古典力学


8.コマと摩擦力

 前節ではコマが倒れない理由を説明しました。しかし実際のコマの場合は、単に倒れないだけでなく、最初傾いて回転していても、次第に起き上がって回転軸が鉛直になろうとします。これは前節で説明した歳差運動とは異なるものです。なぜなら歳差運動では回転軸の傾きの角度は一定の範囲に保たれたままだからです。
 また、球の一部を平面で切り取って、そこに軸を付けた逆立ちゴマという玩具があり、最初に軸を上にして回すと次第にひっくり返り、軸が下を向いて安定します。
 これらの現象が生じるのは、すべて床との間に摩擦があるためです。本節では、床との摩擦を考慮した場合、水平な床の上で高速で回転する剛体に対して次の性質が成り立つことを定量的に説明します。


性質1

 剛体の回転軸は、次第に起き上がり、有限時間内に鉛直になる。

性質2

 回転軸が鉛直な場合、剛体は回転軸を鉛直に保ったまま、床との接点を変えながら重心の位置を上昇させ、有限時間内に重心の高さが極大値に達して安定する。

 通常のコマが直立するのも、逆立ちゴマがひっくり返るのも、これらの性質を使えば明らかです。

 さて、上記の性質を導出する議論に先立って、まず摩擦力の説明から始めましょう。物体が他の物体と接触することにより、動きあるいは動こうとする方向と逆方向に受ける力を摩擦力といいます。
 摩擦力を、摩擦の生じるメカニズムから解明するのは本稿の程度を超えるので、ここでは実験的な事実をもとに決めた以下のような天下り的な仮定を採用することにします:


静止摩擦

 ある物体 B が、接平面 S で別の物体 C と接して相対的に静止しており、BC から受ける力の S に垂直な成分(垂直抗力)を R > 0 とし、B に働くすべての力の S に平行な成分を Ke ( K > 0 , eSに平行なある単位ベクトル ) とするとき、静止摩擦係数とよばれる正定数 rs が存在し、B は、S との接点において、これらの力に加えてさらに

(SF)  F = - min{ K , rs R }e

の力(摩擦力)が働く。いいかえると、K > rs R でない限り、その物質には S に水平な方向の合力は生じない。

動摩擦

 ある物体 B が、接平面 S で別の物体 C と接して S に平行な相対速度 ve ( v > 0 , eSに平行なある単位ベクトル )運動しており、BC から受ける力の S に垂直な成分(垂直抗力)を R > 0 とするとき、動摩擦係数とよばれる相対速度に依存しない正定数 rd が存在して、B は、S との接点において、これらの力に加えてさらに

(DF)  F = - rd R e

の力(摩擦力)が働く。

 さて本題に入ります。本節では簡単のため、重心から見た剛体 B の慣性モーメントは球対称、すなわちスカラー I であるものとします:

(8-1)  L = Iω

 すなわち、この仮定のもとでは角運動量と回転軸の向きは一致します。

 さて、剛体 B は、平坦で水平な床の上で十分速く回転しているとします。その回転軸を l とし、l のまわりに B を1回転させて出来る回転対称な図形を B' とします。
 回転速度が十分速ければ、B は、B' が床に接するような位置で回転するはずです。この場合、Bl のまわりに回転対称でなく、かつ回転軸が傾いていれば、B 自身は一瞬“宙に舞う”こともあり得ます。
 さて、床からの摩擦力を考慮したとき、物体 B の回転軸はどのように変化するでしょうか。B の重心を原点に取り、原点のまわりの力のモーメントを考えてみましょう。
 床に垂直な上向き単位ベクトルを nB が床から受ける垂直抗力を R = R nB の回転軸に平行な上向きの(すなわち n との内積が正の)単位ベクトルを e 、角速度を ω = we とします。R > 0 ですが、w はコマの回転の向きによって正負いずれかの値をとります。
 ne のなす角を q ( 0 £ q £ p/2 ) とすれば、床に水平な単位ベクトル h をとって

(8-2a)  e = n cos q + h sin q

と書くことができます。e に垂直な2つの単位ベクトル e' , e"

(8-2b)  e' º h cos q - n sin q

(8-2c)  e" º e ´ e' = n ´ h

で定義します。一般に、B の点を l の回りに回転させてできる軌跡は円周であり、その上の点の位置ベクトルは、ある正定数 a > 0 と実定数 b により、f をパラメターとして

(8-3)  a(e' cos f + e" sin f) - be      ( f Î R )

という形に表わされますから、これらの点の中で床に接する点があるとすれば、それはこれらの点のうちで一番下にある、すなわち n との内積:

(8-4)  n · (ae' cos f + ae" sin f - be) = - a sin q cos f - b cos q

が最小値を取る点、すなわち cos f = 1 ( したがって sin f = 0 ) となるような点でなければなりません。したがって B' と床との接点の(重心を原点に取った)位置ベクトルを r とすれば、

(8-5)  r = ae' - be

となります。しかも B' はすべて床より上にあり、重心が原点なのですから、床との接点 r の回転軸 l への正射影は重心より下方にある、すなわち正射影の座標 - b は負、いいかえると b > 0 でなければなりません。

 さて、垂直抗力 R による重心のまわりの力のモーメント NR は、(8-5),(8-2) により

(8-6)  NR = r ´ R = (ae' - be) ´ R n = (ah cos q - bh sin q) ´ R n = R ( b sin q - a cos q ) e"

 また、床との接点 r における剛体の速度 v は、(4-35),(8-5),(8-2c) により

(8-7)  v = ω ´ r = we ´ (ae' - be) = wae"

となります。ところで摩擦力 F は、(DF) により、ある正数 k > 0 により

(8-8)  F = - kv = - kwae" = - Fe"      ( F º kwa )

となりますから、摩擦力による重心の回りの力のモーメント NF は、(8-5),(8-8),(8-2) により

(8-9)  NF = r ´ F = - F(ae' - be) ´ e" = - Fae - Fbe'

となります。したがって、(8-1),(3-28),(8-6),(8-9) により

(8-10)  dω
—–
 d
t
= 1
—–
I
dL
—–
d
t
= NF + NR
————
 I 
=  - Fae - Fbe' + R ( b sin q - a cos q ) e"
————————————————
I

となります。よって

(8-11)  w dw
—–
 d
t
= 1
—–
2
d
—–
 d
t
w² = 1
—–
2
d
—–
 d
t
(ω · ω) = ω · dω
—–
 d
t
= - Fwa
——
I

が成り立ちます。ただし最後の等号は (8-10)ω = we の内積をとることにより得られます。ゆえに

(8-12)  dw
—–
 d
t
= - Fa
—–
I

が成り立ちます。これから直ちに

(8-13)  dω
—–
 d
t
= d
—–
 d
t
(we) = w de
—–
d
t
+ dw
—–
 d
t
e = w de
—–
d
t
- Fae
——
I

が得られますから、(8-10)(8-13) を比較すれば

(8-14)  de
—–
d
t
= - Fbe' + R ( b sin q - a cos q ) e"
—————————————–
L

 ただし L º Iw と置きました。ゆえに、(8-14),(8-2b),(8-2c) により

(8-15)  d
—–
 d
t
(n · e) = n · de
—–
d
t
=  - Fbn · e' + R ( b sin q - a cos q ) n · e"
————————————————
L
= Fb sin q
———–
L

 一方 (8-2a) により

(8-16)  d
—–
 d
t
(n · e) = d
—–
 d
t
cos q = - sin q dq
—–
 d
t

ですから、(8-15),(8-16)F = kwa , L = Iw 及び I, k, a, b > 0 により

(8-17)  dq
—–
 d
t
= - Fb
——
L
= - kab
——
I
< 0

となり、q は次第に減少する、言い換えると回転軸が鉛直に近づくことがわかります。しかも q が最小値 0 に近づけば、b は床から見た重心の高さに近く、(DF) により F はほぼ一定であり、L が有界であることを考慮すると、|Fb/L|0 に近づくことはないため、q は有限時間内に最小値である 0 に到達することがわかります。そして q = 0 となった瞬間に (8-15) の右辺は 0 になり、n · e は一定となって、

(8-18)  e = n

のまま安定します。これは冒頭に掲げた性質1に他なりません。

 続いて性質2を確かめてみましょう。
 時刻 t における剛体の各部分の重心を原点にとった位置ベクトル s を、重心を原点として剛体に固定した座標 so で表わすと、第4節の A を用いて

(8-19)  s = Aso

と書け、(4-30),(4-34) が成り立ちます。ここで、ω, N º NR + NF , L , e , e' , e" , r を剛体に固定した座標で見たものをそれぞれ肩に o を付けて表わすことにします:

(8-20a)  ω = o

(8-20b)  N = ANo

(8-20c)  L = ALo

(8-20d)  e = Aeo

(8-20e)  e' = Ae'o

(8-20f)  e" = Ae"o

(8-20g)  r = Aro

 このとき、(8-1),(8-5) 及び ω = we から

(8-21)  Lo = Iωo

(8-22)  ro = ae'o - beo

(8-23)  ωo = weo

が成り立ちますが、さらに

(8-24)  N
= dL
—–
d
t
      ( (3-28) )

= d
—–
 d
t
(ALo)      ( (8-20c) )

= dA
—–
d
t
Lo + A dLo
—–
 d
t 

= ΩALo + A dLo
—–
 d
t 
      ( (4-30) )

= ΩL + A dLo
—–
 d
t 
      ( (8-20c) )

= ω ´ L + A dLo
—–
 d
t 
      ( (4-34) )

= A dLo
—–
 d
t 
      ( (8-1) )

ですから、両辺に左から A-1 を乗じれば、(8-20b) により

(8-25)  No = dLo
—–
 d
t 

が成り立ち、(3-28) 式が剛体に固定された座標に対しても成り立つことがわかります。
 さて、簡単のために、剛体の回転軸は最初から床に垂直で (8-18) は常に成り立っているものとします。このとき q = 0 ですから、(8-6),(8-9) から

(8-26)  N º NF + NR = - Fae - Fbe' - Rae"

が成り立ち、これと (8-20) から

(8-27)  No = - Faeo - Fbe'o - Rae"o

が成り立ちます。ゆえに (8-21),(8-25),(8-27) により

(8-28)  dωo
——
 d
t 
= 1
—–
I
dLo
—–
 d
t 
= No
——
 I 
= - Faeo + Fbe'o + Rae"o
—————————–
 I 

 一方、(8-23) により、(8-13) と同様に

(8-29)  dωo
——
 d
t 
= d
—–
 d
t
(weo) = w deo
——
 d
t 
+ dw
—–
 d
t
eo = w deo
——
 d
t 
- Faeo
——–
 I 

が成り立ちますから、(8-28),(8-29)L = Iw により

(8-30)  deo
——
 d
t 
= - Fbe'o + Rae"o
——————
 L 

 ところで B は、重心を原点とした位置ベクトルが r の点で床に接しており、q = 0(8-2a) により e = n ですから、(8-5) により

(8-31)  - b = e · r = min{e · s | sÎB } = min{eo · so | soÎBo }

が成り立ちます。ただし

(8-32)  Bo = {so | AsoÎB }

で、これは t に依存しません。r ÎB ですから roÎBo 、したがって dt を正又は負の無限小として時刻 t + dt における eob をそれぞれ eo + deob + db と書けば、

(8-33)  b + db
= - min{(eo + deo) · s|sÎBo}      ( (8-31) )

³ - (eo + deo) · ro      ( roÎBo )

= - (eo + deo) · (ae'o - beo)      ( (8-22) )

= - æ
è
eo + deo
——
 d
t 
dt ö
ø
· (ae'o - beo)

= - æ
è
eo - Fbe'o + Rae"o
——————
 L 
dt ö
ø
· (ae'o - beo)      ( (8-30) )

= b + Fab
——
L
dt

 ゆえに

(8-34)  db ³ Fab
——
L
dt

 したがって、(8-34) の両辺を dt > 0 であるような dt で割れば

(8-35)  db
—–
 d
t
³ Fab
——
L

 次に、(8-34) の両辺を dt < 0 であるような dt で割れば

(8-36)  db
—–
 d
t
£ Fab
——
L

 ゆえに、(8-35),(8-36)F = kwa , L = Iw 及び I, k, a, b > 0 により

(8-37)  db
—–
 d
t
= Fab
——
L
= ka²b
——–
I
> 0

が成り立ちます。ところで (8-31) の最初の等号により、b は床から測った重心の高さですから、(8-37) は、時間の経過と共に重心の位置が高くなることを意味しており、これは冒頭に掲げた性質2(ただし「有限時間内に」以下の部分を除く)の証明になっています。

 残る「有限時間内に」以下の部分を確かめるため、床との接点が剛体上に描く曲線の、時刻 t における接点の曲率半径を r 、その曲線にその接点で接する円の中心の(重心を原点とした)位置ベクトルを c とし、ce のなす角を y とすれば、

(8-38)  r = c - rn = c - re

(8-39)  c · e = c cos y

ですが、(8-5),(8-38) から

(8-40)  c = ae' + (r - b)e

 これと e の内積をとって (8-39) を用いれば、

(8-41)  r - b = c cos y

 また (8-39),(8-40),(8-2c) から

(8-42)  c sin y = |e ´ c| = |ae"| = a

ですから、(8-37)

(8-43)  d
—–
 d
t
(r - c cos y) = Fbc sin y
————
L

となりますが、rct に関する微分は時刻 t において 0 ですから、両辺を c sin y で割って、

(8-44)  dy
—–
 d
t
= Fb
—–
L

が得られます。b は床から見た重心の高さであり、(DF) により摩擦力 F はほぼ一定ですから、y はある正の値より速く p に向かって増加していくことがわかります。そしてひとたび y = p に到達すると、c = - e ですから (8-40) により

(8-45)  a = c · e' = 0

となって、(8-37) の右辺は 0 となり、床との接点が重心の真下に来たまま安定して回転することがわかります。

 以上で性質2の「有限時間内に」以下の部分が示されました。

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