる e と、右単位元すなわちすべての aÎG に対して ae' = a となる e' が存在すれば両者は一致します。実際、e = ee' = e' となるからです。
 モノイド G の元 a に対し、

(1-3a)  ba = e

となる bÎG が存在するとき、a左可逆であるといい、ba左逆元といいます。同様に、

(1-3b)  ac = e

となる cÎG が存在するとき、a右可逆であるといい、ca右逆元といいます。
 左逆元 b右逆元 c が存在すれば両者は一致します。実際、b = be = b(ac) = (ba)c = ec = c となるからです。このとき a可逆であるといい、この一意に定まる b = ca逆元とよんで a-1 と書きます。このとき

(1-4a)  (a-1)-1 = a

(1-4b)  (ab)-1 = b-1a-1

が成り立ちます(「数学の基礎」第14節 (14-7),(14-9) 参照)。
 モノイドは、すべての元が可逆なときといいます(「数学の基礎」第14節参照)。なお、半群は、左単位元と左逆元を持つ、又は右単位元と右逆元を持てば、それぞれ単位元と逆元になり、従って群になります(「数学の基礎」第14節 (14-5) 参照)。

 群 G の元 ab は、

(1-5)  ab = ba

が成り立つとき可換であるといい、すべての a, bÎG が可換であるような群を可換群といいます。可環群のことをAbelあるいは加群ともいい、これらの語を使うときは、乗法を加法的に a + b と書き、単位元を 0 と書いて零元とよび、a の逆元を - a と書きます。
 群 G の濃度を #G と書き、G位数といいます。位数が有限の群を有限群といいます。

 群 G の部分集合 H は、G の乗法について閉じており、G の単位元と H の元の逆元をすべて含むとき G部分群といいます。このとき HG の乗法に関して群になります。
 G の部分群 H に対し、aH{ ax | xÎH } , Ha{ xa | xÎH } と置き、更に

(1-6a)  G/H { aH | aÎG }

(1-6b)  G\H { Ha | aÎG }

と置いて、それぞれ GH による左剰余類右剰余類といいます。(1-6) それぞれの右辺は G の分割になっています。
 実際、aHÇbH ¹ Æ と仮定します。このとき cÎaHÇbH となる c が存在して a-1c, b-1cÎH となります。任意に xÎaH を取れば、a-1xÎH ですから b-1x = (b-1c)(c-1a)(a-1x) = (b-1c)(a-1c)-1(a-1x)ÎH すなわち xÎbH となります。逆もいえるので、結局 aH = bH となり、(1-6a)G分割になっていることがわかります。(1-6b) についても同様です。

 さて、aH = bH  Û  Ha-1 = (aH )-1 = (bH )-1 = Hb-1 ですから、左剰余類の aH と右剰余類の Ha-1 は一対一に対応し、両剰余類は等濃であることがわかります。ゆえにこれらの濃度を G における H指数とよんで (G : H ) と書きます。
 このとき HG の部分群、KH の部分群とすれば、

(1-7)  (G : K ) = (G : H )(H : K )

が成り立ちます。
 実際、G = È{ aH | aÎA }H = È{ bK | bÎB }(a, a'ÎA Ù a ¹ a' )  Þ  aH ¹ a'H かつ (b, b'ÎB Ù b ¹ b' )  Þ  bK ¹ b'K であるような分割とすれば、(G : H ) = card A かつ (H : K ) = card B となります。
 このとき G = È{ abK | aÎA , bÎB } となりますが、abK = a'b'K ( a, a'ÎA ; b, b'ÎB ) なら bK, b'K Ì H ですから aHa'H は共通元を持つことになるので実は一致し、従って a = a' 、従って bK = b'K 、従って b = b' となります。
 ゆえに (G : K ) = card{ abK | aÎA , bÎB } = card (A ´ B) = card A card B となって (1-7) が得られます。

 特に (1-7)K = {e} とすれば、

(1-8)  #G = (G : H ) #H

が得られ、特に #G , #H , (G : H ) のうち二つが有限なら残る一つも有限で、#H(G : H )#G の約数になっていることがわかります。

 さて、G の部分群 HaÎG に対して aHa-1G の部分群です。実際、e = aea-1 , (axa-1)(aya-1) = a(xy)a-1 , (axa-1)-1 = ax-1a-1 となるからです。
 そこで、G の部分群 HK に対して

(1-9)  H ~ K  :º  $aÎG : K = aHa-1

と定義すれば、二項関係 ~ は、G の部分群の間の同値関係になります。
 実際、H = eHe-1 が成り立ち、K = aHa-1 なら H = a-1K(a-1)-1 であり、K = aHa-1 かつ L = bKb-1 なら L = (ba)H(ba)-1 となるからです。
 そこで H ~ K であるような部分群 HK共役であるということにします。特に、部分群 N に共役な部分群が自分自身しかないとき、すなわち任意の aÎG に対して

(1-10)  aNa-1 = N

が成り立つとき、N正規部分群とよび、N v G あるいは G w N と書きます。明らかに、可環群では部分群はすべて正規部分群です。N v G であることを示すには、

(1-11a)  "aÎG : aNa-1 Ì N

(1-11b)  "aÎG : a-1Na Ì N

のいずれかが証明できれば十分です。
 実際、aÎGa-1ÎG は同じことですから (1-11a),(1-11b) は同値であり、(1-11b) の左から a を、右から a-1 を乗じれば (1-11a) の逆の包含関係が導かれるからです。

 N が正規部分群なら、aN = Na なので左右の剰余類は一致し、aNbN = a(bNb-1)bN = abNN = abN ですから、G/NeN = N を単位元とし、a-1NaN の逆元とする群になります。G が可環群なら G/N も可環群です。また、定義から明らかなように、N Ì H Ì G なら

(1-12)  N v G  Þ  N v H

が成り立ちます。

 S を群 G の部分集合とするとき、S を含む部分群全体の共分は明らかに部分群で、S を含む最小の部分群になります。これを S生成する群といって áSñ と書きます。特に G = áSñ のとき SG生成系といい、更に S が有限部分集合のとき G有限生成であるといいます。なお S が有限集合の場合、á{a1 , a2 ,¼, an }ñ のかわりに áa1 , a2 ,¼, an ñ とも書きます。特に1個の元から生成される群を巡回群といいます。

 群 G の元 a と自然数 n に対し、an を帰納的に

(1-13a)  a0 = e

(1-13b)  an+1 = ana

で定義し、負の整数 - n に対し、

(1-14)  a-n = (an )-1

と定義します(ただしAbel群で群の乗法を加法的に書く場合は、an のかわりに na と書きます)。このとき、(1-14) はすべての整数 n について成り立ち、しかも任意の整数 nm に対し、指数法則

(1-15a)  an+m = anam

(1-15b)  an m = (an )m

が成り立ちます(「数学の基礎」第15節 (15-36) 参照)。
 この指数表示を用いると、aÎG の生成する巡回群 áañ{ an | nÎZ } と書くことができ、(1-15a) により áañ は可環群であることがわかります。

 群 G の元 a は、巡回群 áañ が有限群であるとき捩れ元といい、áañ の位数を元 a位数といいます。G の捩れ元の全体を Tor G と書きます。これは G が可換群なら B の部分群です。また、捩れ元でない元は無限位数を持つといいます。
 明らかに an = e となる整数 n ¹ 0 が存在すれば a は捩れ元ですが、逆に a が捩れ元なら ak ( 0 £ k < n ) が相異なるような最大の n が存在します。すると an = ai となる自然数 i < n が存在しますが、i > 0 とすると an-i = e = a0 となり、0 ¹ n - i < n なので矛盾するので an = e がわかります。
 さて、任意の自然数 k に対し、k = in + r ( 0 £ r < n ) と表わすと(「数学の基礎」第12節参照)、(1-15) により ak = ain+r = (an )iar = ar となるので áañ = { ar | 0 £ r < n } が成り立ち、na の位数であることがわかります。また、一般に ak = e となる整数 ka指数といいますが、このとき r = 0 となるので、指数は位数の倍数であることがわかります。また、群 G のすべての元が指数 n を持つとき、nG指数といいます。

 巡回群 G = áañ の部分群 H は巡回群です。
 実際、H = {e} なら明らかなので、そうでないとすると、akÎH となる最小の正整数 k が存在します。任意の amÎH に対し、m = ik + r ( 0 £ r < k ) と表わせば、ar = am-ik = am(ak)-iÎH ですから r = 0 すなわち mk の倍数となり、これは H = áak ñ を意味します。
 また、G は可環群なので H は正規部分群ですから、その商群 G/H を考えることができ、これは明らかに巡回群です。

 また、位数 n の有限群 G は指数 n を持ちます。
 実際、任意の aÎG に対し、áañ Ì G ですから áañ は有限群、すなわち a は捩れ元です。また áañ は有限群 G の部分群ですから、(1-8) により a の位数 #áañG の位数 #G の約数です。ゆえに na の指数です。

 H を群 G の部分群とします。このとき捩れ元 aÎGa の位数と互いに素(「数学の基礎」第12節参照)な n に対して anÎH なら aÎH です。
 実際、a の位数を m とすると、「数学の基礎」第12節 (12-13) により im - jn = 1 となる整数 i , j が存在するので a = ami-n j = (am)i(an )-j = (an )-jÎH となります。

 半群 G から半群 G' への写像 f は、任意の a, bÎG に対して

(1-16)  f(a) f(b) = f(ab)

を満たすとき準同型といいます。
 ここでもし G がモノイドなら、G の単位元 e の像 f(e)f の像 f [G] の単位元になるので f [G] もモノイドになり、更に G が群なら f(a-1)f [G] における f(a) の逆元になるので f [G] も群になります。更に G が可環群なら f [G] も可環群です。
 また GG' が共に群ならば、G' の単位元を e' と書けば

(1-17a)  f(e) = e'

(1-17b)  f(a-1) = f(a)-1

が成り立ちます(「数学の基礎」第14節 (14-11),(14-13) 参照)。一対一の準同型を単準同型、上への準同型を全準同型といいます。単準同型かつ全準同型のとき同型といいますが、同型の逆写像も同型になります。

 群の準同型 j : G ® G' に対し、G'正規部分群 N'j による逆像 N も正規部分群です。
 実際、任意の aÎG に対して j[aNa-1] Ì j(a)j[N ]j(a-1 ) Ì j(a)N'j(a)-1 Ì N' となるからです、

 また、j全準同型なら、G正規部分群 Nj による像 N' も正規部分群です。
 実際、任意の bÎG' に対して f(a) = b となる aÎG を取れば、bN'b-1 = j(a)j[N ]j(a-1 ) Ì j[aNa-1 ] Ì j[N ] = N' となるからです、

 特に j Ker j

(1-18)  Ker j :º j-({e' }) = { xÎG | j(x) = e' }

で定義すれば、これは正規部分群 {e' } の逆像ですから正規部分群です。
 逆に、N v G ならば、標準写像 p : G ® G/Np(a) = aN で定義すれば、p全準同型で、Ker j = N が成り立ちます。すなわち正規部分群(から G への埋め込み写像)とは群の圏における正規な射のことに他なりません(「数学の基礎」第14節参照)。

 さて、群の準同型 j : G ® G' に対し、NKer j と置くと、aN = bN  Û  ab-1ÎN  Û  j(ab-1) = e'  Û  j(a)j(b)-1 = e'  Û  j(a) = j(b) ですから、次のような、群としての同型が成立します:

(1-19)  G/Ker j  @  j[G]

これを(第一)準同型定理といいます。
 Z は明らかに加法に関してAbel群になりますが、写像 j : Z ® Gj(n) = an で定義すれば、j[Z] = áañ で、(1-15a) により j は準同型で、j の核は、a が位数 n の捩れ元のときは nZ で、無限位数を持つときは {e} です。よって (1-19) により、前者なら áañ @ Z/nZ が、後者なら áañ @ Z が成り立ちます。

 また、H を群 G の部分群、N v G とすると、a, bÎH , x, yÎN なら axby = ab(b-1xb)yÎHHNN = HN 及び (ax)-1 = x-1a-1 = a-1(ax-1a-1)ÎHN ですから HNG の部分群です。
 一方、aÎH , xÎN なら axN = N ですから、j(a) = aN で定義される準同型 j : H ® HN/N は全準同型で、Ker j = HÇN となります。ゆえにこの j に第一準同型定理を適用すれば、

(1-20)  H/(HÇN )  @  HN/N

が得られます。これを第二準同型定理といいます。
 また、N, N' v G かつ N' Ì N とするとき、aN' = bN'  Þ  aN = bN ですから、j : G/N' ® G/Nj(aN' ) = aN で定義することができ、j は全準同型で Ker j = N/N' となります。ゆえにこの j に第一準同型定理を適用すれば、

(1-21)  (G/N' )/(N/N' )  @  G/N

が得られます。これを第三準同型定理といいます。

 ある「数学の基礎」第7節参照)の対象 X に対し、余域が共に X であるようなの全体を End (X ) と書き、同型射の全体を Aut (X ) と書きます。End (X ) は射の合成に対して恒等射を単位元とするモノイドになり、Aut (X )になります。
 特に X が集合の圏の対象のとき、Aut (X )X 上の置換群とよび、その元を置換といいます。特に { 1, 2 ,¼, n } 上の置換群をn次対称群とよび、Sn と書いて、その元をn次の置換とよぶことにします。
 { i1 , i2 ,¼, in } = { 1, 2 ,¼, n } のとき、s(ik) = jk ( 0 £ k £ n ) であるような置換 s

(1-22)  s = æ
è
 i1  i2 ¼  in ö
ø
 j1  j2 ¼  jn

と書きます。ただし ik = jk であるような列は省略することもあります。また、このように列を省略した状態で jk = ik+1 ( k < m ) , jn = i1 となっているm列の置換をm次の巡回置換といい、その場合は (1-22) の下段を省略します。特に2列からなる巡回置換を互換といいます。
 1 £ k £ N のとき、Sn に対する { 1, 2 ,¼, k } への制限 sk の全体は、全部で nPk 個(「数学の基礎」第12節 (12-22) 参照)存在します。なぜなら sk+1 は、sk と残り n - k 個の中から任意に選んだ s(k + 1) によって定まるからです。よって特に

(1-23)  #Sn = n!

であることがわかります。

 さて、任意のn次の置換は、巡回置換のいくつかの積で表わされることを n に関する帰納法で証明しましょう。
 任意に Sn を取り、i0 = 1 , ik+1 = s(ik) と置きます。s の定義域は有限集合ですから、ik = il となる自然数 k < l の組が存在します。もし k > 0 なら s(ik-1) = ik = il = s(il-1) で、s は単射ですから、ik-1 = il-1 となります。ゆえに帰納法により k = 0 と仮定しても一般性を失いません。いいかえると il = 1 となる l > 0 が存在します。
 l をそのような最小の正整数とします。もし 0 £ j < k < l に対して ij = ik となったとすると、上と同様な論法により 1 = i0 = im となる正整数 m < l が存在して矛盾するので I = { ik | k = 0, 1 ,¼, l - 1 } は互いに異なる l 個の元からなる集合です。
 ゆえに { 1, 2 ,¼, n } から I を除いた残りを J とすると、s は、sI への制限 sIJ への制限 sJ の積に分解され、sIÎAut (I ) , sJÎAut (J ) となります。このとき sIl次の巡回置換であり、sJcard J = n - l < n ですから、帰納法の仮定により巡回置換の積に分解されます。以上で証明されました。

 ところで任意の巡回置換は ( i1 i2 ¼ im ) = ( i1 i2 )( i2 i3 )¼( im-1 im ) と書けますから、m次の巡回置換は、m - 1個の互換の積で表わされることもわかります。
 更に、i < j なら (i  j + 1) = (i  j)( j  j + 1)(i  j) ですから、j に関する帰納法により、任意の互換は、隣り合う互換 ( j  j + 1) のいくつかの積で表わされることもわかります。
 以上を組み合わせると、任意のn次の置換は、隣り合う互換のいくつかの積で表わされることがわかりました。

 Sn は、Pn = { I Ì {1, 2 ,¼, n } | card I = 2 } の部分集合

(1-24)  Rev (s) = { {i, j}ÎPn | i < j  Û  s(i) > s( j) }

の濃度が偶数のとき偶置換、奇数のとき奇置換といいます。s, Sn なら、1 £ i < j £ n のとき

(1-25)  st(i) > st( j)  Û  [ ( t(i) < t( j)  Ù  s(t(i)) > s(t(i)) )  Ú  ( t(i) > t( j)  Ù  s(t(i)) > s(t(i)) ) ]

ですから、Pn からそれ自身への写像 t+ を、t+({i, j}) = {t(i), t( j)} で定義すれば、

(1-26)  Rev (st) = [ (t+)-( Rev (s))  \  Rev (t) ] È [ Rev (t)  \  (t+)-( Rev (s)) ]

となり、集合 Rev (t) Ç (t+)-( Rev (s)) の濃度を k とすれば、t+ は全単射ですから

(1-27)  card Rev (st) = [ card (t+)-( Rev (s)) - k ] + [ card Rev (t) - k ] = card Rev (s) + card Rev (t) - 2k

 そこで、置換 s符号

(1-28)  sgn s º (-)s º (- 1)card Rev (s)

で定義すれば、(1-27) により

(1-29)  sgn (st) = sgn s sgn t

が成り立ちます。また i < j のとき card Rev (i j) = card ( {{i, k} | i < k < j}È{{k, j} | i < k < j}È{{i, j}} ) = 2( j - i - 1) + 1 ですから互換の符号は - 1 です。ゆえに (1-29) を繰り返し用いることにより、m次の巡回置換の符号は (- 1)m-1 であることがわかります。

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