微分多様体


3.行列式・トレース・縮約

 本節では R を乗法の単位元を持つ可換環、Vn次元のR-加群とし、R-加群上の行列式トレースを定義し、その応用としてテンソルの縮約を定義します。
 任意のn形式 ω に対し、ω の反対称性から

(3-1)  ω(ei , ej ,¼, ek) = eij¼kω(e1 ,¼, en )

が成り立ちますから、これを p = n と置いた (2-18) に代入し、(2-17) と比較すれば、

(3-2)  ω(v1 ,¼, vn ) = ωo(v1 ,¼, vn ) ω(e1 ,¼, en )

 が得られますが、v1 ,¼, vn は任意ですから、

(3-3)  ω = cωo       ( c = ω(e1 ,¼, en )ÎR )

 すなわち、任意のn形式は ωo のスカラー倍として書けることがわかります。しかも (3-3)e1 ,¼,en を代入すると、

(3-4)  ω(e1 ,¼,en ) = cωo(e1 ,¼,en ) = c

となるので、(3-3) を満たすスカラー c は一意的に定まります。

 さて、AV自己準同型、すなわち V からそれ自身へのR-線形写像とすると、ωo(Av1 ,¼, Avn )v1 ,¼,vn に関してnR-線形かつ反対称ですから、一つのn形式を定めます。したがって (3-3) により、あるスカラー det AÎR が唯一つ存在して

(3-5)  ωo(Av1 ,¼, Avn ) = (det A) ωo(v1 ,¼, vn )

が成り立ちます。det AA行列式といいます。(3-3),(3-5) により、任意のn形式 ω に対して

(3-6)  ω(Av1 ,¼, Avn ) = (det A) ω(v1 ,¼, vn )

が成り立ちます。ここで B を別の V の自己準同型とし、(3-5)viBvi を代入すると、

(3-7)  ωo(ABv1 ,¼, ABvn ) = (det A) ωo(Bv1 ,¼, Bvn )

 ここで (3-5)AB に置き換えたものを右辺に代入すれば、

(3-8)  ωo(ABv1 ,¼, ABvn ) = (det A)(det B) ωo(v1 ,¼, vn )

 したがって、AB の行列式の定義により、

(3-9)  det(AB) = (det A)(det B)

となることがわかります。

 さて、Aei(2-3) により ej で表したとき、

(3-10)  Aei =  n
å
j=1
Aijej ÎV       ( i=1 ,¼, n )

に出てくる Aij を、与えられた基底のもとでの A(i, j)成分といいますが、det AA の成分を使って表してみましょう。

(3-11)  ωo(Ae1 ,¼, Aen ) =  n
å
i,j,¼,k=1
A1iA2j¼Ank ωo(ei ,¼, ek) =  n
å
i,j,¼,k=1
A1iA2j¼Ank eij¼k =  
å
Sn
(-)sA1s(1)A2s(2)¼Ans(n)

 ただし Snn次の置換群を、(-)s s の符号、すなわち s が偶置換のとき 1 、奇置換のとき -1 を表します。一方、

(3-12)  ωo(Ae1 ,¼, Aen ) = (det A) ωo(e1 ,¼, en ) = det A

ですから、

(3-13)  det A =  
å
Sn
(-)sA1s(1)A2s(2)¼Ans(n)

という成分表示が得られます。

 行列式を使うと自己準同型 A の可逆性が判定できます。まず、A が逆作用素 A-1 を持つとします。(3-5)vi = A-1ei と置くと、

(3-14)  (det A) ωo(v1 ,¼, vn ) = ωo(Av1 ,¼, Avn ) = ωo(e1 ,¼, en ) = 1

 すなわち det AR で乗法の逆元 (det A)-1 = ωo(v1 ,¼, vn ) を持つことがわかります。この逆を考えるために、次のような V の自己準同型 A# を考えます。

(3-15)  A#v =  n
å
i=1
ωo(Ae1 ,¼, Aei-1 , v, Aei+1 ,¼, Aen )ei

 まず、勝手な u = åi uieiÎV を取り、(3-15)v = Au とおくと、(3-5) により、

(3-16)  A#Au
=  n
å
i=1
ωo(Ae1 ,¼, Aei-1 , Au, Aei+1 ,¼, Aen )ei
=  n
å
i=1
(det A)ωo(e1 ,¼, ei-1 , u, ei+1 ,¼, en )ei
= (det A)  n
å
i=1
uiei

= (det A)u

 次に AA# を計算するために、次の恒等式が成り立つことに注意します:

(3-17)   n
å
i=1
ωo(u1 ,¼, ui-1 , v, ui+1 ,¼, un )ui = ωo(u1 ,¼, un )v

 実際、両辺ともに ui ( i=1 ,¼, n ) について反対称ですから、各 uiei ( i=1 ,¼, n ) の一次結合で表して展開することにより、(3-17)ui = ei の場合に証明すれば十分です。ところがこの場合は左辺が åi viei 、右辺が v となり両者一致します。
 さて、(3-15) の両辺に A を施すと、

(3-18)  AA#v =  n
å
i=1
ωo(Ae1 ,¼, Aei-1 , v, Aei+1 ,¼, Aen )Aei =  n
å
i=1
ωo(Ae1 ,¼, Aen )v = (det A)v

 ただし、2番目の等号で ui = Aei として (3-17) を使い、3番目の等号で (3-12) を使いました。
 以上により、もし det AR で乗法の逆元を持つなら、(3-16),(3-18) により、(det A)-1A#A の逆作用素になっていることがわかります。A# は行列でいえば A の余因子行列に相当するもので、成分表示すれば、Aij の多項式で表されます。

 次に自己準同型のトレースというものを考えるため、(2-3),(2-5) により、任意の vÎV に対し

(3-19)  v =  n
å
i=1
ei εi(v)

が成り立っていることに注意します。
 さて、2つのR-加群 VW と2つのR-線形写像 AV ® WBW ® V を考えます。ただし VW はいずれも基底を持つ(ただし次元は等しくなくてもよい)ものとします。V の基底 e1 ,¼, en と双対基底 ε¹ ,¼, εn 及び W の基底 e'1 ,¼, e'm と双対基底 ε' ¹ ,¼, ε' m に対して

(3-20)   m
å
j=1
ε' j(ABe'j) =  m
å
j=1
 n
å
i=1
ε' j(Aei) εi(Be'j) =  n
å
i=1
 m
å
j=1
εi(Be'j) ε' j(Aei) =  n
å
i=1
εi(BAei)

が成り立ちます。ただし、最初の等号で v = Be'j として (3-19) を用い、3番目の等号で v = Aei として (3-19) を用いました。(3-20) で、W = V とし、B を恒等写像にとることにより、自己準同型 A に対し、

(3-21)  tr A =  n
å
i=1
εi(Aei)

が基底の取り方によらないことがわかります。これを Aトレースといいます。自己準同型の全体はR-加群を成しますが、トレースをとる操作はこのR-加群上のR-線形な汎関数です。また、(3-20)

(3-22)  tr(AB) = tr(BA)

が成り立つことを意味しています。トレースを成分で表せば、(3-10),(3-21),(2-8) により、

(3-23)  tr A =  n
å
i=1
Aii

となります。
 さて、TV 上の(1,1)-テンソルとすると、与えられた vÎV に対し、υÎV*T(v ; υ)ÎR を対応させる写像はR-線形ですから V** の元です。ところが (2-14) によれば、これはある V の元 AT v と同一視できて、

(3-24)  υ(ATv) = T(v ; υ)  ( vÎVυÎV* )

が成り立ちます。vAT v を対応させる写像 AT は明らかに線形ですから、 AT のトレースのことを T縮約と呼んで、C11T と書くことにします:

(3-25)  C11T = tr AT

 また (3-24)v = ejv = εi とすれば、(AT)ij = Tij となりますから、縮約の成分表示も

(3-26) C11T =  n
å
i=1
Tii =  n
å
i=1
T(ei ; εi)

となることがわかります。

 縮約の概念は、次のようにして一般の( p, q)-テンソル T に対しても定義できます。0 £i£p0 £j£q なる i, j を任意に取り、T(v1 ,¼, vp ; v¹ ,¼, vq )vivj のみの関数と見ると、(1,1)-テンソルになりますから、その縮約を考えることができます。縮約をとった結果は、残りの引数に対する( p-1, q-1)-テンソルになりますから、これを CijT と書いて、i 番目の共変引数と j 番目の反変引数に関する縮約といいます:

(3-27)  (CijT )(v1 ,¼, vi-1 , vi+1 ,¼, vp ; v¹ ,¼, vj-1 , vj+1 ,¼, vq ) =  n
å
k=1
T(v1 ,¼, vi-1 , ek , vi+1 ,¼, vp ; v¹ ,¼, vj-1 , εk , vj+1 ,¼, vq )

 これを成分表示すれば、

(3-28)  (CijT )¼¼ =  n
å
k=1
T¼k¼¼k¼

 ただし ¼k¼k の位置は、下付添字の方が左から i 番目、上付添字の方が左から j 番目です。

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