微分多様体


2.テンソルと微分形式

 R を乗法の単位元を持つ可換環、VR-加群とします。TVp 上のpR-線形汎関数、すなわち Vp から R への写像で、

(2-1)  T(v1 ,¼, vi-1 , avi + a'v'i , vi+1 ,¼, vp ) = aT(v1 ,¼, vi-1 , vi , vi+1 ,¼, vp ) + a'T(v1 ,¼, vi-1 , v'i , vi+1 ,¼, vp )

が任意の i= 1,¼,pvj , v'iÎVa, a'ÎR について成り立つとき、TV 上の p階の共変テンソルまたは( p,0)-テンソルと言います。引数に対して反対称、すなわち

(2-2)  ω(v1 ,¼, vi-1 , vj , vi+1 ,¼, vj-1 , vi , vj+1 ,¼, vp ) = - ω(v1 ,¼, vp )

i<j£ p について成り立つような p階共変テンソル ωV 上の p次微分形式または省略して p形式といいます。(2-2)vi = vj と置くことにより、p形式の引数の中に同じものがあれば 0 になることがわかります。
 p階共変テンソルの全体は自然な演算で R-加群になります。特に1階の共変テンソル(=1形式)を共変ベクトルといい、その全体を V* と書くことにします。V* はまた V双対空間とも呼ばれます。
 また、(V*)q 上のqR-線形汎関数を V 上の q階の反変テンソルまたは(0, q)-テンソルといい、特に1階の反変テンソルを反変ベクトルといいます。
 さらに Vp´(V*)q 上の p+qR-線形汎関数を V 上の p+q階の混合テンソル、あるいは( p, q)-テンソルといいます。また R の元のことをスカラー又は (0,0)-テンソルともいうことにします。( p, q)-テンソルの全体も自然な演算で R-加群になります。

 さて、今後しばらく Vn個の基底 e1 ,¼, en を持つ場合を考えます。ただし基底とは、任意の vÎV

(2-3)   v =  n
å
i=1
viei       ( viÎR )

一意的に表わせることをいいます。なお、vi を、与えられた基底のもとでの vi (反変)成分といいます。
 また、p階の共変テンソル T に対し、Tij¼k = T(ei , ej ,¼, ek )ÎR を、与えられた基底のもとでの Tij¼k (共変)成分といいます。この成分表示を使えば、

(2-4)  T(v1 , v2 ,¼, vp ) = n
å
i,j,¼,k=1
v1iv2j¼vpkTij¼k

と書くことができます。ただし vijvi の第 j 成分を表します。
 次に、各 i=1,¼,n に対して V から R への写像 εi

(2-5)  εi(v) = vi

で定義すると、各 εi は共変ベクトル、すなわち V* の元です。しかも (2-3),(2-5) により、任意の υÎV* に対して

(2-6)   υ(v) =  n
å
i=1
viυ(ei) =  n
å
i=1
εi(v)υ(ei)

 すなわち

(2-7)   υ =  n
å
i=1
uiεi       ( ui = υ(ei)ÎR )

と表せます。一方、表示 (2-3) の一意性により、(2-5)v = ej と置けば、

(2-8)  εi(ej) = dij

となりますから、もし viÎR

(2-9)    n
å
i=1
uiεi = 0

を満たすなら、これに ej を代入すれば uj = 0 となるので ε¹ ,¼, εnV* の基底になっています。これを e1 ,¼, en双対基底といいます。なお vi は、定義により、与えられた基底のもとでの v の第 i (共変)成分にほかなりません。
 また、( p, q)-テンソル T に対し、Ti¼jk¼m = T(ei ,¼, ej ; εk ,¼, εm)ÎR を、与えられた基底のもとでの Ti¼j (共変)-k¼m (反変)成分といいます。この成分表示を使えば、

(2-10)  T(v1 ,¼, vp ; v¹ ,¼, vq ) =  n
å

i,¼,j;k,¼,m=1
v1i¼vpjv¹k¼vqmTi¼jk¼m

と書くことができます。ただし vijvi の第 j 成分を、vijvi の第 j 成分を表します。

 さて、V*R-加群ですから、そのまた双対空間 V** を考えることができます。任意の v に対し、v* V* ® R

(2-11)  v*(υ) = υ(v)

で定義すれば、明らかに v*ÎV** であり、しかも v ¹ 0 なら、ある i 成分 vi0 でないので v*(εi) = εi(v) = vi0 でなく、したがって v* ¹ 0 ですから v |® v* の対応は1対1で、この両者を同一視することができます。
 また逆に、任意の f ÎV** に対し、

(2-12)  v =  n
å
i=1
 f(εi)ei

と置けば、任意の υÎV* に対し、

(2-13)   υ(v) =  n
å
i=1
 f(εi)υ(ei) =  n
å
i=1
 f(εi)ui = f æ
è
 n
å
i=1
uiεi ö
ø
= f(υ)

 すなわち f = v* となり、v |® v* の対応は V から V**上への写像であることがわかります。これは上述の同一視で

(2-14)  V** = V

が成り立つことを意味しています。V** の元というのは要するに反変ベクトルのことですから、(2-14) は、V が有限個の基底を持つ場合、V の元と反変ベクトルが同一視できることを意味しています。

 さて、V が有限個の基底を持つ場合、基底は複数組あり得ますが、基底の個数nは基底の取り方によらず一意的に定まることを確かめておきましょう。証明は、R体であるとは限らないので若干工夫が必要です。まず n個の添字 i, j,¼, k に対して、

(2-15)  eij¼k = ì
í
î
1     (
-1
    (
0
    (
i, j,¼, k が偶置換のとき )
i, j,¼,
k が奇置換のとき )
i, j,¼,
k の中に同じものがあるとき )

と置きます。ただし 1R の乗法の単位元を表します。n個の

(2-16)  vi =  n
å
j=1
vijej ÎV       ( i=1,¼, n )

に対し、

(2-17)  ωo(v1 ,¼, vn ) =  n
å
i,j,¼,k=1
v1iv2j¼vnk eij¼k

と置けば、ωon形式であり、ωo(e1 ,¼, en) = 1 ですから、V には 0 でないn形式が存在することがわかります。次に、p>n とすると、任意のp形式 ωp個の viÎV に対して、各 vi(2-10) により表せば、

(2-18)  ω(v1 ,¼, vp ) =  n
å
i,j,¼,k=1
v1iv2j¼vpk ω(ei , ej ,¼, ek)

となりますが、引数 ei , ej ,¼, ekp(>n)個ありますから、これらの中には同じものが必ず最低1組は存在します。従って、ω の反対称性により、ω(ei , ej ,¼, ek) = 0 となり、従って (2-18) の右辺は 0 です。すなわち、V には 0 でないn形式が存在し、かつ p>n ならばp形式は 0 しか存在しないことがわかりました。この性質は特定の基底によらない性質ですから、n が基底の取り方によらず一意的に定まることがわかります。この nR 上の V次元といい、dimRV と書くことにします。

 さてここで、以上の概念を多様体に適用します。sn次元多様体 M の点とし、R = RV = TsM として得られるテンソルのことを、s におけるテンソルp形式のことをs におけるp形式またはp次微分形式とよぶことにします。この場合、V は基底 { (¶/¶xi)s | i=1,¼,n } を持つn次元空間です。
 また、R = E(M)V = X(M) として得られるテンソルのことを、Mテンソル場p形式のことを Mp形式またはp次微分形式といいます。局所座標 xM 全体で定義されていれば、V は基底 { ¶/¶xi | i=1,¼,n } を持ち、その次元は n となります。
 さて、Mp階共変テンソル場 TM の点 s に対し、Ts

(2-19)  Ts(v1 ,¼, vp) = T(D1 ,¼, Dp)(s)

で定義します。ただし、任意に与えられた viÎTs(M) に対し、Di(1-37) により存在が保証された

(2-20)  (Di)s = vi

を満たすベクトル場です。さて、(2-19) の定義が Di の選び方に依存しないことを確かめなければなりませんが、TE(M)-線形性により、ある i に対して (Di)s = 0 のとき (2-19) の右辺が 0 になることを確めれば十分です。(1-34) により、

(2-21)  Di =  n
å
j=0
hjD(j)       ( hjÎE(M) , hj(s) = 0D(j)ÎX(M) )

となりますから、TE(M)-線形性により、

(2-22)  T(D1 ,¼, Dp ) =  n
å
j=0
hjT(D1 ,¼, Di-1 , D(j) , Di+1 ,¼, Dp )

となるので、s を代入すると hj(s) = 0 ですから右辺は 0 になります。

 Mp階共変テンソル場 T と、M の開集合 U に対する D1 ,¼, DpÎX(U) に対して TU (D1 ,¼, Dp )

(2-23)  TU (D1 ,¼, Dp )(s) = Ts((D1)s ,¼, (Dp)s)       ( sÎU )

で定義すると、TUU 上のp階共変テンソル場となり、U 上で

(2-24)  TU ((D1)U ,¼, (Dp)U ) = T(D1 ,¼, Dp )       ( DiÎX(M) )

が成り立ちます。これを p = 1 、すなわち共変ベクトル場の議論に応用してみましょう。
 M の共変ベクトル場 ω に対し、sÎMs で定義された局所座標 x を取り、その定義域に含まれ s を含む開集合 U を取ります。ei = ¶/¶xi ( i=1 ,¼, n )X(U) の基底ですから、その双対基底 εi ( i=1 ,¼, n ) を取ると

(2-25)  ωU =  n
å
i=1
wiεi       ( wi = ωU(ei) )

 任意の DÎX(M) に対し、(2-24),(2-25) により、U 上で

(2-26)  ω(D) = ωU(DU) =  n
å
i=1
wiεi(DU)

 ここで、(1-8) のような 1 をとると、DÎX(M) に対して 1εi(DU)ÎX(M)* かつ

(2-27)  (1ω =  n
å
i=1
1wi 1εi

ですから、(1-34) と同様に、

(2-28)  ω =  n
å
i=0
hiωi       ( hiÎE(M) , ωiÎX(M)* )

と書けます。ただし h0 = 1 - (1ω0 = ωhi = 1wiωi = 1εi ( i=1,¼, n ) です。
 もし ωs = 0 なら (2-23) により (ωU )s = 0 なので、(2-25) により wi(s) = 0 、したがって hi(s) = 0 となり、(2-21) と同様な結果が得られます。

 ところで、任意の sÎMs の任意の共変ベクトル v に対し、

(2-29)  ωs = v

となる共変ベクトル場 ω が存在します。実際、v(2-7) の形に表して、wi = vi と置いて、(2-25)ωU を構成し、(1-8) のような 1 を使って ω = 1ωU と定義すればこれが求めるものです。

 さて、M( p, q)-テンソル場 T に対しても、vi = (Di)s , vj = (ωj)s となる Di , ωj を用いて Ts

(2-30)  Ts(v1 ,¼, vp ; v¹ ,¼, vq ) = T(D1 ,¼, Dp ; ω¹ ,¼, ωq )(s)

で定義することができて、Tss( p, q)-テンソルになります。また、M の開集合 UDiÎX(U) , ωjÎX(U)* , sÎU に対して TU を、

(2-31)  TU (D1 ,¼, Dp ; ω¹ ,¼, ωq )(s) = Ts((D1)s ,¼, (Dp )s ; (ω¹)s ,¼, (ωq )s )

で定義すると、TUU 上の( p, q)-テンソル場となり、DiÎX(M) , ωjÎX(M)* に対して U 上で

(2-32)  TU((D1)U ,¼, (Dp )U ; (ω¹)U ,¼, (ωq )U) = T(D1 ,¼, Dp ; ω¹ ,¼, ωq )

が成り立ちます。

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