代数の基礎


3.R-加群

 R単位的可換環とします。AbelXAbel群としての演算に加えて R ´ X の元 (a, x)X の元 ax を対応させる外演算(「数学の基礎」第21節参照))が与えられ、

(3-1a)  1x = x

(3-1b)  a(bx) = (ab)x

(3-1c)  a(x + y) = ax + ay

(3-1d)  (a + b)x = ax + bx

を満たすとき、R-加群といい、特に R が体 K のとき K-線形空間、あるいは K がわかっているときは、単に線形空間といいます。R はそれ自身 R-加群であることに注意します。
 任意の R-加群に対して

(3-2a)  0x = a0 = 0

(3-2b)  (- a)x = a(- x) = - (ax)

(3-2c)  (- a)(- x) = ax

が成り立ちます(「数学の基礎」第14節 (14-57) 参照)。また、aÎR´ に対し、a とその逆元 b に対して (3-1a),(3-1b) により b(ax) = (ba)x = 1x = x ですから

(3-3)  aÎR´  Þ  ( x = 0  Û  ax = 0 )

が成り立ちます。
 なお、任意のAbelX は、nÎZxÎX に対して nxZ ´ X から X への外演算とみなせば、「数学の基礎」第15節 (15-36) により (3-1) が成り立つことがわかるので、XZ-加群とみなすことができます。

 R-加群 X の部分集合 Y は、部分群であって、かつ R の元を乗じる操作に対して閉じている、すなわち RY Ì Y となっているとき部分R-加群といいます。また、R-加群 X から R-加群 Y への写像 f は、

(3-4a)  f(x + y) = f(x) + f( y)

(3-4b)  f(ax) = a f(x)

を満たすときR-線形写像、あるいは単に線形写像といい、X から Y への線形写像の全体を Hom(X, Y ) と書きます。特に R-線形写像はAbel群の準同型ですから、

(3-5a)  f(0) = 0

(3-5b)  f(- x) = - f(x)

及び準同型定理

(3-6)  X / Ker f  @  f [X]

が成り立ちます。また、Abel群の任意の準同型は、aÎZ に対して (3-4b) を満たしますから Z-線形写像とみなすことができます。
 また、R-加群を対象R-線形写像をとよべば、これは一つの圏を構成します。これをR-加群の圏といいます。
 R-加群 X の部分集合 S について、R の元と S の元の積の有限和の全体は、S を含む最小の R-加群ですが、これを sp S と書き、S張る(生成する)部分R-加群といいます。特に sp S = X となるとき SX張る(生成する)といいます。

 X , YR-線形空間、f, gÎHom(X, Y ) とします。このとき f + g : X ® Y

(3-7a)  ( f + g)(x) = f(x) + g(x)

で定義すると、X における加法の可換性により f + g も線形写像です。これを fgといい、この和を与える演算を線形写像に対する加法といいます。この加法は、明らかに結合律と交換律を満たし、零射を加法の単位元に持ちます。
 また R は可換環なので、af(bx) = abf(x) = baf(x) ですから、aÎRfÎHom(X, Y ) に対して

(3-7b)  (af )(x) = af(x)

と定義すれば、afR-線形写像になります。すなわち Hom(X, Y ) はこれらの演算によりR-加群になります。特に Hom (X, R)X双対空間とよんで X* と書きます。fÎHom (X, Y ) とすると、任意の Y* = Hom (Y, R) に対し、

(3-8)  f *(h) = h °  f

と置けば、明らかに f*(h)ÎHom (X, R) = X* ですから、hf*(h) を対応させる写像を f* と書けば、明らかにこれも線形で、

(3-9)  fÎHom (X, Y )  Þ  f*ÎHom (Y*, X*)

となります。(3-8) から特に、f が全射なら f* は単射であることがわかります。
 また、R-加群の図式 D = { Xi ( iÎI ) ,  fj ( jÎJ ) } に対し、D* = { Xi* ( iÎI ) ,  fj* ( jÎJ ) } を考えると、圏の一般論(「数学の基礎」第8節 (8-19) 参照)により、集合の圏として

(3-10)  (colim D)* = lim D*

が成り立ちますが、R-加群の圏から集合の圏への忘却圏手は極限保存圏手なので、これはR-加群としても成立します(「数学の基礎」第13節参照)。特に、余積の双対は双対の積になります。

 さて、R-加群の族 { Xi | iÎI }余積の関係を調べてみましょう。
 X{ Xi | iÎI } の積、pi : X ® Xi をその標準写像とします。このとき ii : Xi ® X

(3-11)  pi ° ij = dij

が成り立つような唯一の線形写像として定義します。ただし diji = j のときは Xi の恒等写像、i ¹ j のときは零射を意味します。そこで

(3-12)  X' = sp È{ ii[Xi] | iÎI }

と置きます。このとき xÎX' なら
(3-13)  x =  
å
iÎI
ii(pi(x)) 

が成り立ちます。実際、まず右辺は有限和なので意味を持ちますが、両辺に pi を施せば、(3-11) により共に pi(x) になるので、両辺は一致します。
 以下、有限個の iÎI を除いて pi(x) = 0 となることと (3-11),(3-13) のみを使って、X'ii : Xi ® X' を標準写像とする { Xi | iÎI } の余積になることを証明しましょう。

 任意のR-線形空間 YR-線形写像の族 fi : Xi ® Y に対し、f : X' ® Y
(3-14)  f(x) =  
å
iÎI
 fi(pi(x)) 

で定義します(右辺は有限和なので意味を持ちます)。zÎXj を任意に取り、(3-14)xij(z) を代入すれば、(3-11) により
(3-15)  f(ij(z)) =  
å
iÎI
 fi(pi(ij(z))) = fj(z)

すなわち f ° ij = fj が成り立ちます。また f ° ii = g ° ii なら、両辺に pi(x) を代入して iÎI について和を取れば、(3-13) により f = g が得られます。以上で X'{ Xi | iÎI } の余積になることがわかりました。
 特に添字集合 I有限集合のときは、X'X で置き換えても、(3-13)~(3-15) は有限和なので、以上の証明がそのまま成立します。すなわちR-加群の圏では有限個の余積は積と一致します。これを双積(biproductといいます。

 集合 S に対し、R-加群 X と写像 i : S ® X の組で、任意のR-加群 Y と任意の写像 f : S ® Y に対して、f = j ° i となる R-線形写像 j : X ® Y が唯一つ存在するようなものを、S 上の自由R-加群といいます(「数学の基礎」第13節 参照)。

 S を集合、XR-加群とし、線形写像の族 is : R ® X ( sÎS ) と写像 i : S ® X の間に i(s) = is(1) の関係があるとき、X が各 is を標準写像とする R = { R | sÎS } の余積であることと、( X , i )S 上の自由R-加群であることは同値です。
 なぜなら、任意のR-加群の族 fs : R ® Y ( sÎS ) を考えることと、任意の写像 g : S ® Y を考えることは、fs(1) = g(s) の関係によって互いに移り合えますが、このときR-線形写像 j : X ® Y に対し、関係 fs = j ° is ( sÎS ) は、両辺のR-線形性により fs(1) = j(is(1)) ( sÎS ) と同値ですが、これは更に j(is(1)) = j(i(s)) により g = j ° i と同値だからです。
 特に、g を特定の sÎS に対して 1 、それ以外の s'ÎS0 として定義すると、g に対する j によって j(i(s)) = g(s) = 1 ¹ 0 = g(s' ) = j(i(s' )) となるので i(s) ¹ i(s' ) となり、i単射です。

 R-加群 X の部分集合 S は、i : S ® X を埋め込み写像として、(X, i)S 上の自由R-加群になっているとき、X基底であるといいます。任意の xÎX に対し、(3-13)ps(x)as と書けば、これは有限個を除いて 0 で、is(ps(x)) = ps(x) is(1) = as i(s) = as s ですから
(3-16)  x =  
å
sÎS
as s 

となります。また (3-11) により ps(s' ) = ps(i(s' )) = ps(is' (1)) = dss' ですから、(3-16) の両辺に ps を施せば、ps(x) = as となり、表示の一意性も成り立ちます。
 逆に任意の xÎX(3-16) の形の有限和に一意的に表わされれば、is : R ® Xps : X ® Ris(a) = as , ps(x) = as で定義すれば、ps(x) は有限個の s を除いて 0 で、(3-11),(3-13) を満たすので、XR の余積です。更に is(1) = s = i(s) ですから ( X , i )S 上の自由加群、すなわち SX の基底であることがわかります。(3-16)asxs成分とよびます。特に基底 SX を張ります。
 また、X の部分集合 S は、部分空間 sp S の基底になっているとき一次独立であるといい、そうでないとき一次従属であるといいます。すなわち S が一次独立であるとは、(3-16) の右辺が 0 ならすべての係数 as0 であることを意味します。

 さて、一般の R-加群は基底を持つとは限りません。例えば、ある 0 でない aÎR に対し、任意の x ÎX に対して ax = 0 となったとすると、(3-16) の表示の一意性は成り立ちません。
 ただし、RK のときは、X には必ず基底が存在します。もっと一般に、X の一次独立な任意の部分集合 A に対し、A を含む基底 S が存在します。
 実際、XK-線形空間とします。A を含む X の一次独立な部分集合の全体 S に包含関係で順序を入れます。
 まず AÎS ですから S は空ではありません。
 次に S'S の任意の全順序部分集合とすると、(3-16) の和が有限和であることから、S' の合併 Ssp S の基底になります。よってZornの補題により、S は極大元 S を持ちます。以下 sp S = X を証明します。
 もし yÎX \ sp S が存在したとすると、S' = S È{ y} と置くと、S'sp S' を張ります。また
(3-17)  x =  
å
sÎS'
as s  =  
å
sÎS'
bs s 

と書けたとすると、cs = as - bs と置けば
(3-18)  0 =  
å
sÎS'
cs s = cy y +  
å
sÎS
cs s 

となり、もし cy ¹ 0 なら、K は体なので cy の逆元 d が存在し、d(3-18) の両辺に乗じれば、
(3-19)  y = -  
å
sÎS
dcss Î sp S 

となって矛盾です。ゆえに cy = 0 であり、更に S が基底であることから、残りの係数 cs0 であることがわかります。ところがこれは S'ÎS を意味するので、S の極大性に反します。以上で A を含む基底の存在は証明されました。

 さて、XK-線形空間なら、X の部分空間 Y から線形空間 Z への写像 f に対し、fX への拡張、すなわち X から Z への線形写像 F で、その Y への制限が f に一致するものが存在します。
 実際、Y の基底 A を取ると、A を含む X の基底 S が存在します。このとき任意の xÎX に対して x(3-16) の形に表わし、

(3-20)  F(x) =  
å
sÎA
as f(s) 

と置けば、これは線形で、f の拡張になっています。
 特に、Z = K の場合を考えると、fÎY* , FÎX* となり、Y から X への埋め込み写像を i と書けば、(3-8) により f = F ° i = i*(F ) ですから、これは i* が全射であることを意味しています。一般に、fÎHom (X, Y ) が単射なら、ff [X ] から Y への埋め込みと同型ですから、線形空間の場合は、f が単射なら f* は全射であることがわかります。

 また、X が線形空間の場合は、任意の xÎX に対し、X* から K への写像 ix

(3-21)  ix(x) = x(x)       ( X* )

で定義すると、ix は明らかに線形ですから ixÎHom (X*, K ) = X** となります。ここで ix = 0 なら x = 0 であることを帰謬法で証明しましょう。
 実際、x ¹ 0 とすると、{x} は一次独立です。なぜなら 0 でない aÎK に対して ax = 0 となったとすると、両辺に a の逆元を乗じれば x = 0 となって矛盾するからです。ゆえに sp {x} から K への線形写像 ll(ax) = a で定義すると、これは X 全体で定義された Hom (X, K ) = X* に拡張でき、ix(x) = x(x) = l(x) = 1 となって矛盾します。
 ゆえに、xix を対応させる写像は一対一であることがわかり、

(3-22)  X Ì X**

とみなせることがわかります。

 さて、R-加群 X が、更に環であって、aÎRx, yÎX に対して

(3-23)  a(xy) = (ax)y = x(ay)

が成り立つとき、XR-といいます。更に X が単位的環、あるいは可換環である場合、X単位的R-可換R-といいます。
 また、R-環からR-環への写像は、R-線形かつ環準同型であるとき、R-環の準同型であるといいます。R-環を対象R-環の準同型をとよべば、これは一つの圏を構成します。これをR-環の圏といいます。

 さて、XR-加群とすれば、End (X ) はもちろんR-加群ですが、この場合は更に、f, gÎEnd (X ) に対して、その積 fg

(3-24)  ( fg)(x) = f(g(x))

で定義すると、End (X )X の恒等射を乗法の単位元とする単位的R-環になります。

 自然数 n に対し、第 j 成分が 1 、それ以外の成分が 0 であるような R n の元を en j と書けば、R n は、{ en j | 1 £ j £ n } を基底に持つR-加群になります。そこで Hom (R n, R m ) のことを Mmn(R) と書いて、その元をmn列の行列といいます。AÎMmn(R) に対する Aen j の第 i 成分を A の第(i, j)-成分といい、これを aij と書けば、A はこれらの成分によって一意的に定まるので、A

(3-25)  A = ( aij | 1 £ i £ m ; 1 £ j £ n )

と表わすことにします。また B = ( bjk | 1 £ j £ n ; 1 £ k £ l )ÎMnl(R) のとき、A ° B を行列 ABとよんで AB と書きます。これはml列の行列ですが、その第(i, k)-成分を (ab)ik と書けば、

(3-26)  m
å
i=1
(ab)ik em i = ABelk = A n
å
 j=1
bjken j = n
å
 j=1
bjk Aen j = n
å
 j=1
m
å
i=1
bjk aij em i 

となるので、{ em j | 1 £ i £ m }R m の基底であることから、係数を比較して

(3-27)  (ab)ik = n
å
 j=1
aij bjk 

が成り立つことがわかります。
 また、A と、A と同じ行数と列数を持つ行列 C = ( cij | 1 £ i £ m ; 1 £ j £ n ) の和 A + C の成分を (a + c)ij と書けば、線形性から明らかに

(3-28)  (a + c)ij = aij + cij

が成り立ちます。
 さて、行と列が同じ行列、すなわちある自然数 n に対するnn列の行列をn次正方行列といい、その全体を Mn(R) と書きます。これは End (R n ) に他ならず、従って単位的R-環になります。このR-環の単位元を単位行列とよびます。また Aut (R n ) 、すなわち乗法について可逆なn次正方行列の全体をn次の一般線形群とよんで GL(n, R) と書きます。

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