微分多様体


8.逆関数定理

 Rn の開集合 UC¹ 級関数 f : U ® Rn が与えられたとし、ある ξoÎU において

(8-1)  det Ñf(ξo) ¹ 0

が成り立っているとします。ただし Ñf は、j f i(i, j) 成分に持つn次正方行列を表します。このとき、ξo の近傍 U' が存在して、その上で fC¹ 級の逆関数をもつことを証明します。
 必要なら U をさらに小さく取って、

(8-2)  det Ñf(ξ) ¹ 0       ( ξÎU )

が成り立つようにします。このとき、U 上で逆行列 Ñf(ξ)-1 が存在し、かつ ξ について連続ですから、U を相対コンパクトにとっておけば、ÑfU 上有界、すなわちある K > 0 が存在して、

(8-3)  |Ñf(ξ)-1| < K       ( ξÎU )

が成り立ちます。また UÑf は一様連続ですから、任意の e> 0 に対して de> 0 が存在して

(8-4)  |Ñf(ξ') - Ñf(ξ)| < e       ( ξ', ξÎU ,|ξ' - ξ|£de )

が成り立ちます。
 さて、一般性を失うことなく U は凸集合と仮定することができます。このとき任意の ξ, ξ'ÎU について

(8-5)  f(ξ') - f(ξ) = ò 1


0
d
—–
 d
t
 f(ξ + t(ξ' - ξ))dt = ò 1

0
Ñf(ξ + t(ξ' - ξ))dt (ξ' - ξ)

 両辺から Ñf(ξ)(ξ' - ξ) を引けば、

(8-6)  f(ξ') - f(ξ) - Ñf(ξ)(ξ' - ξ) = ò 1

0
{Ñf(ξ + t(ξ' - ξ)) - Ñf(ξ)}dt (ξ' - ξ)

 両辺に左から - Ñf(ξ)-1 を乗じれば、

(8-7)  ξ' - ξ - Ñf(ξ)-1{ f(ξ') - f(ξ)}= - Ñf(ξ)-1 ò 1

0
{Ñf(ξ + t(ξ' - ξ)) - Ñf(ξ)}dt (ξ' - ξ)

 ゆえに (8-3),(8-4),(8-7) により

(8-8)  | ξ' - ξ - Ñf(ξ)-1{ f(ξ') - f(ξ)}| £ |Ñf(ξ)-1| ò 1

0
|Ñf(ξ + t(ξ' - ξ)) - Ñf(ξ)|dt |ξ' - ξ| £ Ke |ξ' - ξ|       ( ξ, ξ'ÎU ,|ξ' - ξ|£de )

 よって

(8-9)  |ξ' - ξ| = | ξ' - ξ - Ñf(ξ)-1{ f(ξ') - f(ξ)} + Ñf(ξ)-1{ f(ξ') - f(ξ)}|

£
| ξ' - ξ - Ñf(ξ)-1{ f(ξ') - f(ξ)}| + |Ñf(ξ)-1|| f(ξ') - f(ξ)|

£
Ke |ξ' - ξ| + K | f(ξ') - f(ξ)|       ( ξ, ξ'ÎU ,|ξ' - ξ|£de )

 ここで e £ (2K)-1 に取って Ke|ξ' - ξ| を左辺に移項して両辺を2倍すれば、

(8-10)  |ξ' - ξ| £ 2K | f(ξ') - f(ξ)|       ( ξ, ξ'ÎU ,|ξ' - ξ|£d1/(2K) )

が成り立ちます。そこで、各 ηÎRn に対して U 上の関数 gη

(8-11)  gη(ξ) º | f(ξ) - η

で定義し、正数 d' < d1/(2K) /2

(8-12)  U' º { ξÎRn | |ξ - ξo|£d' } Ì U

となるように取り、U' = { ξÎRn | |ξ - ξo| = d' } と置きます。ξζU' なら |ξ - ξo|£d1/(2K) ですから、η = f(ξo) のとき、(8-10) により

(8-13)  min{ gη(ξ) | ξζU' } = min{ | f(ξ) - f(ξo)|² | ξζU' } ³ (2K)-2d' ² > 0

 一方、η = f(ξo) のとき gη(ξo) = 0 ですから、gη(ξ)(ξ, η) の連続関数であることから、f(ξo) の近傍 V が存在して、

(8-14)  min{ gη(ξ) | ξζU' } > gη(ξo)       ( ηÎV )

とすることができます。gη は連続関数なのでコンパクト集合 U' で最小値を取りますが、ξoÎU'(8-14) により、U' では最小値をとらない、すなわち U' の内点 ξ で最小値を取ることがわかります。gη は微分可能なので、最小値を与える点において微係数は 0 、すなわち

(8-15)  igη(ξ) = 0       ( i=1 ,¼, n )

が成り立ちます。これを展開すれば、(8-11) により、

(8-16)  Ñf(ξ){ f(ξ) - η} = 0

となります。ただし Ñf(ξ)Ñf(ξ) の転置行列です。Ñf(ξ) 、したがって Ñf(ξ) は逆行列を持ちますから、

(8-17)  f(ξ) - η = 0 すなわち f(ξ) = η

となります。以上により

(8-18)  V Ì f(U')

がわかりました。また、(8-10) により、fU' 上で1対1であることもわかります。
 したがって、(8-17) を満たす ξ は唯一つ存在するので、これを f -1(η) と書けば、f -1 : V ® U' で、

(8-19)  f ° f -1 = idV

が成り立ちます。(8-10) により、f -1 は連続(リプシッツ連続)です。さて、

(8-20)  d(e) = min{de , d1/(2K)}

と置くと、(8-8),(8-10) により、ξ, ξ'ÎU , |ξ' - ξ|£d(e) に対し、

(8-21)  | ξ' - ξ - Ñf(ξ)-1{ f(ξ') - f(ξ)}| £ 2K²e | f(ξ') - f(ξ)|

 ここで η, η'ÎV に対し、ξ = f -1(η)ξ' = f -1(η') と置くと、η = f(ξ)η' = f(ξ') なので、(8-10) により、|η' - η|<d(e)/(2K) ならば |ξ' - ξ|£d(e) となります。したがって、これらを (8-21) に代入すれば、

(8-22)  | f -1(η') - f -1(η) - Ñf( f -1(η))-1(η' - η)| £ 2K²e |η' - η|

 e は任意に取れますから、これは f -1η で微分可能で、

(8-23)  Ñ[ f -1](η) = Ñf( f -1(η))-1

であることを示しています。(8-23) により、fCk 級(滑らか)なら f -1Ck 級(滑らか)であることがわかります。

 さて、以上により f は局所的に逆関数が存在して滑らか、すなわち局所的に微分同型であることが証明されました。もし (8-1) がすべての ξoÎU で成り立てば、(8-18) により、任意の点 ξo の任意の近傍の像が f(ξo) の近傍になる、すなわち f開写像であることがわかります。したがって、任意の PÌU に対して

(8-24)  f(P°) Ì f(P)°

 一方 f の連続性により、任意の Q Ì f(U) に対し、

(8-25)  f -1(Q°) Ì f -1(Q)° すなわち Q°Ì f( f -1(Q)°)

 特に f が1対1、すなわち大域的な逆関数が存在するならば、Q = f(P) と置けば P = f -1(Q) なので、

(8-26)  f(P)°Ì f(P°)

 これと (8-24) を併せれば、

(8-27)  f(P)°= f(P°)

 特に、Rn+ の開集合 U と滑らかな全単射 f : U ® V Ì Rn+ が与えられ、至るところ (8-1) が成り立っているならば、fURn におけるある近傍に C¹ 級に拡張して先述の結果を用いると、

(8-28)  Rn++ÇV = V°= f(U)°= f(U°) = f(Rn++ÇU)

ゆえに

(8-29)  f(RnoÇU) = RnoÇV

となります。ただしここで

(8-30)  Rn++ º { ξ=(x¹ , x² ,¼, xn )ÎRn | xn > 0 }

(8-31)  Rno º { ξ=(x¹ , x² ,¼, xn )ÎRn | xn = 0 }

と置きました。つまり f境界を境界に写すことがわかります。したがって、f'

(8-32)  ( f'(ξ'), 0) = f(ξ',0)       ( ξ'ÎRn-1 , (ξ', 0)ÎU )

で定義すると、f' は滑らかな逆関数 f' -1 を持ち、

(8-33)  ( f' -1(η'), 0) = f -1(η',0)       ( η'ÎRn-1 , (η', 0)ÎV )

が成り立ちます。

 さて、n £ m とし、fRn の開集合 U から Rm へのC¹ 級関数で、ξoÎU における行列 Ñf = (j f i(ξ) )i=1 ,¼, m ; j=1 ,¼, nrankn 、すなわち線形作用素として1対1であるとします。
 必要なら f の成分 f ¹ ,¼f m の順番を並べかえて、行列 (j f i(ξo) )i, j=1 ,¼, n は正則であると仮定できます。そこで f を、次のような ξ = (ξ, xn+1 ,¼, xm)ÎU ´ Rm-n の関数に拡張します:

(8-34)  f (ξ) º ( f ¹(ξ) ,¼,  f n(ξ),  f n+1(ξ) + xn+1 ,¼,  f m(ξ) + xm )

 すると、

(8-35)  f (ξ, 0) = f(ξ)

が成り立ち、さらに

(8-36)  det Ñf (ξo) = det(j( f )i(ξo) )i, j=1 ,¼, m = det(j f i(ξo) )i, j=1 ,¼, n ¹ 0

となりますから、逆関数定理により f ξo のある近傍 U' でなめらかな逆関数 g を持ちます:

(8-37)  g( f (ξ)) = ξ       ( ξÎU ´ Rm-n )

 したがって、特に (8-35) により

(8-38)  g( f(ξ)) = (ξ, 0)       ( ξÎU )

が成り立ちます。さらに fRk の直方体 I の元 t をパラメターに持ち f = ft と書かれる場合、

(8-39)  f #(t, ξ) = (t, ft(ξ))

と置いて Rn+k の開集合 I ´ U 上の関数を考えれば、f # に対して上記の議論を適用して、あるなめらかな g# が存在して

(8-40)  g#( f #(t, ξ)) = (t, ξ, 0)

となることがわかります。そこで gt(η) = g#(t, η) と置けば、これは (t, η) の滑らかな関数で

(8-41)  det Ñgt(η) = det Ñg#(t, η) ¹ 0

を満たし、

(8-42)  gt( ft(ξ)) = (ξ, 0)

が成り立ちます。

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