代数の基礎


2.環

 AbelR が、更に乗法とよばれる二項演算 ab を持ち、結合律

(2-1)  (ab)c = a(bc)

及び分配律

(2-2a)  (a + b)c = ac + bc

(2-2b)  c(a + b) = ca + cb

を満たすときといいます。環では

(2-3a)  x0 = 0x = 0

(2-3b)  (- a)b = a(- b) = -(ab)

(2-3c)  (- a)(- b) = ab

が成り立ちます(「数学の基礎」第14節 (14-44),(14-47),(14-48) 参照)。

 また、R

(2-4)  a1 = 1a = a

を満たす元 1 を持つとき、これを単位元といい、単位元を持つ環を単位的環といいます。環(単位的環)は乗法について半群(モノイド)ですから、特に単位元は存在すれば一意的です。また、交換律

(2-5)  ab = ba

を満たすとき可換環といいます。
 単位的環 R に対し、乗法について可逆な元を単元といい、単元の全体を R´ と書くと、これは乗法に関して群になります。これを R の定める乗法群といいます。R が可換環なら R´ は可換群です。特に 0 以外の元がすべて単元であるような環、すなわち

(2-6)  R´ = R \ {0}

であるような環を斜体といい、可換な斜体をといいます。また (1-4b) により

(2-7a)  ( aÎR´  Ù  bÎR´ )  Þ  abÎR

が成り立ちますが、更に R が可換環の場合は、ab が可逆なら b(ab)-1a の逆元になり、b についても同様なので、

(2-7b)  abÎR´  Þ  ( aÎR´  Ù  bÎR´ )

が成り立ちます。

 さて、環 R において

(2-8)  a ¹ 0  Ù  b ¹ 0  Ù  ab = 0

を満たす a, bÎR の組を零因子といい、零因子が存在しないような単位的可換環を整域といいます。(2-7a) により体は整域です。
 逆に、有限集合であるような整域 R は体です。なぜなら a ¹ 0 なら ax = ay  Þ  a(x - y) = 0  Þ  x - y = 0  Þ  x = y ですから xax を対応させる写像は有限集合 R からそれ自身への単射ですから全射、従って特に ax = 1 となる x が存在するからです。

 さて、単位的可換環 R は、R を加法について群とみなしたときの単位元の位数を R標数といいます。ただし標数が無限大であるというかわりに標数 0であるといいます。
 整域の標数は 0 又は素数です。なぜなら標数 n が素数でなかったとすると、1 < p, q < n を満たす整数 pq が存在して n = pq と書けますが、( p1)(q1) = ( pq)1 = n1 = 0 ですから p1 = 0 又は q1 = 0 となり、n が加法群における 1 の位数であることに反するからです。

 単位的可換環 R の元 a , b は、ある単元 c によって a = bc と書けるとき、ab同伴であるといって a ~ b と書くことにします。~ は明らかに同値関係です。特に R整域のときは

(2-9a)  ab = ac  Þ  ( a = 0  Ú  b = c )

(2-9b)  ( ab ~ a'c  Ù  a ~ a' )  Þ  ( a = a' = 0  Ú  b ~ c )

が成り立ちます。
 実際、ab = ac なら a(b - c) = 0 ですから、R が整域であることから a = 0 又は b - c = 0 となります。また ab ~ a'c なら単元 d により ab = a'cd と書け、更に a ~ a' なら単元 g により a' = ag と書けるので ab = agcd となり、(2-9a) により a = 0 又は b = gcd となり、前者は更に a' = ag = 0 を意味し、後者は b ~ c を意味します。

 環 R から環 R' への写像 f

(2-10a)  f(a + b) = f(a) + f(b)

(2-10b)  f(ab) = f(a) f(b)

を満たすとき(環)準同型といいます。(2-10a)f が環の加法群に対する群の準同型であることを意味していますから、(1-17) により

(2-11a)  f(0) = 0

(2-11b)  f(- a) = - f(a)

が成り立ちます。なお、環 R が単位元 1 を持ち、f : R ® R' が準同型なら f(1) は環 f [R] の単位元になります。そこで、単位的環の圏で考える場合は、準同型の条件として、更に条件:

(2-12)  f(1) = 1

が成り立つことを要請します。

 環 R の部分集合 Q は、R の加法と乗法について閉じており、R の零元と Q の元の加法の逆元をすべて含むとき R部分環といいます。以下、環 R の部分集合 A , B に対して A ± B = { a ± b | aÎA , bÎB } , AB = { ab | aÎA , bÎB } 等と書くことにします。
 環 R の空でない部分集合 I は、

(2-13a)  I + I Ì I

(2-13b)  RI Ì I

(2-13c)  IR Ì I

を満たすときイデアルといいます。(2-13b)I ¹ ÆR により

(2-14a)  I

がわかり、(2-13b)- 1ÎR により

(2-14b)  - I Ì I

がわかるので、R のイデアルは R の部分環です。また R 自身と 0 :º {0} はイデアルです。前者を自明なイデアル、後者を零イデアルといいます。

 f : R ® R' を環準同型とするとき、R'イデアル I'f による逆像 I もイデアルです。実際、

(2-15a)  f [I + I ] Ì  f [I ] + f [I ] Ì I' + I' Ì I'

(2-15b)  f [RI ] Ì  f [R] f [I ] Ì  f [R]I' Ì I'

(2-15c)  f [IR] Ì  f [I ] f [R] Ì  I' f [R] Ì I'

となるからです。また f全射なら、Rイデアル Jf による像 J' もイデアルです。実際、

(2-16a)  J' + J' = f [J ] + f [J ] Ì  f [J + J ] Ì  f [J ] = J'

(2-16b)  R'J' = f [R] f [J ] Ì  f [RJ ] Ì  f [J ] = J'

(2-16c)  J'R' = f [J ] f [R] Ì  f [JR] Ì  f [J ] = J'

となるからです。

 S を環 R の部分集合とするとき、S を含むイデアル全体の共分は明らかにイデアルで、S を含む最小のイデアルになります。これを S生成するイデアルといって ( S ) と書きます。特に S が有限部分集合のとき、( S )有限生成であるといいます。なお S = {a1 , a2 ,¼, an } のときは、( S ) のことを ( a1 , a2 ,¼, an ) とも書きます。特に1個の元から生成されるイデアルを単項イデアル又は主イデアルといいます。明らかに

(2-17a)  ( S ) =  
å
sÎS
as sbs   | as , bsÎR , almost all as , bs = 0 }

ですが、特に R が可換なときは

(2-17b)  ( S ) =  
å
sÎS
ass  | asÎR , almost all as = 0 }

と書けます。ただし“ almost all ”というのは“有限個を除いて”の意味です。

 さて、単位的環 R のイデアル I について

(2-18)  I ¹ R  Û  1ÏI  Û  I ÇR´ = Æ

が成り立ちます。実際、R´ ですから、右辺 Þ 中辺 Þ 左辺は明らかです。また aÎI ÇR´ と仮定すると、a-1 が存在するので、任意の xÎR に対し、x = xa-1aÎRI Ì I となります。

 また、単位的可換環 R において

(2-19)  ( a ) = R  Û  aÎR´

が成り立ちます。実際、左辺を仮定すると、特に ( a ) ですから 1 = ab となる b が存在し、1 は単元ですから (2-7b) により右辺が得られます。
 逆に右辺を仮定すると、I = ( a ) と置くと、aÎI ÇR´ ですから、(2-18) の対偶により左辺が得られます。

 さて、(2-18) から斜体の自明でないイデアルは零イデアルしかないことがわかります。
 逆に、単位的可換環 R の自明でないイデアルが零イデアルしかなければ R は体です。なぜなら、もし R が体でなければ、0 でも単元でもない元 a を持ちますが、(2-19) により ( a ) は自明でも零イデアルでもなく、仮定に反するからです。

 自明でないイデアル I

(2-20)  abÎI  Þ  ( aÎI  Ú  bÎI )

を満たすとき素イデアルといいます。また、環 R の自明でないイデアルのうち、包含関係に関して極大なイデアルを極大イデアルといいます。
 単位的環においては、自明でない任意のイデアルを含む極大イデアルが存在します。
 実際、I を単位的環 R の自明でないイデアルとし、I を含む自明でないイデアルの全体を J と書くと、J の任意の全順序部分集合 J' に対してその合併を J とすれば、これは明らかにイデアルで、しかも J の元はすべて 1 を元に持たないので J ですから J は自明でなく、従って J' の上限です。よってZornの補題により J は極大元を持ちます。

 さて、I を環 R のイデアルとするとき、{ a + x | xÎI }a + I と書くと、a + I Ì a' + I , b + I Ì b' + I なら aÎa' + I , bÎb' + I ですから

(2-21a)  a + b + I Ì a' + I + b' + I + I Ì a' + b' + I

(2-21b)  ab + I Ì (a' + I )(b' + I ) + I Ì a'b' + a'I + Ib' + II + I Ì a'b' + I

が成り立つので、R/I = { a + I | aÎR } と置いて、R/I の2元 a + I , b + I の和を (a + b) + I で、積を ab + I でそれぞれ定義すれば、これらは (R/I から R/I への写像、すなわち二項演算を定め、R/I は環になります。これを R のイデアル I による商環とよびます。
 また、xx + I を対応させる R から R/I への写像を j と書いて標準写像とよべば、j は上への準同型であることがわかります。
 このとき j(a) = 0  Û  a + I = 0 + I = I  Û  aÎI ですから、一般に準同型 f による 0 の逆像を Ker f と書けば、I = Ker j となります。
 逆に、環準同型 f : R ® R' に対して I = Ker f と置くと、I はイデアル {0} の逆像なのでイデアルです。
 すなわちイデアル(から R への埋め込み写像)とは環の圏における正規な射のことに他なりません(「数学の基礎」第14節参照)。

 ここで I が素イデアルであるという条件 (2-20)R/I を使って表わすと、a, R/I に対して ab = 0  Þ  (a = 0  Ù  b = 0) となりますから、可換環の自明でないイデアル I が素イデアルであることと R/I が整域であることは同値であることがわかります。

 また、JR/I のイデアルとすると、J :º j-(J )I を含む R のイデアルで、j は全射なので J = j[J ] が成り立ち、逆に I を含む R の任意のイデアル J に対し、J = j[J ] と置くと、これは R/I のイデアルです。
 いずれの場合も、a + IÎJ  Û  $bÎJ : a + I = b + I  Û  aÎI + J = J ですから J ¹ {I }  Û  $aÎR : aÏI  Û  J ¹ I が成り立ちます。
 一方 I Ì J なので J = R/I  Û  "aÎR : $bÎJ : a + I = b + I  Û  R = J が成り立ちます。
 すなわち J ¹ {I } Þ  J = R/IJ ¹ I  Þ  J = R は同値です。言い換えると、R/I の自明でないイデアルが零イデアルしかないことと I が極大イデアルであることは同値であり、前者は可換環の圏では R/I が体であることと同値でしたから、可換環の自明でないイデアル I が極大イデアルであることと R/I が体であることは同値です。
 以上により、特に単位的可換環の極大イデアルは素イデアルであることがわかります。

 さて、任意のイデアルが有限生成であるような単位的可換環をNoetherといいます。単位的可換環 R に対し、次の3条件:

(2-22a)  R Noether環。
(2-22b)  R のイデアルの増加列 I0 Ì I1 Ì ¼ に対し、ある n から先は In = In+1 = ¼ となる。
(2-22c)  R のイデアルからなる空でない任意の集合は、包含関係に関する極大元を持つ。

は同値です。
 実際、(2-22a) Þ (2-22b) は、R のイデアルの増加列 J = { Ik | kÎN } に対し、J = ÈJ と置くと、明らかに JR のイデアルで、J は有限生成なので、J = ( a1 , a2 ,¼, am ) と書けます。そこで aiÎIk(i) ( 0 £ i £ m ) となる自然数 k(i) を取り、これらの最大値を n とすれば、{ a1 , a2 ,¼, am } Ì In ですから In = J となり、(2-22b) が得られます。
 次に (2-22b) Þ (2-22c) は、JR のイデアルからなる空でない集合とし、包含関係に対して極大元を持たないとします。このとき帰納的に R のイデアルの増加列 { Ik | kÎN } で、Ii ¹ Ii+1 であるものが構成できますが、これは仮定 (2-22b) に反します。
 最後に (2-22c) Þ (2-22a) は、R の任意のイデアル I を取り、I の有限部分集合の生成するイデアル全体からなる集合を J とします。仮定により J は包含関係に関する極大元 J = ( S ) を持ちます。ここで J ¹ I と仮定すると、J に属さない I の元 a が存在します。ところが ( S È{a} )J より真に大きい J の元ですから、J の極大性に反します。ゆえに J = I で、これは I が有限生成であることを意味しています。

 また、Noether環の準同型による像もNoetherです。実際、RNoether環で、If [R] のイデアルとすると、f -(I )R のイデアルですから、有限集合 S が存在して f -(I ) = ( S ) となりますが、これは I = (  f [S] ) を意味するので I は有限生成です。

 R を単位的可換環とします。a, bÎR が、aÎ( b ) 、すなわちある cÎR によって a = bc と書けるとき、ab倍元である、あるいは ba約元である、あるいは ba割り切るといい、b | a と表わします。
 S Ì R に対し、S の元すべての約元(倍元)になっている元を S公約元公倍元)といい、S のすべての公約元(公倍元)の倍元(約元)になっている S の公約元(公倍元)を最大公約元最小公倍元)といいます。aS の公約元であるということは S Ì ( a ) と書けますから、a が最大公約元であることは ( a )S を含む最小の主イデアルであることと同値です。
 0 でも単元でもない pÎR は、( p ) が素イデアルのとき、すなわち p | ab  Þ  ( p | a  Ú  p | b ) を満たすとき素元といい、a | p  Þ  ( a ~ 1  Ú  a ~ p ) が成り立つとき既約、既約でないとき可約であるといいます。

 以下 R整域とします。

 a, bÎR に対し、次の条件は同値です:

(2-23a)  a ~ b

(2-23b)  a | b  Ù  b | a

(2-23c)  ( a ) = ( b )

 実際、(2-23a) Þ (2-23b) Þ (2-23c) は明らかです。最後に (2-23c) を仮定すると、a = bx かつ b = ay となる x, yÎR が存在します。ゆえに a = axy となるので (2-9a) により a = 0 又は xy = 1 となりますが、前者なら b = ay = 0 ですから a = b となり、後者なら x は単元なので、いずれにせよ (2-23a) が成り立ちます。
 このことから特に、p ¹ 0既約であるという条件は、

(2-24a)  ( p ) ¹ R

(2-24b)  ( p ) Ì ( a )  Þ  [ ( a ) = R  Ú  ( a ) = ( p ) ]

と書けます。すなわち p の生成する主イデアルが主イデアル全体の中で極大であるということに他なりません。
 また、p が素元なら、a | p を満たす任意の a に対し p = ab と書け、p | ab ですから p | a 又は p | b となり、前者なら (2-23) により a ~ p となり、後者なら b = pc と書けるので p = pac となり、(2-9a)p ¹ 0 により ac = 1 すなわち a は単元です。ゆえに素元は既約であることがわかりました。

 さて、すべてのイデアルが主イデアルであるような整域を主イデアル整域(Principal Ideal Domain、あるいは略してPIDといいます。明らかに PIDNoether環です。
 また、PIDではすべてのイデアルが ( a ) の形に書けるので、(2-24) により、p が既約なら ( p ) は極大イデアル、従って素イデアル、従って p は素元です。すなわちPIDでは任意の p ¹ 0 について、次の4条件はすべて同値です:

(2-25a)  p は素元

(2-25b)  p は既約

(2-25c)  ( p ) は極大イデアル

(2-25d)  ( p ) は素イデアル

 更に、PIDではすべてのイデアルが ( p ) の形に書けるので、素イデアルと極大イデアルは同義であることがわかります。
 また、S Ì R の最大公約元の生成する主イデアルは S を含む最小の主イデアルですが、RPID なら ( S ) = ( a ) となる a が存在するので、この aS の最大公約元に他ならないことがわかります。
 また、I = Ç{ ( x ) | xÎS }R のイデアルですから I = ( a ) となる a が存在し、これは S の最小公倍元になります。ゆえにPIDでは R の任意の部分集合の最大公約元と最小公倍元が存在し、しかも (2-25) によりこれらはいずれも同伴関係を除いて一意的に定まります。

 さて、整域 R は、任意の 0 でない aÎR に対して有限個の既約元 pi ( 1 £ i £ n ) により

(2-26)  a ~ p1 p2 ¼ pn

と表わされ、それが順番を除いて同値関係 ~ に関して一意的、すなわち別の既約元 qi ( 1 £ i £ m ) によって

(2-27)  p1 p2 ¼ pn ~ q1 q2 ¼ qm

と書ければ

(2-28)  m = n  Ù  $sÎSn : "i £ n : pi ~ qs(i)

となるとき、一意分解整域(Unique Factorization Domain、あるいは略してUFDといいます。

 以下、PIDUFDであることを証明しましょう。

 まず表示 (2-26) の存在を帰謬法で証明するため、(2-26) の表示を持たず、0 でもない aÎR が存在したと仮定します。
 もし a が単元なら、n = 0 に対して (2-26) が成り立ってしまうので、a は単元ではありません。そこで a0 = a と置きます。このとき 0 でも単元でもない R の元からなる列 A = { ai | i ³ 1 }R の既約元からなる列 P = { ai | i ³ 1 } で、すべての自然数 k に対して ak = pk+1ak+1 となるものを以下のようにして構成します。
 k ³ 1 とし、aipii < k まで構成できたと仮定します。仮定により ( ak-1 ) ¹ R なので、( ak-1 ) を含む極大イデアル I が存在し、RPIDですから (2-25) により既約元 pk が存在して I = ( pk ) と書けます。ゆえに akÎR が存在して ak-1 = pkak と書けます。
 ak-1 ¹ 0 ですから ak ¹ 0 です。また帰納法の仮定により a = a0 = p1 p2 ¼ pkak と書けるので、もし ak が単元なら (2-26)n = k について成り立つことになって仮定に反するので ak は単元ではありません。以上で帰納法が完成し、AP が構成できました。
 ゆえに、すべての自然数 k に対して ( ak ) Ì ( ak+1 ) となりますが、PIDNoether環ですから、(2-22b) により、ある k に対して ( ak ) = ( ak+1 ) となります。すなわち ak+1 = bak と書けるので、ak = bpk+1ak となり、ak ¹ 0 ですから (2-9a) により bpk+1 = 1 となりますが、これは pk+1 が単元であることを意味し、既約という条件に反します。以上で (2-26) の表示の存在は証明されました。

 次に一意性 (2-28) を証明します。(2-27) により p1 | q1 q2 ¼ qm ですから p1 が素元であることから、p1 はある qi を割り切ります。すると、qi が既約であることから p1 ~ qi 又は p1 ~ 1 となりますが、後者は既約元の定義に反するので前者が成り立ちます。そこで s(1) = i と置きます。このとき (2-9b) により

(2-29)  p2 p3 ¼ pn ~ q1 ¼ qi-1 qi+1 ¼ qm

となります。もし n = m ならこれを帰納的に繰り返せば (2-28) が得られます。もし n ¹ m なら、帰納法により

(2-30a)  1 ~ qj ¼ qk

(2-30b)  pj ¼ pk ~ 1

のいずれかの形の式が得られ、これは 1 = cpj 又は 1 = cqj と書けることを意味し、いずれにせよ既約元が単元であることになり矛盾です。以上で一意性も証明されました。

 さて、最後に“割り算”が可能な整域のクラスを定義しましょう。整域 R0 でない a に対してノルムとよばれる自然数 N(a) が定義されていて、0 でない任意の a, bÎR に対して

(2-31a)  a ¹ b  Þ  N(a - b) £ max {N(a), N(b)}

(2-31b)  N(ab) ³ N(b)

(2-31c)  N(a) ³ N(b)  Þ  $cÎ a + ( b ) : ( c = 0  Ú  N(c) < N(a) )

が成り立つとき、Rユークリッド整域といいます。ユークリッド整域では、任意の ab ¹ 0 に対し、

(2-32)  a = cb + r

となる c, rÎR の組で、r = 0 又は N(r) < N(b) を満たすようなものが唯一組存在します(割り算の存在と一意性)。
 実際、存在については、a = 0 又は N(a) < N(b) なら c = 0 , r = a とすればよいので N(a) ³ N(b) の場合だけを考えれば十分です。そこでこの場合を N(a) に関する帰納法で証明しましょう。(2-31c) により、a = db + c となる dc で、c = 0 又は N(c) < N(a) となるものが存在します。前者なら証明は完成で、後者なら帰納法の仮定により c = gb + r となる g , r が存在し、r = 0 又は N(r) < N(b) となるので、a = (d + g)b + r となります。
 次に一意性ですが、cb + r = c'b + r' かつ N(r), N(r' ) < N(b) とします。もし r ¹ r' なら、明らかに c ¹ c' で、しかも一般性を失うことなく r ¹ 0 と仮定することができます。すると、r' ¹ 0 の場合は (2-31a) により N(r - r' ) < N(b) が成り立ち、これは r' = 0 でも成り立ちます。ところが一方で、(2-31b) により N(r - r' ) = N((c' - c)b) ³ N(b) となるので矛盾します。ゆえに r = r' がわかり、cb = c'b となるので、(2-9a) により c = c' となります。

 さて、ユークリッド整域はPIDであることを証明しましょう。
 実際、I をユークリッド整域 R の任意のイデアルとします。I = {0} なら I = ( 0 ) なので、I ¹ {0} とします。N は整列集合なので、I の元のうち、ノルムが最小であるような元 a ¹ 0 が存在します。
 このとき任意の xÎI に対して、(2-32) により x = ca + r となる cr で、r = 0 又は N(r) < N(a) となるものが存在しますが r = x - caÎI なので、もし r ¹ 0 なら a のノルムの最小性に反するので r = 0 です。ゆえに xÎ( a ) となり、I = ( a ) が証明されました。

 整数環 Z は整域であり、整数 a ¹ 0 の絶対値をノルムとよべば、明らかに (2-31) を満たします。ゆえに Z はユークリッド整域、従ってPID、従ってUFDです。

INDEX   BACK   NEXT