代数の基礎


5.Grassmann代数

 X , YR-加群とし、ある i ¹ j に対して xi = xj であるような xÎX n の全体を Nn と書き、Nn 上で 0 となる fÎTn(X, Y ) の全体を An(X, Y ) と書き、特に Y = R のときを An(X ) と書いて、その元を X 上のn階交代形式といいます。
 このとき任意の Sn と任意の fÎAn(X, Y ) に対して

(5-1)  f(xs(1) , xs(2) ,¼, xs(n) ) = (sgn s) f(x1 ,¼, xn )

が成り立ちます。実際、s は互換の積に分解できるので、(1-29) により s が互換 (i j) の場合について証明できれば十分です。
 そこで x1 ,¼, xi-1 , xi+1 ,¼, xj-1 , xj+1 ,¼, xn を任意に選んで固定し、

(5-2)  g(x, y) = f(x1 ,¼, xi-1 , x, xi+1 ,¼, xj-1 , y, xj+1 ,¼, xn )

と置くと、

(5-3)  0 = g(x + y, x + y) = g(x, x) + g(x, y) + g( y, x) + g( y, y) = g(x, y) + g( y, x)

ですから、これと sgn (i j) = - 1 により s = (i j) の場合について (5-1) が証明され、(5-1) は一般に証明されました。

 また、任意の fÎTn(X, Y ) に対して

(5-4)  f alt(x1 , x2 ,¼, xn ) =
å
Sn
(sgn s) f(xs(1) , xs(2) ,¼, xs(n) )

と置くと、f altÎAn(X, Y ) です。実際、任意に相異なる i, j £ n を選んで固定し、t = (i j) と置きます。任意の Sn に対し、ts ¹ s ですから、Sn の部分集合 S が存在して、SnS{ ts | S } の直和に分解されます。このとき、sgn (ts) = (sgn t)(sgn s) = - sgn s ですから

(5-5)  f alt(x1 , x2 ,¼, xn )
=  
å
S
(sgn s) f(xs(1) , xs(2) ,¼, xs(n) ) +  
å
S
(sgn (ts)) f(xts(1) , xts(2) ,¼, xts(n) )

=  
å
S
(sgn s) f(xs(1) , xs(2) ,¼, xs(n) ) -  
å
S
(sgn s) f(xts(1) , xts(2) ,¼, xts(n) )

が成り立つので、もし xi = xj なら、すべての k £ n に対して xs(k) = xts(k) ですから f alt(x1 , x2 ,¼, xn ) = 0 となり、i , j は任意ですから f altÎAn(X, Y ) であることがわかります。

 また、特に fÎAn(X, Y ) ならば、(5-1),(5-4) により

(5-6)  f alt = n! f

が成り立つことがわかります。

 さて、(5-1) を使って、任意の fÎAm+n(X, Y ) に対して

(5-7)  f( y1 , y2 ,¼, ym , x1 , x2 ,¼, xn ) = (- 1)mn f(x1 , x2 ,¼, xn , y1 , y2 ,¼, ym )

が成り立つことを n に関する帰納法で証明しましょう。左辺で x1ym と入れ替え、次に x1ym-1 と入れ替え、これを m 回繰り返して x1 を一番左に持ってくると、

(5-8a)  f( y1 , y2 ,¼, ym , x1 , x2 ,¼, xn ) = (- 1)m f(x1 , y1 , y2 ,¼, ym , x2 ,¼, xn )

 ここで x1 を固定し、帰納法を用いると、

(5-8b)  f(x1 , y1 , y2 ,¼, ym , x2 ,¼, xn ) = (- 1)m(n-1) f(x1 , x2 ,¼, xn , y1 , y2 ,¼, ym )

となるので、(5-8) を組み合わせれば (5-7) が得られます。

 R-加群 X に対し、R-加群 YfÎAn(X, Y ) の組を対象とよび、2つの対象 (Y, f )(Z, g) に対して j ° f = g を満たす Hom (Y , Z ) を前者から後者へのとよべば、これは一つの圏を構成します。この圏の始対象 ( An(X ), pn )X 上のnGrassmann代数といいます。
 すなわち ( An(X ), pn )X 上のnGrassmann代数であるとは、pnÎAn(X, An (X )) であって、かつ任意の fÎAn(X, Y ) に対して f = j ° pn を満たす Hom ( An(X ), Y ) が唯一つ存在することをいいます。従って特に、

(5-9a)  An(X, Y ) @ Hom ( A n(X ), Y )

(5-9b)  An(X ) @ A n(X )*

が成り立ちます。

 さて、任意のR-加群 X と任意の自然数 n に対し、X 上のnGrassmann代数が存在することを証明しましょう。
 X n から T n(X ) への標準写像 in による Nn の像が生成する T n(X ) の部分R-加群を Nn とし、T n(X )/NnAn(X ) と書き、inT n(X ) から An(X ) への標準写像 pn の合成写像を pn と置くと、これらの組が X 上のnGrassmann代数になります。
 実際、fÎAn(X, Y ) を任意に取ると、fÎTn(X, Y ) ですから、テンソル積の定義により f = j ° in となる Hom (T n(X ), Y ) が唯一つ存在します。
 ところが fNn 上で 0 ですから、jNn 上で 0 です。ゆえに Hom ( A n(X ), Y ) が唯一つ存在して j = y ° pn となり、ゆえに f = y ° pn となります。y の一意性も明らかです。

 さて、Nn の定義より明らかに Nm ´ Xn Ì Nm+n ですから、(4-26) により、任意の xÎNmyÎX n に対して im, n (im(x), in( y)) Î im+n [Nm+n ] Ì Nm+n が成り立ちます。
 そこで、まず y を任意に固定して im, n (x, in( y)) Î im+n [Nm+n ] Ì Nm+n を満たす x の全体を考えると、これは im [Nm ] を含む線形部分空間なので Nm を含みます。
 ゆえに、今度は Nm を任意に固定して im, n (x, h) Î im+n [Nm+n ] Ì Nm+n を満たす h の全体を考えると、これは in の像を含む線形部分空間なので T n(X ) を含みます。以上により

(5-10a)  im, n [Nm ´ T n(X )] Ì Nm+m

がわかり、同様に

(5-10b)  im, m [T n(X ) ´ Nn ] Ì Nm+m

が成り立ちます。

 さて、任意の Am(X )An(X ) に対して a = pn(x) , b = pn(h) となる T m(X )T n(X ) を取ります。このとき

(5-11)  im, n(x, h)ÎT m(X )ÄT n(X ) = T m+n(X )

ですが、

(5-12)  a ^ b = pm+n(im, n(x, h))

と置いて、これを abGrassmannあるいは交代積とよべば、これは x , h の取り方に依存しません。
 実際、pn(x) = pn(x' ) , pn(h) = pn(h' ) とすれば、x - x'ÎNm , h - h'ÎNn ですから、im, n の双線形性と (5-10) により

(5-13)  im, n(x, h) - im, n(x', h' ) = im, n(x - x', h) + im, n(x', h - h' )ÎNm+m

ですから、これに pm+m を施せば 0 になるからです。交代積は、(4-24b) により、明らかに結合律:

(5-14)  (a ^ b ) ^ g = a ^ (b ^ g )

が成り立ちます。また任意の Am(X )An(X ) に対して

(5-15)  b ^ a = (- 1)mn a ^ b

が成り立つことを証明しましょう。(5-12) によれば、(5-15) を証明するには

(5-16)  pm+n(in, m(h, x)) = (- 1)mn pm+n(im, n(x, h))

を示せば十分です。(5-7) により、任意の xÎX myÎX n に対して

(5-17)  pm+n(in, m(in( y), im(x))) = pm+n(im+n( y, x)) = pm+n( y, x) = (- 1)mn pm+n(x, y) = (- 1)mn pm+n(im+n(x, y)) = (- 1)mn pm+n(im, n(im(x), in( y)))

ですから、まず任意に固定した xÎX m に対し、

(5-18)  pm+n(in, m(h, im(x))) = (- 1)mn pm+n(im, n(im(x), h))

を満たす h の全体は in[X n] を含む T n(X ) の線形部分集合ですから T n(X ) に一致します。ゆえに任意の T n(X ) に対して (5-16) を満たす x の全体は im[X m] を含む T m(X ) の線形部分集合ですから T m(X ) に一致します。以上で (5-16) は一般に証明されました。

 さて、X のとき、A²(X ) の具体的定義 A²(X ) = T ²(X )/Nn から明らかなように

(5-19)  a ^ a = 0

が成り立ちます。また、aiÎX ( 1 £ i £ n ) のとき、任意の Sn に対して

(5-20)  as(1) ^ as(2) ^ ¼ ^ as(n) = (sgn s) a1 ^ a2 ^ ¼ ^ an

が成り立ちます。
 実際、s が隣り合う互換のときは、互換の符号が - 1 であることと m = n = 1 とした場合の (5-15) より明らかです。また任意の s に対しては、s は隣り合う互換の積に分解されるので、(1-29) により明らかです。

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