古典力学


5.慣性テンソル

 前節で出てきた慣性テンソル I は時間と共に変化します。そこで、これを時間によらないテンソルで表すことを考えます。(4-27)(4-38) により、

(5-1)  I = åi mi{ | As'io1 - (As'io)(As'io) } = åi mi{ | s'io 1 - As'io(s'io)A } = åi mi{ | s'io AA - As'io(s'io)A }

 ゆえに

(5-2)  I = AIoA

 ただし

(5-3)  Io = åi mi{ |s'io1 - s'io(s'io) }

は時刻 t = 0 における慣性テンソルで、t に依存しません。Io は対称行列ですから、ある直交行列 D が存在して

(5-4)  Io = D æ
ç
ç
è
I1
0 
0 
0 
I2
0 
0 
0 
I3
ö
÷
÷
ø
D 

と対角化できます。Ii ( i=1,2,3 )Io の固有値ですが、これらを慣性モーメントといいます。ここで、列ベクトル ei ( i=1,2,3 ) を、

(5-5)  AD = (e1, e2, e3)

で定義すると、

(5-6)  (Ie1 , Ie2 , Ie3) = IAD = AIoD = AD æ
ç
ç
è
I1
0 
0 
0 
I2
0 
0 
0 
I3
ö
÷
÷
ø
= (e1, e2, e3) æ
ç
ç
è
I1
0 
0 
0 
I2
0 
0 
0 
I3
ö
÷
÷
ø
= (I1e1 , I2e2 , I3e3)

となるので、ei は固有値 Ii に対する長さ 1 の固有ベクトルです。これら ei の方向を慣性主軸と呼びます。ここで

(5-7)  ω' = Aω = A-1ω

(5-8)  ω" = Dω' = D-1ω'

と置けば、(5-4),(5-2),(4-41) により

(5-9)  ω" æ
ç
ç
è
I1
0 
0 
0 
I2
0 
0 
0 
I3
ö
÷
÷
ø
ω" = ω'D æ
ç
ç
è
I1
0 
0 
0 
I2
0 
0 
0 
I3
ö
÷
÷
ø
Dω' = ω'Ioω' = ωAIoAω = ω = 2K'

となりますが、(4-40) により K' > 0 であり、ω" は任意にとれますから

(5-10)  Ii > 0

 すなわち慣性モーメントは正であることがわかります。また、ω が慣性主軸の方向を向いていれば、ある i に対して

(5-11)  ω = aei

と書けるので、これを (4-39) に代入して (5-6) を使えば

(5-12)  L' = = aIei = aIiei = Iiω

となって、s を中心にした角運動量と角速度の方向は一致します。

 さてここで、外力 Fi が存在しない場合を考えてみましょう。まず (1-9) により p は一定、従って (3-30) により Kg も一定です。一方、(4-46)U = 0 なので、K も一定、従って (3-32) により K' も一定です。ところで、(5-10) により、

(5-13)  ξIoξ = 1

を満たす ξ の全体は一つの楕円体を構成します。これを慣性楕円体といいます。(5-7) により、ω' は剛体に固定した座標から見た角速度ですが、(5-9)ω'2K が慣性楕円体上を動くことを示しています。
 また、(3-24),(3-28) により L' は一定、したがって、(4-39) により

(5-14)   = L' = (一定)

 これと ω の内積をとれば、(5-9) により

(5-15)  L' · ω = ω · = ω = 2K' = (一定)

となりますが、ξ の方程式:

(5-16)  L' · ξ = 2K'

t に依存しない平面の方程式ですから、角速度 ω はこの平面上を動くこともわかります。また、(5-14) は、(5-2),(5-7) により

(5-17)  AIoω' = L' = (一定)

と書けるので、両辺にそれぞれの転置行列を左から乗じると、A が直交行列であることと Io が対称行列であることにより、

(5-18)  ω'(Ioω' = |L'= (一定)

となって、(5-9) とは別の楕円体の式が得られます。すなわち、ω' は、(5-9),(5-18) という2つの楕円体の交線上を動くことがわかります。

 次に、剛体が特別な形(質量分布)をしている場合について、慣性モーメントを計算してみましょう。(5-3) は、質量密度が r の連続的な分布をしている場合には、積分によって

(5-19)  Io = ò (|s 1 - ss)rdV

と表わせます。ここで rz-軸に対して回転対称、すなわち積分の変数を円筒座標 (r, q, z)

(5-20a)  x = r cos q

(5-20b)  y = r sin q

(5-20c)  z = z

で表わしたとき、rq に依存しない場合を考えます。

(5-21)  |s= x² + y² + z² = r² + z²

が成り立ちますから、

(5-22)  |s 1 - ss = æ
ç
ç
è
|s-x²
-yx
-
zx
-xy
|s-y²
-zy
-xz
-
yz
|s-z²
ö
÷
÷
ø
= æ
ç
ç
è
  r²sin²q + z²
-r²sin q cos q  
-rz cos
q
-r²sin q cos q  
  r²cos²q + z²
-rz sin
q
-rz cos q
-
rz sin q
  r²
ö
÷
÷
ø

よって (5-19) は、

(5-23)  Io = ò  ¥
   dz
ò  ¥
   r(r, z)rdr
0
ò 2p


0
æ
ç
ç
è
  r²sin²q + z²
-r²sin q cos q  
-rz cos
q
-r²sin q cos q  
  r²cos²q + z²
-rz sin
q
-rz cos q
-
rz sin q
  r²
ö
÷
÷
ø
dq = p ò  ¥
   dz
ò ¥


0
æ
ç
ç
è
r² + 2z²
0
0
0
r² + 2z²
0
0
0
2
r²
ö
÷
÷
ø
r(r, z)rdr

 従って z-軸は慣性主軸の一つであり、これを3番目の座標に持つ直交座標の座標軸はすべて慣性主軸です。このときの慣性モーメントについては

(5-24)  I1 = I2

が成り立ち、I1 = I2I3 の値は、z-軸を3番目の座標に持つ任意の直交座標について、それぞれ共通です。

 なお、sin(q + p/2) = cos qcos(q + p/2) = - sin q ですから、rq に依存する場合でも、q に関して周期 p/2 をもつ周期関数であれば、上記の結論はそのまま成り立つことがわかります。

 さて、(5-24) が成り立つとき、ω'z-軸に平行な成分 w'// z ( zz-軸方向の単位ベクトル ) と垂直な成分 ω'^ により

(5-25)  ω' = w'// z + ω'^

と分解すれば、(5-24) により

(5-26)  Ioω' = I3 w'// z + I1 ω'^

が成り立ちます。

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