推論規則というのは推論の大もとになる規則ですから、それ自身が何かから導けるというものではありません。つまり勝手な推論規則を定めてやれば、それをもとに推論体系が作れるわけです。
しかしながら、本文第1節で与えた直観主義論理の一群の推論規則は、実は勝手に定めたものではなく、
ある構文論的な概念に注目し、その概念自身と、その概念が持つ構文論的な性質を、論理記号及び推論規則の形で理論内部の概念に翻訳する。
という、形式化の原理とでも言うべき一貫した指導原理に貫かれているのです。
以下、「(変数も論理記号も含まない)項」、「(変数も論理記号も含まない)命題」、「sequent
」、「構造に関する推論規則」、「変数」、「論理記号」、「論理記号に関する推論規則」という論理における基本的な概念を、これから説明する形式化の原理によって次々に導入していく様子を見ていくことにしましょう。
まず最初は(変数も論理記号も含まない)項についてです。
これは、その定義により、定項(=0変項関数記号)から始めて関数記号を次々に施していって得られる論理式を意味しますが、これは要するに、考察している理論における対象を表しています。すなわち定項とは当該理論ではそれ以上説明しない根源的な対象を、関数記号を含む項はこれらの根源的な対象からある定められた方法で派生的に定義された対象を表すことになります。
次は(変数も論理記号も含まない)命題についてです。
これは、その定義により、いくつかの項に述語記号を施して得られる論理式ですから、それらの項に関する何らかの性質を表しています。
次はsequent
と構造に関する推論規則についてです。
理論における推論というのは、要するに「正しい命題」を次々に書き下していく行為のことです。
その際、どういう命題を“正しい命題”とみなすかを決めるのが推論規則ですが、その規則というのは、結局のところ、“どの命題とどの命題が正しいときどの命題が正しくなるか”ということを定めることに他なりません。
そこで、「命題 1¼, 1 ,
An¼, ® R
(A2-1) | Γ |
が同語反復として自明に成り立ちます。ただし 1¼,
さて、
命題 A ,1¼,An がすべて正しいものとする。ここで更に命題B ,1¼,Bm がすべて正しいとき、命題 R は正しい。
ということを、二通りの言い方で表現してみましょう。
一つの表現方法は、とにかく
A ,1¼,An ,B ,1¼,Bm がすべて正しいときに R が正しい。
ということですから、これは
(A2-2a) | ,Δ |
と表現することができます。ただし、1¼,
一方、これはまた
Γ が正しいという前提の下で、 B ,1¼,Bm がすべて正しければ、同じ前提 Γ の下で R が正しい。
と言い換えることもできますから、同じことを
(A2-2b) | |
とも表現することができます。
さて、(A2-2a)
と (A2-2b)
は、同じことの言い換えに過ぎないはずですから、ある状況の下で一方が成り立つなら他方も成り立つはずです。
そこで、まずこの同等性を Δ が R 一個からなる場合に適用すると、(A2-2b)
は (A2-1)
により自明に成り立ちます。従って、同等性によりこの場合の (A2-2a)
も成り立つはずです。すなわち
(A2-3) | ,R |
ということがわかります。
次に、 ® R(A2-2a)
と (A2-2b)
の同等性を考えると、(A2-2b)
の方は (A2-1)
により自明に成り立ちますから、同じ前提 ® R(A2-2a)
も成り立たなければなりません。従って特に Δ が P 一個からなる場合を考えると
(A2-4) | ,P |
ということがわかります。
次に、,
Δ ® R(A2-2a)
と (A2-2b)
の同等性を考えると、今度は (A2-2a)
の方が (A2-1)
により自明に成り立ちますから (A2-2b)
も成り立たなければなりません。従って特に Δ が P 一個からなる場合を考えると
(A2-5) | ,P |
ということがわかります。
また、この (A2-5)
の Γ を ,
P
(A2-6) | , P,P ,P ,P |
ということがわかりますが、2番目の ,
P ® P(A2-3)
により常に成り立つので、この前提は実は不要です。すなわち
(A2-7) | , P,P ,P |
ということがわかります。
最後に、Δ を , Δ, Q,
Θ, Δ, P,
Θ(A2-2b)
は同じ意味になります。従って (A2-2a)
と (A2-2b)
の同等性により、この両者に対する (A2-2a)
も互いに同等でなければなりません。すなわち
(A2-8) | , P, Δ, Q,Θ , Q, Δ, P,Θ |
ということがわかります。
ところで ® R® は、理論内部で使う文字ではなく、言葉を省略したもの(メタ記号)に過ぎません。
そこで、この記法を形式化することにします。すなわちカンマと ® を理論内部で用いる文字として正式に追加し、命題をカンマで区切って並べた Γ と命題 R を ® で結んだ ® Rsequent
とよび、sequent
を定められた規則に従って並べる行為を改めて証明文とよび、証明文に現れたsequent
を定理とよぶことにします。
更にこの形式化において、性質 (A2-1),(A2-3),(A2-4),(A2-5),(A2-7),(A2-8)
をそのまま推論規則に採用することにします。これらが第1節で順に ( 同 一 ) , ( 仮 定 ) , ( 増 ) , ( 切 断 ) , ( 減 ) , ( 換 ) と名付けた構造に関する推論規則に他なりません。
次は変数についてです。
(変数も論理記号も含まない)項 T に対する性質を表す命題群から構成されたsequent
S が、項 T が具体的に何であるかには無関係な論法で証明される場合があります。
この場合、項 T 、項 S 、… に対して同じ性質からなるsequent
をいちいち別々に証明するのはわずらわしく、できればこれを一度に証明できれば便利です。そこで、このsequent
の項 T のところを x と書いて、あたかも x が項を表すものとして証明すれば、証明は一回で済みます。
そこで、x のような“モノ”を形式化した概念として、実際にアルファベットやそれにダッシュを付けた文字を変数とよんで、「変数も項である」と新たに定めることにします。すると、変数を含んだ証明文が与えられたとき、この中で変数のところに勝手な項を代入したものは、本来の意味での証明文になっているはずです。すなわち変数を含んだsequent
S が定理なら、その中の変数 x に項 T を代入して得られるsequent
も定理です。この事実を推論規則として明記したものが ( 代 入 ) に他なりません。
最後は論理記号と論理記号に関する推論規則についてです。
以下、自然推論で考察を続けることにします。すなわち、ある公理系 Γ のもとで成り立つ命題 P を、その公理系の定理である、あるいは P が成り立つといい、考えている公理系 Γ に命題 Q を追加した公理系 ,
Q
このように、P あるいは
さて、ある公理系のもとで、命題 P と Q が共に成り立っているとします。この超数学的な状態のことを、P かつ Q 、あるいは Ù Q
ところで証明という行為は、すでに得られた定理を用いて次々に新たな定理を見つけていくプロセスのことに他なりません。そこで、証明文に関する上記の超数学的な状態を、そこから新たにどんな命題 R が導出できるか、という観点で特徴付けてみましょう。そのために、「命題 P と Q が共に成り立っているとき、新たに命題 R が得られる」ということを2通りの方法で表現してみましょう:
(A2-9a) | P Q R | が成り立つ。 |
(A2-9b) | P R | が成り立つ。 |
これら2つの条件は同じことを意味しています。ただし (A2-9b)
の Ù Q
そこで、2つの命題 P と Q を結び付けて一つの命題を作る Ù という2変項の論理接続詞を新たに追加することによって、 Ù Q(A2-9a)
と (A2-9b)
の同等性は自動的には成り立たなくなるので、両者が普遍的に同等になるような推論規則を追加することにします。
ただし、(A2-9a)
と (A2-9b)
が普遍的に同等であるとは、一般に A や (A2-9a)
が導出可能なら、その同じ条件を満たす任意の公理系で (A2-9b)
が導出可能であり(このことを略して (A2-9a)
と表現することにします)、その逆も成り立つ(これを Þ (A2-9b)(A2-9b)
と略記します)という意味です。
Þ (A2-9a)
そこで、(A2-9b)
の成立を丁度保証する推論規則のことを導入規則といい、逆に Þ (A2-9a)(A2-9a)
の成立を丁度保証する推論規則のことを消去規則ということにします。
Þ (A2-9b)
すなわち推論規則 a が導入規則であるとは、「a を用いると (A2-9b)
が導かれ、逆に Þ (A2-9a)(A2-9b)
が成り立つような推論体系のもとでは Þ (A2-9a)a が導出可能である」という意味で、本文第1節で与えた ( Ù 導入) という推論規則がそのような導入規則 a になっています。
実際、( Ù 導入) と (A2-9b)
を仮定すると、(A2-9a)
の上段から ( Ù 導入) により Ù Q(A2-9b)
により R が導かれるので、確かに (A2-9a)
が導出されることがわかります。
逆に (A2-9b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-9a) Ù Q(A2-9b)
は自明に成り立つので、仮定により R に Ù Q(A2-9a)
が成り立ち、これは推論規則 ( Ù 導入) が成り立つということに他なりません。
同様に、推論規則 b が消去規則であるとは、「b を用いると (A2-9a)
が導かれ、逆に Þ (A2-9b)(A2-9a)
が成り立つような推論体系のもとでは Þ (A2-9b)b が導出可能である」という意味で、本文第1節で与えた ( Ù 消去) という推論規則がそのような消去規則 b になっています。
実際、( Ù 消去) と (A2-9a)
を仮定すると、 Ù QÙ 消去) によりそれぞれ P と Q が得られ、従って (A2-9a)
により R が得られますが、これは (A2-9b)
が得られたことを意味します。
逆に (A2-9a)
が成り立つような推論体系では、R にまず P を代入すれば、Þ (A2-9b)(A2-9a)
は自明に成り立つので、仮定により (A2-9b)
が成り立ち、これは2つある推論規則 ( Ù 消去) の最初のものに他なりません。同様に R に Q を代入すれば ( Ù 消去) の2番目のものが得られます。
以上のような手順によって論理接続詞 Ù とその導入規則、消去規則を追加する行為を、 Ù Q
次に、ある公理系のもとで、命題 P か Q の少なくとも一方が成り立っているとします。この状態のことを、P 又は Q 、あるいは Ú Q
すなわち2変項論理接続詞 Ú と、「命題 P か Q の少なくとも一方が成り立っているとき命題 R が成り立つ」ということを意味する
(A2-10a) | P R | と | Q R | が成り立つ。 |
(A2-10b) | P R | が成り立つ。 |
という2つの条件が普遍的に同等になるような推論規則を追加することにします。
このとき、本文第1節で与えた ( Ú 導入) という推論規則が Ú の導入規則になります。
実際、( Ú 導入) と (A2-10b)
を仮定すると、(A2-10a)
のいずれの上段からも、( Ú 導入) により Ú Q(A2-10b)
により R が導かれるので、確かに (A2-10a)
が導出されることがわかります。
逆に (A2-10b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-10a) Ú Q(A2-10b)
は自明に成り立つので、仮定により R に Ú Q(A2-10a)
が成り立ち、これは推論規則 ( Ú 導入) が成り立つということに他なりません。
また、本文第1節で与えた ( Ú 消去) という推論規則が Ú の消去規則になります。
実際、( Ú 消去) と (A2-10a)
を仮定すると、P を公理に追加した公理系において、P が成り立つことと (A2-10a)
の左の推論図から、R が得られます。これは、もとの公理系で (A2-10a)
の右の推論図を使って Ú QÚ 消去) により R が得られ、これは (A2-10b)
が得られたことを意味します。
逆に (A2-10a)
が成り立つような推論体系では、Þ (A2-10b) Ú Q(A2-10a)
が成り立つことを意味し、従って仮定から (A2-10b)
が成り立ちますが、その上段は成り立っているので R が得られ、これは ( Ú 消去) が導出できたことを意味します。
次に、ある公理系のもとで、命題 P を公理に追加したら Q が成り立ったとします。この状態のことを、P ならば Q 、あるいは Þ Q
すなわち2変項論理接続詞 Þ と、「命題 P を公理に追加したら Q が成り立ったとき命題 R が成り立つ」ということを意味する
(A2-11a) | P├ Q R | が成り立つ。 |
(A2-11b) | P R | が成り立つ。 |
という2つの条件が普遍的に同等になるような推論規則を追加することにします。
このとき、本文第1節で与えた ( Þ 導入) という推論規則が Þ の導入規則になります。
実際、( Þ 導入) と (A2-11b)
を仮定すると、(A2-11a)
の上段から ( Þ 導入) により Þ Q(A2-11b)
により R が導かれるので、確かに (A2-11a)
が導出されることがわかります。
逆に (A2-11b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-11a) Þ Q(A2-11b)
は自明に成り立つので、仮定により R に Þ Q(A2-11a)
が成り立ち、これは推論規則 ( Þ 導入) が成り立つということに他なりません。
また、本文第1節で与えた ( Þ 消去) という推論規則が Þ の消去規則になります。
実際、( Þ 消去) と (A2-11a)
を仮定すると、 Þ QÞ 消去) により Q が得られ、これは (A2-11a)
により R が得られ、これは (A2-11b)
が得られたことを意味します。
逆に (A2-11a)
が成り立つような推論体系では、Þ (A2-11b) Þ Q(A2-11a)
の上段と P に ( 切 断 ) を適用すれば Q が得られます。これは R に Q を代入した (A2-11a)
が成り立つことを意味するので、仮定により R に Q を代入した (A2-11b)
が成り立ちますが、その上段は成り立っているのですから、下段すなわち Q が得られ、これは ( Þ 消去) が導出できたことを意味します。
次に、ある公理系のもとで、P に現れない自由変数 z すなわち P にも公理にも現れない変数 z に対して命題 (z | x)
P(T | z)(z | x)
P(T | x)
P"xP
すなわち命題型量化記号 " と、「P に現れない自由変数 z に対して命題 (z | x)
P
(A2-12a)P に現れない自由変数 z に対して | (z | x)P | が成り立つ。 |
(A2-12b) | R | が成り立つ。 |
という2つの条件が普遍的に同等になるような推論規則を追加することにします。
このとき、本文第1節で与えた ( " 導入) という推論規則が " の導入規則になります。
実際、( " 導入) と (A2-12b)
を仮定すると、(A2-12a)
の上段から ( " 導入) により "z(z | x)
P"xP(A2-12b)
により R が導かれるので、確かに (A2-12a)
が導出されることがわかります。
逆に (A2-12b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-12a)"xP(A2-12b)
は自明に成り立つので、仮定により R に "xP(A2-12a)
が成り立ちます。一方、自由変数 x に対して P が成り立ったとすると、P にも公理にも現れない変数 z を任意に選び、推論規則 ( 代 入 ) を変数 x と項 z に対して適用することによりにより、(z | x)
P(A2-12a)
の上段が得られ、従って R に "xP(A2-12a)
の下段、すなわち "xP" 導入) が導出できたことを意味します。
また、本文第1節で与えた ( " 消去) という推論規則が " の消去規則になります。
実際、( " 消去) と (A2-12a)
を仮定すると、"xP" 消去) により (z | x)
P(A2-12a)
により R が得られ、これは (A2-12b)
が得られたことを意味します。
逆に (A2-12a)
が成り立つような推論体系では、P に現れない自由変数 z に対して Þ (A2-12b)(z | x)
P(T | z)(z | x)
P(T | x)
P(T | x)
P(A2-12a)
が成り立つことを意味し、従って仮定により、R に (T | x)
P(A2-12b)
が成り立ちますが、これは ( " 消去) が導出できたことを意味します。
次に、ある公理系のもとで、命題 P に対して、変数 x をある項 T に置き換えた命題 (T | x)
P$xP
すなわち命題型量化記号 $ と、「変数 x をある項 T に置き換えた命題が成り立っているとき命題 R が成り立つ」ということを意味する
(A2-13a)どんな項 T に対しても | (T | x)P R | が成り立つ。 |
(A2-13b) | R | が成り立つ。 |
という2つの条件が普遍的に同等になるような推論規則を追加することにします。
このとき、本文第1節で与えた ( $ 導入) という推論規則が $ の導入規則になります。
実際、( $ 導入) と (A2-13b)
を仮定すると、(A2-13a)
の上段から ( $ 導入) により $xP(A2-13b)
により R が導かれるので、確かに (A2-13a)
が導出されることがわかります。
逆に (A2-13b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-13a)$xP(A2-13b)
は自明に成り立つので、仮定により R に $xP(A2-13a)
が成り立ち、これは推論規則 ( $ 導入) が成り立つということに他なりません。
また、本文第1節で与えた ( $ 消去) という推論規則が $ の消去規則になります。
実際、( $ 消去) と (A2-13a)
を仮定すると、$xP :º (z | x)
P$xP$zP'$zP'(z | x)
P(A2-13a)
を T に変数 z を代入して適用すると R が得られますが、これはもとの公理系で $ 消去) により R が得られ、これは (A2-13b)
が得られたことを意味します。
逆に (A2-13a)
が成り立つような推論体系で、R に現れない自由変数 x に対して Þ (A2-13b)$xP(T | x)
P├ R(T | x)
P(A2-13a)
が成り立つので、仮定により (A2-13b)
が成り立ちますが、その上段の $xP$ 消去) が導出できたことを意味します。
さて、以上の議論を一般的に論じてみましょう。(A2-XXa)
と書いた方の推論図の上段全体を、一つのメタ変数 C で表わします。ただし Ú の場合を考えればわかるように、このような C 自体が複数個ある場合もあるので、これを一般に ( i
と書くことにします。既に導入した論理記号 = 1 ,¼, n )Ù , Ú , Þ , " , $ について一覧表を作れば、次のようになります:
s ÙÚÞ"$C 1P
Q
P
P├ Q (z | x)P (T | x)PC 2
Q
さて、上の議論では、1¼ 1¼, 1¼ 1¼ Pk
すなわち、新たな k 変項論理記号 s と、「1¼
(A2-14a) | C R | と | C R | と … と | Cn R | がすべて成り立つ。 |
(A2-14b) | sP R | が成り立つ。 |
という2つの条件が普遍的に同等になるような推論規則を追加するのでした。
そして、各 i に対し、1¼ Pk
| (s 導入i ) | |
| Ci sP |
と置けば、これら n 個の推論規則が、論理記号 s の導入規則になっています。
実際、(s 導入i ) と (A2-14b)
を仮定すると、(A2-14a)
の上段 1¼ Pk(A2-14b)
により R が得られるので、確かに (A2-14a)
導出されることがわかります。
逆に (A2-14b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-14a)1¼ Pk(A2-14b)
は自明に成り立つので、仮定により R に 1¼ Pk(A2-14a)
が成り立ち、これは推論規則 (s 導入i ) が成り立つということに他なりません。
それでは、この一般論で、1¼ 1¼
そこで、この「ありえない状態」のことを、矛盾、あるいは ^ と書いて、この概念を形式化します。
すなわち、この場合、1¼ 0 であり、従って ^ という 0変項論理記号を追加し、また条件 (A2-14a)
は空な条件、すなわちどんな場合にも常に成り立っている条件になるので、これと (A2-14b)
の条件、すなわち
(A2-15) | R | が成り立つ。 |
が普遍的に同等になるような推論規則を追加します。
これは、要するに (A2-15)
が常に成り立つような推論規則、言い換えると (A2-15)
それ自体(すなわち本文第1節で与えた ( ^ 消去) )を推論規則に追加する、ということに他なりません。
ちなみに 1¼ ^ は導入規則を持たないことがわかります。
さて、上で見てきたように、各論理記号 s とその推論規則を、証明文のある状態を形式化するという方法で“導出”してきましたが、このような議論は本文第2節のメタ定理5及びメタ定理6と実は密接な関係があるのです。以下、このことを一般論として解説しましょう。
まず、(A2-14a)
という条件は、
Þ (A2-14b)
(A2-16) |
ある命題 R が、どの i に対しても、 |
と表現することができることに注意します。
ところで各論理記号 s の推論規則は、(A3-14a)
に出てくる推論図の上段にある 1¼
すなわち、各論理記号の推論規則を導出するという問題は、任意に与えられた導入規則に対する消去規則を如何にして求めるかという形に言い換えることができます。
そこで、与えられた s の導入規則群 (s 導入i ) に対し、
( |
|
| sP D R |
という形に書ける推論図を考え、このような推論図を一般に論理記号 s の消去図式とよぶことにしましょう。
そして、複数個の消去図式群:
| (s 消去j ) | |
| sP Dj Rj |
をうまく選び、これらを推論規則に採用することによって条件 (A2-16)
が成り立つようにするにはどうしたらよいかを考えてみましょう。
一般に、消去図式 (
の最上段の e)1¼ Pk
(si- |
|
| Ci D R |
が構造に関する推論規則だけを使って導出可能なとき、消去図式 (
は s の導入規則に対して局所整合(e)locally consistent
)であるといいます。
また、論理記号 s の導入規則 (s 導入i ) の下段の 1¼ Pk
| (s' 導入i ) | |
| Ci s'P |
と置きます。ここで、1¼ Pk1¼ Pklocally complete
)であるといいます。
本文第2節のメタ定理5は、特に Ù , Ú , Þ , " , $ , ^ の各消去規則は導入規則について局所完全であることを示しています。
また、メタ定理6は、論理記号 Ù , Ú , Þ , " , $ , ^ の各消去規則は導入規則について局所整合であることを示しています。
そこで次に、推論規則群に関する局所整合性とか局所完全性という概念が、形式上どういう意味を持つのかということについて考察しましょう。
最初は局所完全性の特徴付けです:
(A2-17)推論規則群 (s 消去j ) が局所完全ならば、性質 (A2-16)が成り立つ。 |
実際、(A2-16)
の前提、すなわちある命題 R が、どの i に対しても、その上段
ゆえに R のことを、新しい記号 1¼ Pk1¼ Pk1¼ Pk(A2-16)
が成り立っていることを意味しています。
次は局所整合性の特徴付けです:
(A2-18)論理記号 s に対して (A2-16)が成り立つような論理的な理論では、局所整合な消去図式は導出可能である。 |
実際、(A2-16)
が成り立っているものとし、(
を局所整合な消去図式とします。
e)
このとき、“局所整合な消去図式”の定義により、(
の最上段にある e)1¼ Pk-
e) は導出可能です。
ここで (
の上段、すなわち e)1¼ Pk
すると、この状態で更に (s 導入i ) の上段である -
e) の上段である -
e) が導出可能であることから、その下段である R が導出できますが、これは (A2-16)
の前提部分、すなわち「R が、どの i に対しても、
ところが仮定により (
の上段がすべて成り立っているので、特に e)1¼ Pk(A2-16)
の結論部分、すなわち「R は 1¼ Pk(
が導出可能であることを意味しています。
e)
以上の議論をまとめると、与えられた導入規則群 (s 導入i ) に対して局所完全な推論規則群 (s 消去j ) を推論規則に追加すれば (A2-16)
の性質が成り立ち、逆に (A2-16)
の性質が成り立てば、(s 導入i ) に対して局所整合な推論規則群 (s 消去j ) は導出可能です。
従って特に、局所完全な推論規則から局所整合な推論図は導出可能であることがわかります。
ゆえに、局所整合かつ局所完全な推論規則が2種類存在すれば、一方から他方が導出可能なので、両者は同等な推論規則であるといえます。すなわち局所整合かつ局所完全な推論規則は本質的に一組しか存在しないことがわかり、こうして一意に定まる推論規則群を、もとの導入規則に対して共役な推論規則群とよぶことにしましょう。
論理記号 Ù , Ú , Þ , " , ^ の場合に求めたような、(A2-16)
の成立を保証する推論規則群 (s 消去j ) は、局所整合かつ局所完全、すなわち共役な消去規則です。
ところで、論理記号だけでなく、述語記号である等号 º についても論理記号と同様な考察が可能です。
すなわち、T が S と同一の項であるという状態のことを、S と T は等しい、あるいは º Tº と、「T が S と同一の項であるとき命題 R が成り立つ」ということを意味する
(A2-19a) | T が S と同一の項 R | が成り立つ。 |
(A2-19b) | S R | が成り立つ。 |
という2つの条件が普遍的に同等になるような推論規則を追加することにします。
このとき、本文第4節で与えた ( º 導入) という推論規則が º の導入規則になります。
実際、( º 導入) と (A2-19b)
を仮定すると、(A2-19a)
の上段から ( º 導入) により º T(A2-19b)
により R が導かれるので、確かに (A2-19a)
が導出されることがわかります。
逆に (A2-19b)
が成り立つような推論体系では、R に Þ (A2-19a) º T(A2-19b)
は自明に成り立つので、仮定により R に º T(A2-19a)
が成り立ち、これは推論規則 ( º 導入) が成り立つということに他なりません。
また、本文第1節で与えた ( º 消去) という推論規則が º の消去規則になります。
実際、( º 消去) と (A2-19a)
を仮定すると、R の中に現れる項 T のところを R に現れない自由変数 x に置き換えて得られる命題を R' と書くと、R は (T | x)
R'(A2-19a)
により、T が S と同一の項なら R が成り立ちますが、これは R の T を S に置き換えた命題、すなわち (S | x)
R' º T(S | x)
R'º 消去) を適用すれば、(T | x)
R'(A2-19b)
が成り立っていることを意味します。
逆に (A2-19a)
が成り立つような推論体系では、Þ (A2-19b) º T(S | x)
P :º (T | x)
P(S | x)
P(A2-19a)
が成り立つことを意味しているので、仮定により (A2-19b)
が成り立ちますが、その上段 º T(T | x)
Pº 消去) が導出できたことを意味します。
また、第4節のメタ定理41により、論理記号の場合のメタ定理5、メタ定理6と同様な性質が成り立ち、この場合も消去規則が導入規則に共役な推論規則であることがわかります。
さて、以上解説してきたことをまとめると、直観主議論理とは、すべての論理記号とその推論規則を、どういう命題がどのように証明されているかという超数学的な状態の中から有用なものを選んでこれを形式化することによって次々に理論を拡大していって得られた論理であるとみなすことができます。
すなわち、直観主義論理の論理記号の消去規則というのは、勝手に定めたものではなく、与えられた導入規則に共役な推論規則として(本質的に)一意に定まる推論規則でなければならない、という条件が付いているわけです。
もともと、消去規則は一般に導入規則より複雑な形をしていることや、消去規則には「場合分けの方法」「三段論法」「補助定数の方法」のように、まるで“法則”であるかのような名前が付けられているものがあることや、「矛盾からは何でも導くことができる」という推論規則を証明なしに認めることには違和感を感じることなど、消去規則には、より上位に何らかの指導原理があって、そこから導出されるものなのではないかという期待があったのですが、上記の議論は、まさにそのとおりであったことを示しています。
ところで、上述のような“消去規則群が導入規則群に共役である”という性質は、直観主義論理に特徴的な性質で、古典論理にはないものです。実際、古典論理では、否定記号 Ø の導入規則と消去規則がこのような共役な関係になく、そのために、消去規則が論理記号の定義という役目を超えて“余計な命題”まで証明してしまうことがあることは、第3節の最後でコメントしたように、同節メタ定理39 (h),(i),(k)
、メタ定理40 (c)
の例が示すとおりです。
なお、直観主義論理のように、構文論的なある状態に注目し、その概念が満たす構文論的な性質をいくつか挙げ、その概念と性質を理論内部の概念として「形式化」するという理論拡大の方法は、第4節で導入した等号やε量化記号や第5節で導入した冪理論や再帰的集合論においても採用されている方法です。
すなわち構成主義数学というのは、論理記号だけでなく、数学において導入すべき記号や推論規則や公理も、構文論的な概念とその概念が持つ性質を形式化するいう方法のみによって導入していく立場であるということができます。
さて、以上の解説は、直観主義論理を純粋に構文論的な手法のみによって正当化する方法を述べたものですが、それでは数学のデファクト・スタンダードである古典論理を構文論的に正当化するにはどうしたらよいでしょうか。
述語記号 p 、論理接続詞 s 、命題型量化記号 π に対し、
(A2-20a) pT |
(A2-20b) sP |
(A2-20c) πxS |
で定義し、論理式 S の中の述語記号 p 、論理接続詞 s 、命題型量化記号 π をすべて
(A2-21a) x は x である。 |
(A2-21b)関数記号 f に対し、 ( f T |
(A2-21c)述語記号 p に対し、 ( pT T |
(A2-21d)論理接続詞 s に対し、 (sP P |
(A2-21e)命題型量化記号 π に対し、 (πxS) xS |
(A2-21f)項型量化記号 τ に対し、 (τxS) |
(A2-21g)項 T に対し、 ((T | x)S) (T | x)S |
この (A2-21c),(A2-21d),(A2-21e)
と (A2-20)
により、命題 P に対する
(A2-22)命題 P に対し、 |
ということがわかります。
さて、Ù , Ú , Þ , " , $ , ^ のいずれかを s と表わし、上に掲げた s の導入規則 (s 導入i ) に対して
(s導入i ) |
|
Ci |
という図式は導出可能です。ただし
実際、(s 導入i ) を Γ
, 1
¼,
導入i ) の上段から
® sP1¼ Pk
® sP1¼ Pk
® (sP1¼ Pk )
また、上に掲げた s の消去規則 (s 消去j ) に対して
(s消去j ) |
|
(sP |
という図式は導出可能です。ただしこの場合も公理 Γ は
実際、(s 消去j ) を Γ
, 1
¼,
® sP1¼ Pk
消去) 上段の2段目以降のsequent
が定理なら、
® Rj
ゆえに、(s
消去j ) 上段の2段目以降のsequent
が定理なら、対偶に関するメタ定理17を2回適用して、
® ØØ sP1¼ Pk
® ØØ RjØØ sP1
¼ Pk(sP
1¼ Pk )ØØ Rj
(A2-22)
により
消去j ) が導出されたことを意味します。
さらに、(A2-21g)
に注意すれば、第4節の等号 º を º
Î を Î
さて、 が成り立ちます。
一般に、命題 P を ちなみに R と ところで ということがわかります。 それでは論理記号 と表現することができ、 以上の準備のもとで、次のメタ定理が証明できます。
実際、公理 Γ が Þ
^Ø
P^
ØØ^^ と同値ですから、メタ定理5、20により Ø
PØØ(P
Þ ^)ØØØPØP
(A2-23) Γ
® P Ú ØP
sequent
に現れる命題を一斉に古典論理的に解釈すると、これは直観主義論理の証明文になる、ということです。すなわち次の結果が得られました:
(A2-24)
古典論理で ® R
® R
(A2-24)
の逆は明らかです。
(A2-22)
とメタ定理38により、s が Ù , Þ , " のとき、1
¼ PkP
1¼ Pk^ の場合にも成り立っています。すなわち
(A2-25)
s が Ù , Þ , " , ^ のいずれかのときは、1
¼ PkP
1¼ Pk
Ù , Þ , " , ^ のときにそれと s が(直観主義論理で)同値だということは、これらの論理記号について“古典論理と直観主義論理で意味が同じである”ということを意味します。
Ù , Þ , " , ^ と、それ以外の論理記号 Ú , $ には形式上どういう違いがあるのでしょうか。
直観主義論理では、消去規則は導入規則の共役な推論規則として一意的に定まるものでしたから、論理記号の性質は導入規則によって決定されるはずです。
そこで、各論理記号の導入規則を眺めると、論理記号が Ù , Þ , " , ^ である場合、その場合に限って導入規則の下段が与えられれば上段が復元できる、すなわち「証明文の中で、sequent
® sP1¼ Pk
例えば Ù の場合、Ù の導入規則は一つしかなく、下段のsequent
を ® P Ù Q Ù Q Ù 導入) の上段は実は ® P ® QÞ についても同じです。また " についても、自由変数の違いを除けば上段が一意に決まります。
これに対し、Ú の場合、導入規則により ® P Ú Qsequent
が得られたとしても、Ú に関する導入規則は2つあるので、下段の情報だけではどちらの導入規則を用いたのかがわからず、従って上段を一意的に復元することができません。$ の場合も、上段に現れる項 T が下段では失われているので、やはり下段の情報だけで上段を復元することはできません。
そこで、導入規則の下段の情報だけから上段が復元できるような論理記号を復元可能であるということにすれば、上記の事実は
(A2-26) 直観主義論理においては
Ù , Þ , " , ^ は復元可能であり、Ú , $ は復元可能でない。(A2-25)
は“復元可能な論理記号は古典論理でも直観主義論理でも意味が同じ”であることを示しています(付録9で、(A2-25)
の逆も成り立つことを確かめます)。
さて、復元可能な論理記号については、次のメタ定理が成り立ちます。
(A2-27)
s は復元可能な論理記号で、局所完全な消去規則を持つものとする。このとき、導入規則の下段の
sequent
が定理ならば、上段のsequent
もすべて定理である。
実際、s が復元可能ならば、 ® sP1¼Pksequent
S は、一意的に定まる (s 導入) の上段である C が成り立つときは明らかに証明可能です。ゆえに、消去規則が局所完全であるという仮定により、S は下段のsequent
® sP1¼Pk
(A2-28)
s は復元可能で、局所完全な消去規則を持つ k 変項論理記号とし、その導入規則の上段の
sequent
はすべて ,
Δi ® Pji1¼, 1¼ Pk1
¼ PkP
1¼ Pk1¼ Pk ® sP1¼ Pk(A2-27)
により、,
sP1¼ Pk ® Pji
ゆえにメタ定理17を2度使えば ,
ØØ sP1¼ Pk ® ØØ Pji,
ØØ sP1¼ Pk ® Pji
これは、公理 Γ が ØØ sP1¼ Pk,
Δi ® Pji ® sP1¼ PkØØ sP1¼ Pk ® sP1¼ Pk(A2-28)
が成り立つことを意味しています。
この性質 (A2-28)
こそが、(A2-25)
が成り立つ形式上の理由だということができます。