数学の基礎


14.群・環・体・束

 本節では具体的な代数系として、多くの分野で重要な役割を果たすを定義し、その性質を調べます。

 まず Ω|w| º 2 であるような演算の型 w のみからなり、V º {1, 2, 3} とし、xiv(1) , yiv(2) , ziv(3) と書き、V の自由演算系を (V*, j) と書くとき、x :º jw(jw(x, y), z) , h :º jw(x, jw(y, z)) と置いて、一個の元 (V, x, h) だけからなる集合を Λ と書けば、一つの代数系が得られますが、この圏の対象を半群とよびます。
 この場合、任意の半群 (A, y) における演算結果 yw(a, b) を乗法の形で a · b 又は単に ab と書くと、x º (x · y) · z , h º x · (y · z) となり、任意の h : V ® A に対して xh(1) , yh(2) , zh(3) と置くと x = h*(x) , y = h*(y) , z = h*(z) となるので、律を満たすという条件 h*(x) = h*(h) は、h* が準同型であることにより

(14-1)  (x · y) · z = (h*(x) · h*(y)) · h*(z) = h*((x · y) · z) = h*(x) = h*(h) = h*(x · (y · z)) = h*(x) · (h*(y) · h*(z)) = x · ( y · z)

と書けます。ここで x, y, zA から任意に取れますから、これは演算 ·結合律を満たすということに他なりません。そこで、見易さのために、一般に律 (V, x, h) のことを x = h という記号で表わすことにします。例えば結合律は

(14-2)  (x · y) · z = x · (y · z)

と書かれることになり、見た目分かり易くなります。なお、(14-2) は単なる記号であって等式ではありませんが、x = h*(x) などと置くことにより、この表示で xx 等に置き換えた等式が実際に成り立つので、(14-2) をあたかも等式であるかのようにして計算を行なうことができます。

 さて、半群の演算の型に加えて |e| º 0 であるような演算の型 e を持ち、律として

(14-3a)  e · x = x

(14-3b)  x · e = x

を持つとき、この代数系をモノイドの圏といい、e を演算 ·単位元といいます。

 更に、単位的半群の演算の型に加えて | ·-1| º 1 であるような演算の型 ·-1 を持ち、律として

(14-4a)  x-1 · x = e

(14-4b)  x · x-1 = e

を持つとき、この代数系をの圏といい、x-1x の演算 · に関する逆元といいます。
 ところで (14-3),(14-4) の4条件は、(14-3a)(14-4a) だけ仮定すれば残りは導出可能です。実際、

(14-5a)  x-1 · (x · x-1 ) = (x-1 · x) · x-1 = e · x-1 = x-1

(14-5b)  x · x-1 = e · (x · x-1 ) = ((x-1 )-1 · x-1 ) · (x · x-1 ) = (x-1 )-1 · (x-1 · (x · x-1 )) = (x-1 )-1 · x-1 = e

(14-5c)  x · e = x · (x-1 · x) = (x · x-1 ) · x = e · x = x

となるからです。同様に (14-3b)(14-4b) だけを仮定しても残りは導出可能です。

 ところで一般に、

(14-6)  xy = e  Þ  (  y = x-1 Ù  x = y-1 )

が成り立ちます。実際、両辺に左から x-1 を乗じて結合律と (14-4a),(14-3a),(14-3b) を使えば第一の式が得られ、両辺に右から y-1 を乗じて結合律と (14-4b),(14-3b),(14-3a) を使えば第二の式が得られます。
 特に (14-4) にこれを適用すれば、

(14-7)  (x-1 )-1 = x

が得られます。また

(14-8)  ( y-1x-1 )(xy) = (( y-1x-1 )x)y = ( y-1(x-1x))y = ( y-1e)y = y-1y = e

(14-6) を適用すれば、

(14-9)  (xy)-1 = y-1x-1

が得られます。また、群から群への関数 f は、半群の準同型であれば群の準同型になります。なぜなら

(14-10)  f(x) f(e) = f(xe) = f(x)

なので、左から f(x)-1 を乗じれば

(14-11)  f(e) = e

が得られ、また

(14-12)  f(x) f(x-1 ) = f(xx-1 ) = f(e) = e

なので、(14-6) により

(14-13)  f(x-1 ) = f(x)-1

となるからです。

 次に、モノイド A に一項演算 * が与えられていて

(14-14a)  e* = e

(14-14b)  x** = x

(14-14c)  (xy)* = y*x*

が成り立つとします。
 そこで、NÎSub(A) すなわち A の同値関係と両立する A の部分集合 N (第8節 (8-26) の直後参照)に対し、A 上の2項関係 »

(14-15)  x » y  :º  xy*ÎN

で定義するとき、»A のすべての演算と両立する同値関係で、しかも同値関係 » を持つ集合 A* を逆元演算とする群となるための、N に対する条件を求めてみましょう。
 まず、同値関係の同一律 x » x から、

(14-16a)  xx*ÎN

 また、x » e かつ y » e なら x » y でなければならないことと (14-14a),(14-15) により

(14-16b)  x, yÎN  Þ  xy*ÎN

また、xax*ÎN なら xa » x なので、左から (A, ») における逆元 x* を乗じれば a » e となるので、これと (14-14a),(14-15) により

(14-16c)  xax*ÎN  Þ  aÎN

が成り立たなければなりません。
 逆に (14-16) が成り立つとすると、まず (14-16a)xe を代入して (14-14a) を使うと

(14-17)  e = ee = ee*ÎN

 よって (14-16b)xeyx を代入すると、

(14-18)  xÎN  Þ  x* = ex*ÎN

 ゆえに再度 (14-16b) により

(14-19)  x, yÎN  Þ  x, y*ÎN  Þ  xy = x( y*)*ÎN

 ゆえに、これと (14-16c) により

(14-20a)  xy*ÎN  Þ  x( y*x)x* = (xy*)(xx*)ÎN  Þ  y*xÎN

(14-20b)  y*xÎN  Þ  y*(xy*)y** = ( y*x)( y*y**)ÎN  Þ  xy*ÎN

が成り立ちます。ゆえに (14-20a)(14-16a) により

(14-21)  x*xÎN

 ゆえに、これと (14-16a),(14-19),(14-16c) により

(14-22)  aÎN  Þ  x*(xax*)x** = (x*x)a(x*x**)ÎN  Þ  xax*ÎN

が成り立つことがわかります。さて、(14-16a),(14-15) により同一律が成り立ち、(14-14b),(14-14c),(14-18) により

(14-23)  x » y  Þ  xy*ÎN  Þ  yx* = y**x* = (xy*)*ÎN  Þ  y » x

となるので対称律が成り立ち、(14-19),(14-16c),(14-20b) により

(14-24)  x » y, y » z  Þ  xy*, yz*ÎN  Þ  y(z*x)y* = ( yz*)(xy*)ÎN  Þ  z*xÎN  Þ  xz*ÎN  Þ  x » z

により推移律が成り立ち、(14-14b),(14-20a) により

(14-25)  x » y  Þ  xy*ÎN  Þ  y*x** = y*xÎN  Þ  y* » x*

により演算 * と両立することがわかり、(14-14c),(14-22) により

(14-26a)  x » y  Þ  xy*ÎN  Þ  (zx)(zy)* = zxy*z* = z(xy*)z*ÎN  Þ  zx » zy

 よって (14-25),(14-26a) を組み合わせて、

(14-26b)  x » y  Þ  x* » y*  Þ  (xz)* = z*x* » z*y* = ( yz)*  Þ  xz = (xz)** » ( yz)** = yz

となるので、» は乗法とも両立することがわかり、(14-16) が、»A のすべての演算と両立する同値関係であるための必要十分条件であることがわかりました。

 以上の結果を、A がそれ自身群であって、* が逆元をとる演算である場合に適用してみましょう。
 群の圏では、乗法の単位元が存在するため、明らかに始対象も終対象も一個の元を持つ集合になり、ゆえに零対象となります。ゆえに群の準同型 f : A ® B に対する ker f pull( f, 0) を考えると、

(14-27)  Ker f @ { (x, y)ÎA ´ 0 |  f(x) = 0( y) } = { (x, 0)ÎA ´ 0 |  f(x) = 0 } @ { xÎA |  f(x) = 0 }

が成り立ちます。
 ここで、(14-16) を満たす NÎSub(A) が与えられたとき、A の同値関係 »(14-15) で定義し、同値関係として » を持つ集合 AA' と書くと、A' も群になり、恒等写像 f : A ® A' は明らかに群の準同型になります。このとき

(14-28)  f(x) » e  Û  x » e  Û  xe-1ÎN  Û  xÎN

 すなわち

(14-29)  Ker f = N

 すなわち N は群の圏の正規部分空間、すなわち正規部分群になることがわかります。逆に N が正規部分群 Ker f なら、

(14-30a)  f(xx-1 ) = f(x) f(x)-1 = e

(14-30b)  f(x) = f( y) = e  Þ  f(xy-1 ) = f(x) f( y)-1 = ee-1 = ee = e

(14-30c)  f(a) = e  Þ  f(xax-1 ) = f(x) f(a) f(x-1 ) = f(x)ef(x-1 ) = f(x) f(x)-1 = e

なので (14-16a),(14-16b),(14-22) が成り立ちます。一方 * が群の逆元をとる演算であることから、(14-16a)(14-17) と同値になり、また (14-22) が成り立てば、

(14-31)  xax-1ÎN  Þ  a = eae = (x-1x)a(x-1(x-1 )-1 ) = x-1(xax-1 )((x-1 )-1 )ÎN

ですから (14-16c) が成り立ちます。すなわち (14-16) の組又は

(14-32a)  eÎN

(14-32b)  x, yÎN  Þ  xy-1ÎN

(14-32c)  aÎN  Þ  xax-1ÎN

の組は、NÎSub(A) が正規部分群であるための必要十分条件であることがわかりました。

 さて、一般に HÎSub(G) を群 G部分群、すなわち群の圏における部分空間とします。x, yÎG に対し、x-1yÎH のとき x H= y と定めれば、

(14-33a)  x-1x = eÎH

(14-33b)  x-1yÎH  Þ  y-1x = (x-1 y)-1ÎH

(14-33c)  x-1y, y-1zÎH  Þ  x-1z = (x-1y)( y-1z)ÎH

ですから、H=G の同値関係になりますが、この同値関係を持つ集合 G のことを GH による左剰余類といい、G/H で表わします。
 同様に、x, yÎG に対し、xy-1ÎH のとき x =H y と定めれば、明らかに =HG の同値関係になりますが、この同値関係を持つ集合 G のことを GH による右剰余類といい、G\H で表わします。
 特に H が正規部分群の場合は、任意の xÎG に対して xHx-1 Ì H ですから x-1yÎH  Þ  yx-1 = yx-1yy-1ÎyHy-1Ì H 及びその逆が成り立つので左右の剰余類は一致し、しかも群になります。

 さて、G を群、X を同値関係 = を持つ集合とし、各 aÎG に対して関数 ja : X ® X が与えられ、

(14-34a)  je = idG

(14-34b)  jab = ja ° jb

を満たすとき、GX への作用といいます。明らかに ja-1ja の逆写像ですから、ja は全単射です。
 例えば G を群、H をその部分群、X(G, H=) と置くとき、ja(x)ax と置けば、任意の aÎG に対して

(14-35)  x H= y  Þ  y-1xÎH  Þ  (ay)-1(ax) = y-1a-1ax = y-1xÎH  Þ  ax H= ay

ですから、jaX からそれ自身への関数であり、明らかに (14-34) を満たします。同様に、

(14-36a)  ye = idG

(14-36b)  yab = yb ° ya

が成り立つとき、yaGX への余作用ということにします。余作用も全単射で、群 G の部分群 H に対して Y(G, =H ) と置けば ya(x)xaGY への余作用です。

 さて、半群、単位的半群、群の律に加えて、交換律

(14-37)  x · y = y · x

を持つ代数系を、それぞれ可換半群可換モノイド可換群(Abel群)の圏といいます。可換な場合、x · y-1 = y-1 · x のことを x / y と書くことがあり、また演算 · 自体をしばしば + と書き、その場合は単位元を 0x の逆元を - x で表わし、x + (- y)x - y と書きます。この記法では、(14-3),(14-4),(14-6),(14-7),(14-9) はそれぞれ

(14-38a)  x + 0 = 0

(14-38b)  0 + x = 0

(14-39a)  - x + x = 0

(14-39b)  x - x = 0

(14-40)  x + y = 0  Þ  ( y = - x  Ù  x = - y )

(14-41)  - (- x) = x

(14-42)  - (x + y) = - y - x = - x - y

と書くことができます。

 次に、可換半群の演算である加法 + に加えて乗法とよばれる演算 · が与えられ、乗法に関する結合律 (14-2) と、加法との間の分配律

(14-43a)  (x + y) · z = x · z + y · z

(14-43b)  z · (x + y) = z · x + z · y

を持つとき、この代数系を半環の圏とよぶことにします。半環の圏が、更に加法の単位元 0 を持ち、律として

(14-44a)  0 · x = 0

(14-44b)  x · 0 = 0

を加えたものをモノイド環の圏とよぶことにします。モノイド環が、更に加法に関してAbel群になっているとき、この代数系をの圏とよびます。
 環の圏では、(14-43)y0 と置くと、それぞれ

(14-45a)  x · z = (x + 0) · z = x · z + 0 · z

(14-45b)  z · x = z · (x + 0) = z · x + z · 0

となるので、左からそれぞれ x · z 及び z · x の加法に関する逆元を加えることにより、(14-44) を定理として導くことができます。
 また、(14-43)y- x と置くと、(14-44) により、それぞれ

(14-46a)  0 = 0 · z = (x + (- x)) · z = x · z + (- x) · z

(14-46b)  0 = z · 0 = z · (x + (- x)) = z · x + z · (- x)

となるので、(14-40) により

(14-47a)  (- x) · z = - (x · z)

(14-47b)  z · (- x) = - (z · x)

が成り立ちます。更に (14-47a)z- z を代入して (14-41) を用いれば、

(14-48)  (- x) · (- z) = - (x · (- z)) = - (- (x · z)) = x · z

が成り立ちます。これらの関係を用いると、展開公式として

(14-49a)  (x + y) · (u + v) = x · (u + v) + y · (u + v) = x · u + x · v + y · u + y · v

(14-49b)  (x + y) · (u - v) = x · u + x · (- v) + y · u + y · (- v) = x · u - x · v + y · u - y · v = (x · u + y · u) - (x · v + y · v)

(14-49c)  (x - y) · (u + v) = x · u + x · v + (- y) · u + (- y) · v = x · u + x · v - y · u - y · v = (x · u + x · v) - ( y · u + y · v)

(14-49d)  (x - y) · (u - v) = x · u + x · (- v) + (- y) · u + (- y) · (- v) = x · u - x · v - y · u + y · v = (x · u + y · v) - (x · v + y · u)

が得られます。

 さて、半環 A に対し、加法に対する (14-14) すなわち

(14-50a)  0* = 0

(14-50b)  x** = x

(14-50c)  (x + y)* = x* + y*

に加えて

(14-50d)  (xy)* = x*y = xy*

を満たす演算 * が与えられたとき、NÎSub(A) に対し、関係 » を、加法に関する (14-15) 、すなわち

(14-51)  x » y  :º  x + y*ÎN

で定義するとき、»A のすべての演算と両立する同値関係で、しかも同値関係 » を持つ集合 A* を逆元演算とする環となるための N が満たすべき条件を求めてみましょう。まず、群のときの議論により、(14-16) を加法に対して書き直したもの:

(14-52a)  x + x*ÎN

(14-52b)  x, yÎN  Þ  x + y*ÎN

(14-52c)  x + a + x*ÎN  Þ  aÎN

が成り立つことは必須ですが、更に、» が乗法と両立することから aÎN すなわち a » 0 なら ax » 0x » 0 及び xa » x0 » 0 でなければならないので、更に

(14-52d)  aÎN  Þ  ax, xaÎN

が成り立たなければなりません。逆に (14-52) が成り立てば、

(14-53a)  a » b  Þ  a + b*ÎN  Þ ax + (bx)* = ax + b*x = (a + b*)xÎN  Þ  ax » bx

(14-53b)  a » b  Þ  a + b*ÎN  Þ xa + (xb)* = xa + xb* = x(a + b*)ÎN  Þ  xa » xb

となり、乗法とも両立します。ゆえに (14-52) が、»A のすべての演算と両立する同値関係であるための必要十分条件であることがわかりました。

 以上の結果を、A がそれ自身環であって、* が加法の逆元をとる演算である場合に適用してみましょう。
 環の圏では、加法の単位元のみが必ず存在するため、明らかに始対象も終対象も一個の元を持つ集合になり、ゆえに零対象となります。ゆえに環の準同型 f : A ® B に対する ker f pull( f, 0) を考えると、やはり (14-27),(14-29) が成り立ちます。

 すなわち N は環の圏の正規部分空間になることがわかります。環の正規部分空間をイデアルとよびます。逆に N がイデアル Ker f なら、群のときの議論により、(14-52a)~(14-52c) が成り立ち、更に

(14-54a)  f(a) = 0  Þ  f(ax) = f(a) f(x) = 0f(x) = 0

(14-54b)  f(a) = 0  Þ  f(xa) = f(x) f(a) = f(x)0 = 0

なので (14-52d) も成り立ちます。一方 * が加法の逆元をとる演算であることから、(14-52a)N と同値になり、また (14-52c) は加法の交換律により自明に成り立っています。従って、

(14-55a)  N

(14-55b)  x, yÎN  Þ  x - yÎN

(14-55c)  aÎN  Þ  ax, xaÎN

の組は、N がイデアルであるための必要十分条件であることがわかりました。
 環 A のイデアル N に対し、(14-51) で定義される同値関係 » を組み合わせた集合 A は環になりますが、これを A/N と表わします。

 さて、半環、モノイド環、環は、乗法の単位元 1 を持つとき“単位的”という形容詞を付け、乗法に対する交換律 (14-37) を持つとき“可換”という形容詞を付けます。

 単位的環 R の元 a は、ab = 1 を満たす bÎR が存在するとき右可逆であるといい、このような ba右逆元といいます。
 同様に、ca = 1 を満たす cÎR が存在するとき左可逆であるといい、このような ca左逆元といいます。
 aÎR が右逆元と左逆元を持てば、これらは一致します。なぜなら、ab = 1 かつ ca = 1 なら、前者の両辺に左から c を乗じ、後者の両辺に右から b を乗じれば cab = c かつ cab = b となるからです。このとき a可逆であるといい、b = c のことを a逆元とよんで a-1 と書きます。逆元は、存在すれば明らかに = について一意的です。
 明らかに単位元 R は可逆で 1 がその逆元です。また、可逆元 a, bÎR の積 ab は明らかに可逆で b-1a-1 がその逆元になります。更に、a が可逆なら a-1 も可逆で、a がその逆元になります。
 単位的環 R の可逆な元の全体を R´ と書きます。これは、今示したように乗法に関して群となるので、R´ を単位的環 R に伴う乗法群といいます。
 なお、単位的可換環の場合は、明らかに右可逆又は左可逆なら可逆であり、右(左)逆元が逆元になります。

 さて、環 A の元 x , y に対し、その交換積

(14-56)  [x, y]xy - yx

で定義すると、

(14-57a)  [x, x] = 0

(14-57b)  [x, y] = - [ y, x]

(14-58a)  [xy, z] = xyz - zxy = xyz - xzy + xzy - zxy = x[ y, z] + [x, z] y

(14-58b)  [x, yz] = xyz - yzx = xyz - yxz + yxz - yzx = [x, y] z + y [x, z]

及びJacobiの恒等式

(14-59)  [x, [ y, z]] + [ y, [z, x]] + [z, [x, y]] = x[ y, z] + [z, y]x + y[z, x] + [x, z] y + z[x, y] + [ y, x]z = [xy, z] + [ yz, x] + [zx, y] = 0

が成り立ちます。また、もし [x, y]x可換ならば、自然数 n ³ 1 に対して

(14-60)  [xn, y] = nxn-1 [x, y]

が成り立ちます。実際、n = 1 なら明らかです。n で成り立つとすれば、(14-58a) と帰納法の仮定により、

(14-61)  [xn+1, y] = [xxn, y] = x[xn, y] + [x, y]xn = xnxn-1[x, y] + xn [x, y] = (n + 1)xn [x, y]

となって帰納法が完成し、(14-60) は証明されました。

 次に、R を単位的環とし、演算の型として Ω{ +, 0, - }ÈR を持ち、+, 0, - に関してAbel群の律を持ち、更に各 aÎR に対して |a| º 1 とし、a に対する演算を x |® ax と書くことにして、すべての a, bÎR に対する次の律:

(14-62a)  1x = x

(14-62b)  a(bx) = (ab)x

(14-62c)  a(x + y) = ax + ay

(14-62d)  (a + b)x = ax + bx

を持つとき、この代数系をR-加群の圏といいます。R-加群に対しても、(14-43) から (14-44),(14-47),(14-48) を導いたのと同じ方法で、(14-62c),(14-62d) から

(14-63a)  0x = a0 = 0

(14-63b)  (- a)x = a(- x) = - (ax)

(14-63c)  (- a)(- x) = ax

が導かれます。

 さて、次に群と環について、対応する強代数系を考え、それぞれ強群および強環とよぶことにします。
 集合 A が不等号 ¹ に伴う同値関係 = のもとでになっているとき、A が不等号 ¹ に伴う強群であるためには、乗法と逆元を取る操作が強関数である、すなわち

(14-64a)  ab ¹ cd  Þ  ( a ¹ c  Ú  b ¹ d )

(14-64b)  a-1 ¹ b-1  Þ  a ¹ b

が成り立つことが必要十分です。
 強群では、(14-64a)b , c , d にそれぞれ c , b , c を代入すれば

(14-65a)  ac ¹ bc  Þ  a ¹ b

が導かれ、(14-64a)a , b , d にそれぞれ c , a , b を代入すれば

(14-65b)  ca ¹ cb  Þ  a ¹ b

が得られます。また、(14-65a)a , b , c にそれぞれ ac , bc , c-1 を代入すれば、逆が導けるので、

(14-66a)  a ¹ b  Û  ac ¹ bc

が得られます。同様に、(14-65b)a , b , c にそれぞれ ca , cb , c-1 を代入すれば、逆が導けるので、

(14-66b)  a ¹ b  Û  ca ¹ cb

が得られます。特に、(14-66)cb-1 を代入することにより、

(14-67)  a ¹ b  Û  ab-1 ¹ e  Û  b-1a ¹ e

が得られますが、実は条件 (14-64),(14-65),(14-66),(14-67) は互いに同値であり、従ってこのいずれかの条件を満たせば A は不等号 ¹ を持つ強群になることが示せます。
 実際、(14-64) Þ (14-65) Þ (14-66) Þ (14-67) は既に示されていますが、(14-67) を仮定すると

(14-68a)  a ¹ b  Û  ab-1 ¹ e  Û  acc-1b-1 ¹ e  Û  ac(bc)-1 ¹ e  Û  ac ¹ bc

(14-68b)  a ¹ b  Û  b-1a ¹ e  Û  b-1c-1ca ¹ e  Û  (cb)-1ca ¹ e  Û  ca ¹ cb

となるので (14-66) が得られます。
 また、(14-66) が成り立つと仮定し、ab ¹ cd とすると、(8-33c) により ad ¹ ab 又は ad ¹ cd が成り立ち、(14-66) により d ¹ b 又は a ¹ c が導かれるので (14-64a) が得られ、a-1 ¹ b-1 なら、両辺に左から a を、右から b を乗じて (14-66) を用いると b ¹ a が導かれるので (14-64b) が得られます。
 以上で (14-64),(14-65),(14-66),(14-67) の同値性が証明されました。

 ところで (14-64a)cd に共に e を代入することにより、

(14-69)  ab ¹ e  Þ  ( a ¹ e  Ú  b ¹ e )

が成り立つことに注意します。

 次に、集合 A が不等号 ¹ に伴う同値関係 = のもとでになっているとき、A が不等号 ¹ に伴う強環であるためには、加法と加法の逆元を取る操作と乗法が強関数である、すなわち

(14-70a)  a + b ¹ c + d  Þ  ( a ¹ c  Ú  b ¹ d )

(14-70b)  - a ¹ - b  Þ  a ¹ b

の2条件に加えて (14-64a) が成り立つことが必要十分です。
 強群のときの議論を A の加法群に対して適用すると、加法群は可換群であることから、条件の組 (14-70) は、

(14-71)  a + c ¹ b + c  Þ  a ¹ b

(14-72)  a ¹ b  Û  a + c ¹ b + c

(14-73)  a ¹ b  Û  a - b ¹ 0

のいずれの一つとも同値であることがわかります。
 また、(14-64a) は次の条件:

(14-74)  ab ¹ 0  Þ  ( a ¹ 0  Ù  b ¹ 0 )

と同値です。
 実際、(14-64a)cd にそれぞれ 0b を代入することにより、ab ¹ 0  Þ  a ¹ 0 が得られ、(14-64a)cd にそれぞれ a0 を代入することにより、ab ¹ 0  Þ  b ¹ 0 が得られるので (14-74) が導かれます。
 逆に、(14-74) を仮定して ab ¹ cd とすれば、両辺に - ad を加えて (14-72) を用いれば a(b - d ) ¹ (c - a)d が得られますが、ここで (8-33c) を用いれば、a(b - d) ¹ 0 又は (c - a)d ¹ 0 が得られ、ここで (14-74) を使うと b - d ¹ 0 又は c - a ¹ 0 が得られ、(14-73) により b ¹ d 又は a ¹ c が導かれるので (14-64a) が得られます。

 なお、(14-69) に対応する加法群の性質として

(14-75)  a + b ¹ 0  Þ  ( a ¹ 0  Ú  b ¹ 0 )

が成り立つことに注意します。

 また、0 ¹ 1 と、(14-74) の逆の条件:

(14-76)  ( a ¹ 0  Ù  b ¹ 0 )  Þ  ab ¹ 0

を満たす単位的可換強環のことを整域とよぶことにします。
 整域では、自然数 n > 0 に対して

(14-77)  a ¹ 0  Û  an ¹ 0

が成り立つことを帰納法で証明しましょう。
 実際、n = 0 のときは自明ですが、n で正しいと仮定すると、(14-74),(14-76)b = an と置くことにより、( a ¹ 0  Ù  an ¹ 0 )  Û  an+1 ¹ 0 となるので、帰納法の仮定により a ¹ 0  Û  an+1 ¹ 0 が得られます。
 また、(14-77) の対偶を取れば

(14-78)  a = 0  Û  an = 0

が得られます。

 一般に、0 ¹ 1 を満たす単位的可換強環では、aÎR´ ならば、(14-74)b º a-1 と置くことにより a ¹ 0 がわかります。そこでこの逆、すなわち 0 ¹ 1 であって、aÎR , a ¹ 0 なら aÎR´ となるような単位的可換強環のことをとよぶことにします。
 体では a, b ¹ 0 なら a, bÎR´ なので、R´ が群であることから abÎR´ 従って ab ¹ 0 ですから、体は整域であることがわかります。

 さて、次はです。2項演算の型 ñ , ò と律:

(14-79a)  x ñ y = y ñ x

(14-79b)  x ò y = y ò x

(14-79c)  (x ñ y) ñ z = x ñ (y ñ z)

(14-79d)  (x ò y) ò z = x ò (y ò z)

(14-79e)  (x ñ y) ò x = x

(14-79f)  (x ò y) ñ x = x

を持つ代数系をの圏といいます。
 (14-79a),(14-79b) は交換律、(14-79c),(14-79d) は結合律ですが、(14-79e),(14-79f)吸収律とよばれます。束は冪等律

(14-80a)  x ñ x = x

(14-80b)  x ò x = x

を満たします。
 実際、(14-49f)yx ñ x を代入して (14-79b) を用いれば ((x ñ x) ò x) ñ x = x が得られ、(14-79e)yx を代入した式を用いれば (14-80a) が得られます。また対称性により (14-80b) も得られます。
 また、(14-79a),(14-79b),(14-79e),(14-79f) により

(14-81)  xñ y = y   Û   y òx = x

が成り立つので、この両辺のいずれかが成り立つことを x £ y と書けば、(14-80) により x £ x が成り立ち、また x £ y かつ y £ z なら (14-79c) により xñ z = xñ( yñ z) = (xñ y)ñ z = yñ z = z ですから x £ z であることがわかり、二項関係 £擬順序になります。しかも定義から明らかに、= に関して半順序、すなわち

(14-82)  ( x £ y  Ù  y £ x )  Þ  x = y

が成り立つことがわかります。

 逆に、同値関係 = と半順序 £ を持つ集合 L は、任意の2元 x , y上限 xñ y下限 xòy を持てば、明らかに (14-79) の条件をすべて満たすので束になります。

 束 H は、最大値 1 と最小値 0 を持ち、任意の x, yÎH に対して

(14-83)  xðy max { zÎH | z òx £ y }

が存在するときHeyting代数といいます。(14-83) の条件は

(14-84)  z £ xðy  Û  z òx £ y

と同値であることに注意します。明らかに、Heyting代数の有限部分集合は上限と下限を持ちます。

 さて、一般に、分配律

(14-85a)  xñ( y òz) = (xñ y)ò(xñ z)

(14-85b)  xò( yñ z) = (xòy)ñ(xòz)

を満たす束を分配束といいます。

 Heyting代数は分配束です。
 実際、一般の束に対して、x £ xñ yx £ xñ z により x £ (xñ y)ò(xñ z) が成り立ち、y £ xñ yz £ xñ z から y òz £ (xñ y)ò(xñ z) が成り立つので、(14-85a)(左辺) £ (右辺) は常に成り立ちます。
 同様に、やはり一般の束に対して、x ³ xòyx ³ xòz により x ³ (xòy)ñ(xòz) が成り立ち、y ³ xòyz ³ xòz から yñ z ³ (xòy)ñ(xòz) が成り立つので、(14-85b)(左辺) ³ (右辺) も常に成り立ちます。

 逆向きの不等号は、(14-84) を用いて次のように証明することができます。

 まず y òz £ xñ( y òz) により y £ zð(xñ( y òz)) が得られ、他方で xòz £ x £ xñ( y òz) により x £ zð(xñ( y òz)) が得られます。
 ゆえに xñ y £ zð(xñ( y òz)) が得られますが、これは (xñ y)òz £ xñ( y òz) と、従って z £ (xñ y)ð(xñ( y òz)) と同値です。
 一方、明らかに (xñ y)òx = x £ xñ( y òz) が成り立ちますが、これは x £ (xñ y)ð(xñ( y òz)) と同値です。
 ゆえに xñ z £ (xñ y)ð(xñ( y òz)) が成り立ちますが、これは (xñ y)ò(xñ z) £ xñ( y òz) と同値ですから、これで (14-85a) が証明されました。

 次に xòy £ (xòy)ñ(xòz) により y £ xð((xòy)ñ(xòz)) が得られます。
 同様に、xòz £ (xòy)ñ(xòz) により z £ xð((xòy)ñ(xòz)) が得られます。
 ゆえに yñz £ xð((xòy)ñ(xòz)) が得られますが、これは xò( yñ z) £ (xòy)ñ(xòz) と同値です。以上で (14-85b) も証明されました。

 Heyting代数は、更に条件

(14-86)  (xð0)ñ x = 1

を満たすときBoole代数といいます。

 さて、z òx £ 0z £ xð0 の同値性において zxð0 を代入すると、(xð0)òx £ 0 すなわち (xð0)òx = 0 が得られます。そこで

(14-87)  ùx  :º  xð0

と定義すると、この事実と (14-86)

(14-88a)  xò(ùx) = 0

(14-88b)  xñ(ùx) = 1

と書くことができます。

 さて、最大値 1 と最小値 0 を持ち、(14-88) を満たす演算 ù を持つ分配束 BBoole代数になります。
 実際、まず

(14-89)  xðy (ùx)ñ y

と置いて、BHeyting代数になることを証明しましょう。
 実際、(14-85b)(14-88a) により、(xðy)òx = ((ùx)ñ y)òx = ((ùx)òx)ñ( y òx) = 0ñ( y òx) = y òx £ y が成り立ちます。
 また z òx £ y なら、(14-88b)(14-85a) により、z £ (ùx)ñ z = ((ùx)ñ z)ò1 = ((ùx)ñ z)ò((ùx)ñ x) = (ùx)ñ(z òx) £ (ùx)ñ y = xðy となります。
 これらは xðy = max { zÎB | z òx £ y } が成り立つことを意味するので、確かに BHeyting代数になることがわかりました。

 最後に xð0 = (ùx)ñ 0 = ùx となりますから、これと (14-88b) により (14-86) が成り立つことがわかり、BBoole代数になることがわかります。

 さて、一般に分配束では、各 x に対し、(14-88) を満たす ùx は、存在すれば一意的です。
 実際、yz(14-88)ùx の性質を持つとすると、z = zñ 0 = zñ(xòy) = (zñ x)ò(zñ y) = 1ò(zñ y) = zñ y ですから y £ z が成り立ちますが、yz を入れ替えれば z £ y が成り立つので、(14-82) により y = z が成り立つからです。

 この事実から直ちに、Boole代数では

(14-90)  ùùx = x

及び

(14-91a)  ù0 = 1

(14-91b)  ù1 = 0

が成り立つことがわかります。また

(14-92)  x £ y  Û  ùy £ ùx

が成り立ちます。
 実際、x £ y なら (14-88a) により xò(ùy) £ yò(ùy) = 0 となるので (14-84),(14-87) により ùy £ xð0 = ùx により (左辺) Þ (右辺) が得られ、(14-90) により逆も得られます。
 すなわち演算 ù は擬順序 £ の大小を入れ替えることがわかります。従って特に、De Morganの法則

(14-93a)  ù(xñ y) = (ùx)ò(ùy)

(14-93b)  ù(xòy) = (ùx)ñ(ùy)

が成り立つこともわかります。

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