数学の基礎


50.代数閉体と代数的数

 単位的可換環 R は、n ³ 1 に対する任意のn次多項式 p が必ず根 R を持つとき代数閉環といい、特に R が体 K のとき代数閉体といいます。更に K可識体(定義は第16節冒頭参照)なら、これは 0 でない任意の多項式が根を持つことと同値です。
 n次多項式 pÎR[x] が根 a1 を持てば、因数定理 (16-30) により

(50-1)  p(x) = (x - a1 )q(x)

となるn - 1次の多項式 qÎR[x] が存在します。もし n - 1 ³ 1 なら、代数閉環の定義により、q は根 a2 を持ちます。以下同様にして

(50-2)  p(x) = c(x - a1 )(x - a2 )¼(x - an )

因数分解されます。ここで c0次の多項式、すなわち R の可逆元です。

 Q を代数閉環、RQ の単位元を持つ部分環とします。このとき Q の元 a は、ある自然数 n に対する R 上のn次多項式 p の根になっているとき R 上代数的であるといい、R 上代数的な Q の全体を R と書き、これを R代数閉包といいます。
 R の元 a は、一次式 x - a の根ですから R 上代数的です。すなわち

(50-3)  R Ì R

が成り立ちます。

 次に、R代数閉環であることを証明するために、対称式について若干の性質を調べます。

 単位的可換環 R と集合 S に対し、R[S] をそれらに伴う多項式環、環準同型 i : R ® R[S]i : S ® R[S] を標準写像とします。このとき、任意の全単射 a : S ® S に対して i ° aS から R[S] への写像ですから、i = j ° i 及び i ° a = j ° i を満たす環準同型 j : R[S] ® R[S] が唯一つ存在します。この ja による変数の入れ替えといいます。
 pÎR[x] は、変数の任意の入れ替え j について不変、すなわち j( p) = p を満たすとき、S 上の対称式といいます。
 特に、S が相異なるn個の元 { xi | 1 £ i £ n } からなる集合とするとき、多項式環 R[S]R 上のn変数多項式環といい、R[x1 ,¼, xn ] とも書き、i(a)ai(xi )xi と略記します。また、この場合の S 上の対称式をn変数の対称式といいます。
 次の形のn変数多項式:

(50-4)  sk  
å
1 £ i1 < ¼ < ik £ n
xi1¼ xik       ( 1 £ k £ n )

n変数の基本対称式といいます。
 ここで、任意のn変数対称式 p は、基本対称式の多項式:

(50-5)  p =  L
å
 l = 0 
 
å
1 £ k1 £ ¼ £ kl £ n
ak1¼kl sk1¼ skl       ( ak1¼klÎR )

として書けることを証明しましょう。
 実際、p

(50-6)  p =  K
å
 k = 0 
 
å
1 £ i1 £ ¼ £ ik £ n
bi1¼ik xi1¼ xik       ( bi1¼ikÎR )

の形に一意に書けますが、与えられた添字の組 i1 £ ¼ £ ik に対し、その中で j回以上現れる添字の個数を ej と書くと、e1 ³ e2 ³ ¼ ³ em ³ 1 , ej = 0 (  j > m ) 及び e1 + e2 + ¼ + em = k が成り立ちます。そこで (e1 ,¼, em ) のことを、添字の組 i1 , ¼ , ikとよんで t(i1 , ¼ , ik ) と書くことにします。
 このとき、p が対称式であることから、2組の添字の組 i1 £ ¼ £ ikj1 £ ¼ £ jl に対し、t(i1 ,¼, ik ) = t( j1, ¼, jl ) なら bi1¼ik = bj1¼jl となります。
 ゆえに、e1 ³ e2 ³ ¼ ³ em ³ 1 を満たす自然数の組に対して

(50-7)  S(e1 ,¼, em )  
å

t(i1 ,¼, ik ) = (e1 ,¼, em )
xi1¼ xik

と置くと

(50-8)  p =  M
å
 m = 1 
 
å
e1 ³ ¼ ³ em ³ 1
ce1¼em S(e1 ,¼, em )       ( ce1¼emÎR )

と書けます。ゆえに、各 S(e1 ,¼, em ) が基本対称式の多項式として書けることを示せば十分ですが、これを高さ m に関する帰納法により証明することにし、その証明の中で、更に頂上の長さ em に関する帰納法を用いることにします。
 まず、m = 1 なら S(e) = se ですから明らかです。
 次に、高さが m 未満なら正しいと仮定します。このとき e1 ³ e2 ³ ¼ ³ em-1 ³ e ³ 1 なら
(50-9)  S(e1 ,¼, em-1 ) se =

å
 
f1 + ¼ +  fm = e1 + ¼ + em-1 + e
 fi+1 £ ei £  fi
  ( 1 £ i < m )
æ
è
 f1 -  f2
 f1 - e1
ö
ø
¼ æ
è
 fm-1 -  fm
 fm-1 - em-1
ö
ø
Sf1 ,¼,  fm )

が成り立つことを証明しましょう。ただし  fm = 0 の場合、Sf1 ,¼,  fm )Sf1 ,¼,  fm-1 ) を意味するものとします。
 実際、t(i1 ,¼, ik ) =f1 ,¼,  fm ) であるような xi1¼ xik を任意に取ります。
 これを t(i'1 ,¼, i'k' ) = (e1 ,¼, em-1 ) であるような xi'1¼ xi'k'i"1 < ¼ < i"e であるような xi"1¼ xi"e の積として表す方法が何通りあるかを数えてみましょう。
 xi1¼ xik の中で、ちょうど i 回現れる  fi -  fi+1 個の添字のうち、xi"1¼ xi"e 起源のものは  fi - ei 個ありますが、その選び方は全部で  fi -  fi+1C fi - ei 通りありますから、これをすべての i について乗じれば、(50-9) の右辺の係数が得られます。
 さて、(50-9) の右辺の項のうち、S(e1 ,¼, em-1 , e) すなわち  fi = ei ( 1 £ i £ m - 1 ) ,  fm = e であるような項の係数は 1 であり、それ以外の項では  fm < e が成り立っています。
 従って、S(e1 ,¼, em-1 , e) は、1 £  fm < e すなわち頂上の長さが e より小さいか、 fm = 0 すなわち高さが m 未満であるような Sf1 ,¼,  fm ) と、(50-9) の左辺、すなわち高さが m 未満の S(e1 ,¼, em-1 ) に基本対称式 se を乗じたものの和として表されることがわかりました。
 ゆえに高さに関する帰納法の仮定、次いで頂上の長さに関する帰納法の仮定により、S(e1 ,¼, em-1 , e) は基本対称式の多項式として表されることがわかり、帰納法が完成しました。

 さて、pR 上の多項式:

(50-10)  p = n
å
k=0
pk x k       (  piÎR )

とすると、これは Q において (50-2) の形に因数分解できますから、その右辺を展開して、(50-10)n - k次の係数を比較すれば、

(50-11)  pn-k = (- 1)k pn sk(a1 ,¼, an )       ( 1 £ k £ n )

となることがわかります。ただし sk(a1 ,¼, an ) は、基本対称式 (50-4) の各 xiai を代入したものを表します。

 以上の結果を用いて R が代数閉環であることを証明しましょう。
 まず、a, R とし、pq をそれぞれ ab を根に持つ、n次及び m次の多項式とします。それぞれに最高次の係数の逆元を乗じることにより、最高次の係数は 1 であると仮定することができます。
 また、(50-1)~(50-2) のプロセスにより、a1 = a であるような p の根の組 ai ( 1 £ i £ n )b1 = b であるような q の根の組 bi ( 1 £ i £ m ) により

(50-12a)  p = n
å
k=0
pk x k = (x - a1 )(x - a2 )¼(x - an )       (  piÎR , pn = 1 )

(50-12b)  q = m
å
k=0
qk x k = (x - b1 )(x - b2 )¼(x - bm )       ( qiÎR , qm = 1 )

と書け、

(50-13a)  sk(a1 ,¼, an ) = (- 1)k pn-k       ( 1 £ k £ n )

(50-13b)  sk(b1 ,¼, bm ) = (- 1)k qm-k       ( 1 £ k £ m )

が成り立ちます。
 このとき、sij± :º ai ± bj ( 1 £ i £ n , 1 £ j £ m ) と置くと、

(50-14a)   n
Õ
i=1
 m
Õ
 j=1
(x - sij± ) =  m
Õ
 j=1
 n
Õ
i=1
(x ± bj - ai ) =  m
Õ
 j=1
 p(x ± bj ) =  m
Õ
 j=1
n
å
k=0
 pk (x ± bj )k =  nm
å
k=0
jk±(b1 ,¼, bm ) x k

と書けますが、jk±R におけるm変数の対称式ですから、基本対称式の多項式で書けます。
 ゆえに (50-13b) により、これは R の元 qi の多項式で書けます。すなわち jk±(b1 ,¼, bm )ÎR ですから、(50-14a)R 上のnm次多項式で、a ± b はその根になっている、言い換えると a ± bÎR が成り立つことがわかりました。
 また、pij :º ai bj ( 1 £ i £ n , 1 £ j £ m ) と置くと、

(50-14b)   n
Õ
i=1
 m
Õ
 j=1
(x - pij ) =  n
Õ
i=1
 m
Õ
 j=1
(x - ai bj ) =  n
Õ
i=1
m
å
k=0
(- 1)k aik sk(b1 ,¼, bm ) x m-k =  n
Õ
i=1
m
å
k=0
qm-k aik x m-k =  nm
å
k=0
yk(a1 ,¼, an ) x k

と書けますが、ykR におけるn変数の対称式ですから、基本対称式の多項式で書けます。
 ゆえに (50-13a) により、これは R の元 pi の多項式で書けます。すなわち yk(a1 ,¼, an )ÎR ですから、(50-14b)R 上のnm次多項式で、ab はその根になっている、言い換えると abÎR が成り立つことがわかりました。
 以上で R は環であることがわかりました。

 次に R が代数閉環であることを証明しましょう。QR 上の多項式:

(50-15)  j :º  n
å
k=0
ak x k       ( akÎR )

の根とします。an は可逆なので、j にその逆元を乗じることにより、an = 1 と仮定できます。また、各 k < n に対し、ak1 = ak となる aki ( 1 £ i £ mk ) で、

(50-16)   mk
å
i=0 
pki x i = (x - ak1 )(x - ak2 )¼(x - akmk )       (  pkiÎR , pkmk = 1 )

となるものが存在し、

(50-17)  smk-l (ak1 ,¼, akn ) = (- 1)mk-l pkl       ( 0 £ l < mk )

と書けます。そこで、

(50-18)  ji0¼in-1x n + n-1
å
k=0
akik x k       ( 1 £ ik £ mk )

と置いて、i0 ¼ in-1 のすべての組合せに対する ji0¼in-1 をすべて乗じたものを y とすれば、これは m0 ¼ mn-1 n 次の多項式で、その係数は、各 k に対して ak1 ,¼, akn に対して対称です。
 ところで、任意の自然数 m に対して R 上の { aki | m £ k £ n , 1 £ i £ mk } の多項式の全体 Rm は環になりますが、m に関する帰納法で、y の各係数は Rm に属すことを証明しましょう。
 まず m = 0 なら明らかです。
 次に m まで正しいと仮定すると、y の各係数は、Rm+1 を係数に持つ { ami | 1 £ i £ mm } の対称式ですから、それらの基本対称式の多項式として書けますが、(50-17) により、この基本対称式は pkl すなわち R の元ですから、結局 y の各係数は Rm+1 の元であることがわかります。
 以上で帰納法が完成したので、特に m = n + 1 とすれば、y の係数はすべて R の元であることがわかります。すなわち R[x] となり、by の根ですから、R であることがわかりました。
 以上で RR を含む最小の代数閉環であることがわかりました。

 一般に、代数閉環 R では、任意の自然数 n に対して R 上の多項式 x n - a は根 b を持ちます。すなわち bn = a となるので、このような R の元を an乗根とよび、そのようなものの任意の一つを便宜的に nÖa と書くことにします(ここで便宜的という言葉を使ったのは、R = Ra が非負実数のときは、既に第27節でこの記号を非負実数のn乗根の意味に限定して定義しているからです)。特に、n = 2 の場合は平方根とよび、n を省略して Öa と書きます。
 特に任意の単位的可換環 R の代数閉包 R は代数閉環なので、任意の R の任意のn乗根 nÖaR に属す、いいかえると R 上代数的な元のn乗根も代数的であることがわかります。

 次に、R可識体 K のとき、Kであることを証明しましょう。
 実際、a ¹ 0 とすると、(50-10)a を代入して両辺を an で割れば、

(50-19)  n
å
k=0
 pn-k(a-1 )k = 0

となりますが、これは a-1K 上の 0 でない多項式 åk pn-k x k の根になっていることを意味していますから、a-1ÎK であることがわかります。

 次に、更に Q整域で、K Ì QK[x]有限可約であるようなであると仮定します。

 pK 上の既約多項式、すなわち K[x] の既約元とします。これは Q[x] の元とみなせば (50-2) の形に因数分解できます。ここで aiÎQ であり、c1 と仮定できます。
 ここで qp と同伴でない既約多項式とすると、q も最高次の係数は 1 であると仮定できますから、

(50-20)  q(x) = (x - b1 )(x - b2 )¼(x - bm )

と因数分解されます。一方、pq の公約元は 1 しかないので互いに素です。ゆえに K[x]PID(第16節参照)ですから、

(50-21)  pg + qh = 1

となる K 上の多項式 gh が存在します。そこで、(50-21)ai を代入すれば、p(ai ) = 0 なので

(50-22)  q(ai )h(ai ) = 1

となり、これは

(50-23)  (ai - b1 )(ai - b2 )¼(ai - bm ) = q(ai ) ¹ 0

を意味しますが、Q の乗法は強関数ですから左辺のすべての因子は 0 と異なる、すなわち ai ¹ bj であることがわかります。すなわち同伴でない既約多項式の根は互いに異なることがわかりました。

 次に、多項式 (50-10) に対して、その微分多項式 p'

(50-24)  p' n-1
å
k=0
(k + 1) pk+1x k = n
å
k=1
k pkx k-1

で定義すると、(50-10b) で与えられる q に対して

(50-25)  ( pq)' = n+m+1
å
k=0
(k + 1) æ
è
 k
å
i=0
 pi qk+1-i ö
ø
x k = n+m
å
k=1
k æ
è
 k
å
i=0
 pi qk-i ö
ø
x k-1 = n+m
å
k=1
 k
å
i=0
i pi x i-1 qk-ix k-i + n+m
å
k=1
 k
å
i=0
 pix i(k - i)qk-ix k-i-1 = p'q + pq'

が成り立ちますから、帰納的に、

(50-26)  ( p1 p2 ¼ pn )' =  n
å
k=1
p1 ¼ pk-1 pk' pk+1 ¼ pn

が成り立つことがわかります。そこで、既約多項式 p について、(50-2) の両辺の微分多項式を取ると、

(50-27)  p'(x) =  n
å
 j=1
(x - a1 )¼(x - aj-1 )(x - aj+1 )¼(x - an )

となります。一方、K[x]UFD(第16節参照)ですから、互いに同伴でない既約多項式 qi が存在して

(50-28)  p' =  j
Õ
i=1
qiei

と書けますが、各 qi の次数は p' の次数以下であり、p' の次数は p の次数より 1 少ないので、p と各 qi は同伴ではあり得ません。ゆえに (50-23) により qi(aj ) ¹ 0 となりますが、Q は整域ですから、(50-27),(50-28) により

(50-29)  (aj - a1 )¼(aj - aj-1 )(aj - aj+1 )¼(aj - an ) = p'(aj ) =  j
Õ
i=1
qi(aj )ei ¹ 0

となりますが、Q の乗法は強関数ですから左辺のすべての因子は 0 と異なる、すなわち ai ¹ aj ( i ¹ j ) であることがわかります。すなわち既約多項式の根はすべて互いに異なることがわかりました。

 さて、ここで補題として、bi ( 1 £ i £ n )強環 R相異なる元とするとき

(50-30)  b1 b2 ¼ bn = 0  Þ  $i : bi = 0

が成り立つことを n に関する帰納法で証明しましょう。
 まず n = 1 なら明らかです。
 次に n で成り立つと仮定し、b1 b2 ¼ bn+1 = 0 とします。仮定により bn ¹ bn+1 ですから、不等号の定義 (13-30c) により、bn+1 ¹ 0 又は bn ¹ 0 です。
 前者なら、b1 b2 ¼ bn ¹ 0 と仮定すると、R は整域なので b1 b2 ¼ bn+1 ¹ 0 となって矛盾するので b1 b2 ¼ bn = 0 です。ゆえに帰納法の仮定により $i £ n : bi = 0 です。後者の場合も同様で、以上で帰納法が完成しました。

 さて、任意に K を取ります。aK 上のあるn次多項式の根になっていますが、K[x]UFDであることから、互いに同伴でない既約多項式 qi が存在して

(50-31)  p =  k
Õ
i=1
qiei

と書けます。ここで両辺に a を代入すれば、左辺は 0 になるので、

(50-32)   k
Õ
i=1
qi(a)ei = 0

となりますが、emax { e1 ,¼, ek } と置いて、両辺に各 i に対する qi(a)e-ei をすべて乗じれば

(50-33)  æ
è
 k
Õ
i=1
qi(a) ö
ø
e

 
= 0

 ゆえに、大きな ( ) の中が 0 と異なると仮定すると、Q は整域なので、左辺は 0 と異なることになって矛盾するので、大きな ( ) の中は 0、すなわち

(50-34)   k
Õ
i=1
qi(a) = 0

が得られます。一方、各 qiQ[x] において

(50-35)  qi(x) = (x - ai1 )(x - ai2 )¼(x - aimi )

と因数分解されますが、上で示したことから

(50-36)  (i, j) ¹ (i', j' )  Þ  aij ¹ ai' j'

となります。一方 (50-34)(50-35) を代入すると、

(50-37)   
Õ

i, j
(a - aij ) = 0

が得られますが、(50-36) により、各 a - aij が互いに相異なることに注意すれば、(50-30) により $i, j : a = aij となり、a は既約多項式 qi の根であることがわかります。
 この事実と、同伴でない既約多項式の根はすべて相異なることから、任意の代数的な元 a は、同伴関係のもとで唯一つ定まる既約多項式の根になることがわかります。このような既約多項式 q を、a最小多項式とよび、q の次数 naK 上の次数といいます。また、qn個の根は a共役であるといいます。

 以上により、特に K の任意の2元 a , b について (16-1) が成り立つことがわかり、K の代数閉包 K可識であることがわかりました。

 さて、代数閉体の具体例として、代数学の基本定理、すなわち複素数体 C が代数閉体であることを証明しましょう。
 すなわち C の任意のn次多項式  f(x) は、n個の一次式の積に因数分解できる、すなわち akÎC ( 0 £ k £ n ) , an ¹ 0 のとき、aiÎC ( 1 £ i £ n ) が存在して

(50-38)   f(x) n
å
k=0
ak xk = an(x - a1 )(x - a2 )¼(x - an )

と書けることを、nに関する帰納法で証明します。
 まず、n = 1 の場合は a1 :º - a0 /a1 と置けばよいので明らかです。
 次に n - 1次式まで正しいと仮定します。このとき、まず

(50-39)  "e > 0 : $aÎC : | f(a) | < e

が成り立つことを証明しましょう。

(50-40a)   F(s, t) n
å
k=0
ak sk exp(ikt)       ( 0 £ s £ 1 , 0 £ t £ 2p )

(50-40b)   G(s, t) n
å
k=0
ak sn-k exp(ikt)       ( 0 £ s £ 1 , 0 £ t £ 2p )

と置くと、FG も一様連続で、しかも F(s, · )G(s, · )C の閉曲線です。また

(50-41a)   F(0, t) = a0       ( 0 £ t £ 2p )

(50-41b)   G(0, t) = an exp(int)       ( 0 £ t £ 2p )

(50-41c)   F(1, t) = G(1, t)       ( 0 £ t £ 2p )

が成り立つので、まず (50-41b) により Arg(an ) を取れば q + ntÎArg(G(0, t)) ですから

(50-42)  Wind(G(0, · ), 0) = n

がわかります。ゆえに G の一様連続性により、十分小さい ]0, 1[ に対して inf { | G(s, t) | | 0 £ s £ e , 0 £ t £ 2p } > 0 となるので G(0, · ) »0 G(e, · ) となり、従って (49-17)(50-42) により

(50-43)  Wind(G(e, · ), 0) = n

が得られます。一方、B{ zÎC | | Â(z) |, | Á(z) | £ 1/e } の一様連続像 { | f(z) | | zÎB } はプレコンパクトですからその下限 d は実数ですが、d > 0 と仮定すると、

(50-44a)   | F(s, t) | = | f(s ei t ) | ³ d > 0       ( 0 £ s £ 1 , 0 £ t £ 2p )

(50-44b)   | G(s, t) | = | sn f(s-1 ei t ) | ³ e n d > 0       ( e £ s £ 1 , 0 £ t £ 2p )

が成り立つので G(e, · ) »0 G(1, · ) = F(1, · ) »0 F(0, · ) となり、(49-17)(50-43) により

(50-45)  Wind(F(0, · ), 0) = Wind(F(1, · ), 0) = Wind(G(1, · ), 0) = Wind(G(e, · ), 0) = n

となりますが、(50-41a) によれば明らかに Wind(F(0, · ), 0) = 0 ですから、これは矛盾です。ゆえに d = 0 が得られ、これは (50-39) を意味します。

 さて、以上の結果により、åk ek < ¥ となる実数の減少列 { ek | kÎN } を取ると、

(50-46)  | f(ak1 ) | < | an | ekn
———
 2 

を満たす複素数 ak1 が存在します。一方 (16-30) により

(50-47)   f(x) - f(ak1 ) = g(x)(x - ak1 )

となるn - 1次の多項式 g(x) が存在します。ただし最高次の係数は (50-46) により an です。ここで帰納法の仮定により、

(50-48)   g(x) = an(x - ak2 )(x - ak3 )¼(x - akn )

となる複素数 aki ( 2 £ i £ n ) が存在し、g(aki ) = 0 ですから

(50-49)  | f(aki ) | = | f(ak1 ) | < | an | ekn
———
 2 
      ( 1 £ i £ n )

が成り立ちます。一方 (50-48),(50-47) により

(50-50)  (x - ak1 )(x - ak2 )¼(x - akn ) =  f(x) - f(ak1 )
—————–
 an

ですから、xak-1 i を代入すれば、

(50-51)  | ak-1 i - ak1 || ak-1 i - ak2 |¼| ak-1 i - akn | £ | f(ak-1 i ) | + | f(ak1 ) |
—————————
| an |
< ek-1n

 ところで、各 j に対して | ak-1 i - ak j | < 2ek-1 又は | ak-1 i - ak j | > ek-1 が成り立ちますが、すべての j に対して後者が成り立つとすると (50-51) に反するので、少なくとも一つ前者が成り立つような j が存在します。
 ゆえに、帰納法により、列 { ik | kÎN }

(50-52)  | ak-1 ik-1 - ak ik | < 2ek-1

となるように取れ、{ ak ik | kÎN } はコーシー列になるので、ある複素数 a に収束します。ゆえに (50-49)iik を代入して k ® ¥ とすれば、f の連続性により f(a) = 0 となることがわかります。ゆえに (16-30) により

(50-53)   f(x) = g(x)(x - a)

となるn - 1次の多項式 g(x) が存在し、帰納法の仮定により g(x)(50-48) の形に書けるので、f(x)(50-38) の形に書けることがわかります。
 以上で C が代数閉体であることが証明されました。

 さて、Q は代数閉体 C の部分体ですから、その代数閉包 Q Ì C を考えることができますが、Q は可識なので、Q代数閉体になります。
 また、第16節の最後の注意により Q[x] は有限可約ですから Q は可識で、かつその元は最小多項式を持ちます。そこで Q の元を代数的数とよび、C \\ Q の元を超越数とよびます。
 なお、代数的数の既約多項式 (50-10) の各係数 pi を整数 qiri によって pi = qi / ri と表したとき、(50-10)r0 r1 ¼ rn を乗じれば、係数はすべて整数になるので、代数的数をある整数係数のn次方程式の根になる複素数と定義しても同じです。

 既に示した一般論により、有理数は代数的数であり、代数的数同士の和、差、積、n乗根、0 と異なる代数的数の逆数はすべて代数的数であり、2つの代数的数は等しいか異なるかいずれかです。
 また、複素数が有理数であるための必要十分条件は、それが整数(有理数)係数の1次多項式の根であることです。従って特に、最小多項式が2次以上であるような代数的な実数はすべての有理数と異なる、すなわち無理数であり、このことから代数的な実数は有理数であるか無理数であるかどちらかであることがわかります。
 また、任意の有理数 r は多項式 x - r ÎQ[x] の根ですから代数的数であり、虚数単位 i も多項式 + 1ÎQ[x] の根ですから代数的数です。
 更に、複素数 a が多項式 pÎQ[x] の根、すなわち p(a) = 0 を満たすならば、両辺の複素共役を取れば p(a*) = 0 となるので a*a と共役な代数的数です。ゆえにこれらの和に代数的数 1/2 を乗じた Â(a) も、これらの差に代数的数 - 1/2i を乗じた Á(a) も代数的数です。ゆえにこれらの2乗の和の平方根である | a | も代数的数です。従って、複素数はその実部と虚部が共に代数的であるとき、そのときに限り代数的です。

 なお、整数係数の多項式の全体 Z[x] は可算集合なので、代数的数の全体も可算集合であることがわかります。

INDEX   BACK   NEXT