古典力学


4.剛体の力学

 質点系は、任意の2点間の距離が時間的に一定、すなわち任意の時刻 t に対し、

(4-1)  |si(t) - sj(t)| = |si(0) - sj(0)|

が成り立つ場合、剛体といいます。本節では剛体の運動を考察します。
 まず剛体という条件を詳しく分析するため、2つの時刻 tt' 及び特定の質点 s0 を任意に選んで固定し、

(4-2)  ri = si(0) - s0(0)

(4-3)  f(ri) = si(t) - s0(t)

と置きます。この対応 f について、(4-1) により明らかに

(4-4)  | f(ri) - f(rj)| = |ri - rj|

が成り立ちます。また、r0 = f(r0) = 0 ですから、(4-4)j = 0 と置けば、

(4-5)  | f(ri)| = |ri|

が成り立ちます。これらの関係式を用いて、ある正方行列 A が存在して

(4-6)  f(ri) = Ari

が成り立つことを証明しましょう。まず (4-5) を2乗すれば、

(4-7)  f(ri) · f(ri) = ri · ri

 次に (4-4) を2乗すれば、

(4-8)  { f(ri) - f(rj)}·{ f(ri) - f(rj)} = (ri - rj) · (ri - rj)

 これを展開して (4-7) を使えば

(4-9)  f(ri) · f(rj) = ri · rj

がわかります。ゆえに、任意の実数 ai に対して

(4-10)  |åi ai f(ri)|² = åij aiaj f(ri) · f(rj) = åij aiajri · rj = |åi airi

 ただし2番目の等号で (4-9) を使いました。すなわち

(4-11)  |åi ai f(ri)| = |åi airi|

が成り立ちます。そこで、{ ri | i=1,2,¼ } の張る R³ の部分空間 E の任意の点

(4-12)  r = åi airi

に対し、g(r)

(4-13)  g(r) = åi ai f(ri)

で定義します。この定義式で g(r) が一意的に定まることを示すために、r が別の表現:

(4-14)  r = åi biri

を持ったとすると、(4-12),(4-14) により

(4-15)  åi (ai - bi)ri = 0

となりますから、(4-11) により、

(4-16)  |åi (ai - bi) f(ri)| = |åi (ai - bi)ri| = 0

 すなわち

(4-17)  åi ai f(ri) = åi bi f(ri)

となって g(r) が一意的に定まることがわかります。g は、その定義の仕方から明かに線形であり、しかも ri に対しては

(4-18)  g(ri) = f(ri)

ですから、gf の拡張になっています。しかも (4-11) により

(4-19)  |g(r)| = |r |      ( r Î E )

ですから、g は等距離線形写像です。したがって、gR³ 全体で定義された等距離線形写像に拡張することができます。すなわち、ある直交行列 A が存在して、

(4-20)  g(r) = Ar

が成り立ち、(4-6) が証明されました。なお、このような A は、E の次元が2以上なら、t について連続なものが一意的に定まりますから、今後そのようになっているものと仮定します。

 さて、任意の実数の組 ai を選んで

(4-21)  s(t) = s0(t) + åi ai{si(t) - s0(t)}

と置くと、

(4-22)  s(t) - s0(t) = åi ai f(ri)      ( (4-3) )

= g( åi airi)      ( (4-12),(4-13) )

= g( åi ai{si(0) - s0(0)} )      ( (4-2) )

= g(s(0) - s0(0))      ( (4-21) t = 0 とおく )

= A{s(0) - s0(0)}      ( (4-20) )

 一方、

(4-23)  si(t) - s0(t) = f(ri) = g(ri) = Ari = A{si(0) - s0(0)}

ですから、(4-23) から (4-22) を引けば、

(4-24)  si(t) - s(t) = A{si(0) - s(0)}

そこで

(4-25a)  si º si(t)

(4-25b)  s º s(t)

(4-25c)  s'i º si - s

(4-26a)  sio º si(0)

(4-26b)  so º s(0)

(4-26c)  s'io º sio - so

と置けば、(4-24)

(4-27)  s'i = As'io

となります。なお、(4-21) で特に ai = mi / m と置けば、

(4-28)  s(t) = s0(t) + åi  mi
—–
m
{si(t) - s0(t)} = åi misi(t)
————
 m 

となって s は重心になりますが、本節の議論は s が重心でなくても成り立ちます。(4-27) の両辺を t で微分すると、

(4-29)  v'i º ·
s'i =
 ·
As'io
=
 ·
AA-1s'i = Ωsi'

 ただし

(4-30)  Ω º  ·
AA-1 =
 ·
AA

と置きました。ここで は転置行列を表し、最後の等号は、A が直交行列であること:

(4-31)  1 = AA

を使いました(左辺の 1 は3次の単位行列を表わします)。さて、Ω がどんな行列であるかを調べるため、(4-31) の両辺を t で微分すれば、

(4-32)  0 =  ·
AA
+
    ·
AA
=
 ·
AA + (
 ·
AA ) = Ω + Ω

 これは Ω が反対称行列であることを示しています。したがって、Ω は、ある実数 wi ( i=1,2,3 ) により

(4-33)  Ω = æ
ç
ç
è
0  -w3 w2 ö
÷
÷
ø
w3 0  -w1
-w2 w1 0 

と書けます。(4-33) から、任意のベクトル ξ に対し、

(4-34)  Ωξ = ω ´ ξ

が成り立つことがわかります。ただし、ωwi ( i=1,2,3 ) を成分にもつベクトルで、角速度とよばれます。また、ω // ξ ならば Ωξ = ω ´ ξ = 0 ですから、ω に平行な直線を回転軸といいます。(4-34) を用いると、(4-29)

(4-35)  v'i = ω ´ s'i

と書けることがわかります。ゆえに (4-25c)t で微分し、(4-35) を用いると、

(4-36)  vi = v + v'i = v + ω ´ s'i

が成り立ちます。また、s を中心に考えた総角運動量 L' は、(3-20) により

(4-37)  L' = åi s'i ´ p'i = åi s'i ´ miv'i = åi s'i ´ mi(ω ´ s'i) = åi mi{ |s'i|²ω - s'i(s'i · ω)}

 ただし、3番目の等号で (4-35) を使いました。ここで、慣性テンソルと呼ばれる3次の対称行列 I を、

(4-38)  I = åi mi{ |s'i 1 - s'i s'i }

で定義すれば、

(4-39)  L' =

が成り立ちます。また、s を中心に考えた運動エネルギー K' は、(3-31) により、

(4-40)  K' = åi miv'i²
——–
 2 
= åi mi|ω ´ s'i
————–
 2 
= åi mi(ω ´ s'i) · (ω ´ s'i)
—————————
 2 
= åi ω · {mis'i ´ (ω ´ s'i)}
—————————
 2 
=  ω · L'
——–
2
=  ω ·
———
2

 すなわち

(4-41)  K' =  ω
——–
 2 

が成り立ちます。

 次に運動エネルギーの式 (1-3) について考察してみましょう。まず (N2) により、一般に時刻や質点に依存する実数 aij が存在して

(4-42)  Fij = aij(si - sj)

と書けます。ゆえに、これと (1-1),(1-2) により

(4-43)  dK
——
d
t
= åi d
—–
 d
t
mivi²
——–
 2 

= åi vi ·{Fi + åj Fij}

= åi vi · Fi + 1
—–
2
 åij (vi - vj) · Fij

= åi vi · Fi + 1
—–
2
 åij aij(si - sj) · (vi - vj)

= åi vi · Fi + 1
—–
4
 åij aij d
—–
 d
t
|si - sj

 剛体では |si - sj|t によらないので、右辺第2項は消えます。したがって

(4-44)  dK
——
d
t
= åi vi · Fi

 この (4-44) は、前節と異なり、Fij の大きさについて何の仮定も追加せずに導かれたことに注意します。ここで Fi の一部がポテンシャル・エネルギー Ui(si) によって (3-37) のように書ける場合は、U(3-39) で定義すれば、前節の結果により、

(4-45)  d
—–
 d
t
(K + U ) = åi vi · F'i

が成り立ちます。特に、外力 Fi がすべてポテンシャル・エネルギーによる場合は、エネルギー保存則

(4-46)  K + U = e      ( 一定 )

が成り立ちます。

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