微分多様体


11.多様体上の積分

 本節では向きのついたn次元多様体 M におけるn形式の積分を考えます。

 まず、多様体の向きという概念を定義しましょう。(3-3) によれば、sÎM の任意のn形式は、あるn形式 wo の定数倍になっているのでした。これは、sÎM の任意の 0 でないn形式 ab を取ると、

(11-1)  b = ca     ( cÎR , c¹ 0 )

と一意的に書けることを意味します。そこで c > 0 のとき a ~ b と書くことにすると、~sÎM0 でないn形式に対する同値関係になります。この同値関係の同値類 ms における向きといい、a の属す同値類を [a] と書くことにします。明かに向きは2つしか存在しません。また、{ -a | aÎm }m逆の向きとよんで -m と書きます。明らかに -(-m) = m が成り立ちます。
 多様体 M の各点 sÎU に対して向き ms が与えられ、各 sÎM に対して s の近傍 U で定義された Un形式 w で、任意の sÎU に対して ms = [ws] となるものが存在するとき、mM の向きといいます。向き m の存在する多様体 M向きがつく、あるいは向き付け可能であるといいます。
 MM の向き m の組 (M, m)向きのついた多様体といい、m がわかっているときは (M, m) のかわりに単に M と書きます。

 y : N ® M を多様体 N から 向き m のついた多様体 M への微分同型とすると、sÎN , aÎmy(s) に対して y*as0 でないn形式になります。また a = cb なら y*a = cy*b ですから、a, bÎmy(s) なら [y*a] = [y*b] です。さらに、a = wy(s) なら y*a = (y*w)s です。
 以上のことから、N の向き y*m

(11-2)  [a] = my(s) Þ [y*a] = (y*m)s

が成り立つものが一意的に存在します。これを m から y によって誘導された N の向きといいます。なお、N も向き n のついた多様体で y*m = n が成り立つときは、y向きを保つということにします。

 (M, m) を向きのついた多様体、nsÎM における向きとするとき、n符号 (-)n を、

(11-3)  (-)n = ì
í
î
+ 1       ( n = ms )

- 1       ( n ¹ ms )

で定義します。明らかに (-)-n = -(-)n が成り立ちます。

 xM の局所座標とし、その定義域を U とします。各 sÎU に対して (dx¹ ^ ¼ ^ dxn )s0 でないn形式を定めますから、mxs º [ (dx¹ ^ ¼ ^ dxn )s ]s における向きを定めます。そこで smxs を対応させる写像を mx 、さらに M に向きが付いているときは smxs の符号を対応させる関数を (-)x と書いて、それぞれ局所座標 x向き及び符号といいます。明かに (-)xÎE(M) です。

 さて、次に M 上の可測n形式という概念を定義します。各 sÎM に対して wsÎTs が与えられ、

(11-4)  w(D1 ,¼, Dn)(s) = ws((D1)s ,¼, (Dn)s)       ( DiÎX )

と置き、M の任意の局所座標 x に対し、x の値域 U Ì Rn において

(11-5)  ωx(ξ) = ((x-1)*ws)((1)ξ ,¼, (n)ξ )       ( ξ = x(s)ÎU )

で定義される関数 wx が可測なとき、w可測なn形式といいます。可測なn形式 w に対し、ws ¹ 0 となる s の集合の閉包を wといい、supp w と書きます。

 まず、supp w が、ある局所座標 x の定義域に含まれる場合について、その絶対積分

(11-6)  || w || = òU | wx(ξ) | dξ

で定義します。この定義が局所座標の取り方に依存しないことを確かめるために、yw の台を定義域に含む別の局所座標とし、

(11-7)  f = y ° x-1

と置くと、

(11-8)  wx(ξ) = ((x-1)*ws)((1)ξ ,¼, (n )ξ )

= (( y-1 ° f )*ws)((1)ξ ,¼,(n )ξ )

= ( f*( y-1)*ws)((1)ξ ,¼,(n )ξ )

= (( y-1)*ws)( f*(1)ξ ,¼, f*(n )ξ )

 ただし、最後の等式で (9-14) を使いました。一方、(9-12)x , y , y をそれぞれ id , id , f に置き換えれば、

(11-9)  f*(i)ξ = n
å
j
=1
i f j(ξ) (j)f(ξ)

ですから、( y-1)*ws の多重線形性と反対称性及び f(ξ) = y(s) により、

(11-10)  wx(ξ) = (( y-1)*ws)( (1)f(ξ) ,¼, (n )f(ξ) ) det Ñf(ξ) = wy( f(ξ)) det Ñf(ξ)

 よって、(11-6),(11-10) と積分の変数変換の公式 (10-2) により、

(11-11)  || w || = òU | wy( f(ξ)) | |det Ñf(ξ)| dξ = òV | wy(η) | dη

 ただし Vy の値域です。以上により、|| w || の定義が局所座標の取り方に依存しないことがわかりました。

 次に可測で台がコンパクトなn形式の絶対積分を考えます。
 KM のコンパクト集合とするとき、K の各点 s に対し、(1-4) のようにして作られる関数 fs で、s を連結な定義域に含むある局所座標の定義域にコンパクトな台を持ち、非負で、fs(s) > 0 であるものが存在します。
 Us = { s'ÎM | fs(s') > 0 } と置くと、{ Us | sÎK }K の開被覆ですから、有限部分開被覆 { Usi | i=1, ¼, k } を持ちます。そこで

(11-12)  f =  k
å
i
=1
 fsi

と置けば、fÎE(M) で台はコンパクトかつ Kf > 0 となっています。K における f の最小値を e と置くと、e > 0 ですから、この e に対して (1-3) の関数 c を作り、f' = c ° f と置けば、台がコンパクトで K の近傍で f' = 1 となります。
 同様な議論を K' = supp f' について再度行うと、有限個の非負な gjÎE(M)   ( j=1 ,¼, r ) で、台はある局所座標の定義域に含まれるコンパクト集合であり、

(11-13)  g = r
å
j=1
gj 

と定義すると K' 上で g > 0 となるようなものが存在します。そこで

(11-14)  h(s) = ì
í
î
 f'(s)/g(s)       ( sÎK' )

  0       ( それ以外 )

(11-15)  cj = hgj       ( j=1 ,¼, r )

と置くと、cjÎE(M) で非負、かつそれらの台はコンパクトで、ある局所座標の定義域に含まれ、

(11-16)   r
å
j=1
cj = 1     on K

となります。このような cj ( j=1 ,¼, r ) を、K 上の1の分解といいます。

 さて、w を可測で台がコンパクトなn形式とします。cj   ( j=1 ,¼, r )supp w 上の1の分解とするとき、w の絶対積分を

(11-17)  || w || = r
å
j=1
|| cjw ||

で定義します。この定義が1の分解の取り方に依存しないことを見るために、cj'   ( j=1 ,¼, r' )supp w 上の別の1の分解とします。x を、その定義域が ci の台を含むような局所座標とすると、

(11-18)  |(ciw)x| =  r'
å
j=1
|(cicj'w)x|

ですから、(11-6) により

(11-19)  || ciw || =  r'
å
j=1
|| cicj'w ||

 同様に、

(11-20)  || cj'w || =  r
å
j=1
|| cicj'w ||

 したがって、

(11-21)    r
å
i=1
|| ciw || =  r
å
i=1
 r'
å
j=1
|| cicj'w || =  r'
å
j=1
|| cj'w ||

となり、(11-17) が1の分解の取り方に依存しないことがわかりました。

 最後に一般の可測なn形式 w については、

(11-22)  || w || = sup { || cw || | E(M) , 0 £ c £ 1 ,supp c はコンパクト }

で定義します。(11-12) の直後で示したように、任意のコンパクト集合 K に対し、K 上で 1 となる台がコンパクトかつ滑らかな関数が存在するので、この定義は w の台がコンパクトな場合の定義と矛盾しません。そこで、

(11-23)  L¹(M) = { w | w は可測な Mn形式で || w || < ¥ }

と定義し、L¹(M) の元を可積分なn形式とよびます。
 なお、|| w || の定義の各ステップにおいて、f, gÎE(M)f ³0 , g ³ 0を満たしているならば

(11-24)  || ( f + g)w || = || fw || + || gw ||

が成り立っていることもわかります。

 次に2つの多様体 N , M 間の微分同型 y : N ® M による L¹(M)引き戻し(9-22) により定義し、y*w の絶対積分を考えます。yM の局所座標ならば、x = y ° yN の局所座標となるので、x(s) = y(y(s)) = ξ と置けば、

(11-25)  (y*w)x(ξ) = ((x-1)*(y*w)s)((1)ξ ,¼, (n )ξ )

= ((x-1)*y*wy(s))((1)ξ ,¼, (n )ξ )

= ((y ° x-1)*wy(s))((1)ξ ,¼, (n )ξ )

= (( y-1)*wy(s))((1)ξ ,¼, (n )ξ )

= wy(ξ)

 ゆえに、台がある局所座標の定義域に含まれる w については

(11-26)  || y*w || = || w ||

が成り立ち、それを使って台がコンパクトな場合、そして一般の場合も (11-26) が成り立つことがわかります。

 以上の議論は M に向きが付いていなくても意味を持ちますが、もし M に向きがついていれば、以下のようにして可積分なn形式 wM における積分を定義することができます。
 まず、supp w がある局所座標 x の定義域に含まれる場合について、その積分

(11-27)   òM w = òU {(-)xw}x(ξ) dξ

で定義します。ただし Ux の値域で、{(-)xw}x(11-5)w(-)xw で置き換えたものを表します。
 この定義が局所座標の取り方に依存しないことを確かめるため、y を連別の局所座標で、定義域に w の台を含むものとし、f(11-7) で定義すると、(11-10) が成り立ちます。一方、(7-8) により

(11-28)  dy i = n
å
j=1
y i
——
x j
dxj = n
å
j=1
{j( y i ° x-1) ° x}dx j = n
å
j=1
(j f i ° x) dx j

ですから

(11-29)  dy¹ ^ ¼ ^ dyn = (det Ñ f ° x) dx¹ ^ ¼ ^ dxn

 すなわち xy の符号の違いは det Ñf ° x の符号に一致します:

(11-30)  (-)y = det Ñf ° x
—————
|det Ñf ° x|
(-)x 

 また、(11-7) により x-1 = y-1 ° f ですから、任意の gÎE(M) に対して (x-1)*g = f*( y-1)*g = ( y-1)*g ° f なので、(11-30) の両辺に (x-1)* を施せば、

(11-31)  ( y-1)*(-)y ° f = det Ñf
———–
|det Ñf |
(x-1)*(-)x 

 すなわち

(11-32)  (x-1)*(-)x(ξ) = ( y-1)*(-)y( f(ξ)) |det Ñf(ξ)|
————–
det Ñf(ξ)

 これを (11-10) に辺々乗じると、

(11-33)  {(-)xw}x(ξ) = {(-)yw}y( f(ξ)) |det Ñf(ξ)|

となります。よって、(11-27),(11-33) と変数変換の公式 (10-2) により、

(11-34)   òM w = òU {(-)yw}y( f(ξ)) |det Ñf(ξ)| dξ = òV {(-)yw}y(η) dη

 ただし Vy の値域です。以上により、(11-27) の定義が局所座標の取り方に依存しないことがわかりました。さらに、

(11-35)   ½
½
òU {(-)xw}x(ξ) dξ ½
½
£ òU |wx(ξ)| dξ

ですから (11-6)(11-27) により

(11-36)   ½
½
òM w ½
½
£ || w ||

が成り立ちます。

 次に w を可積分で台がコンパクトなn形式とします。cj  ( j=1 ,¼, r )supp w 上の1の分解とするとき、w の積分を

(11-37)   òM w = r
å
 j=1
òM cjw

で定義します。

(11-38)  (ciw)x =  r'
å
 j=1
(cicj'w)x

から

(11-39)   òM ciw =  r'
å
 j=1
òM cicj'w 

が導け、同様に

(11-40)   òM cj'w =  r
å
i=1
òM cicj'w 

となるので

(11-41)    r
å
i=1
òM ciw =  r
å
i=1
 r'
å
 j=1
òM cicj'w =  r'
å
 j=1
òM cj'w 

 したがって (11-37) の定義が1の分解の取り方に依存しないことがわかります。さらに ciw に対する (11-36)(11-17) により

(11-42)   ½
½
òM w ½
½
= ½
½
 r
å
i=1
òM ciw  ½
½
£  r
å
i=1
½
½
òM ciw  ½
½
£  r
å
i=1
|| ciw || = || w ||

となるので (11-36) はこの場合も成り立っています。
 最後に一般の可積分なn形式 w については、(11-22) により、

(11-43)  || ciw || ||w||     ( i® ¥ )       0 £ ci £ 1 ,supp ci はコンパクト

となる ciÎE(M) が存在します。ci は増加列と仮定してよいので、i > j ならば、ci ³ cj となります。したがって、(11-24)f = ci - cj , g = cj として適用すれば、

(11-44)  || ciw || = || (ci - cj)w || + || cjw ||

 したがって、i > j のまま i, j® ¥ とすれば、

(11-45)   ½
½
òM ciw - òM cjw  ½
½
£ || ciw - cjw || = || ciw || - || cjw || ® 0

となるので

(11-46)   òM w =  
lim

i®¥
òM ciw 

によって w の積分を定義することができます。これが ci の取り方に依存しないこと、及び (11-36) がこの場合も成立することは明らかです。

 次に、それぞれ向き n , m のついた2つの多様体 N , M 間の、向きを保つ微分同型 y : N ® M による L¹(M) の引き戻し y*w の積分を考えます。yM の局所座標ならば、x = y ° yN の局所座標となり、

(11-47)  y*dy i = d(y*y i) = d( y i ° y) = dxi

ですから、

(11-48)  y*(dy¹ ^ ¼ ^ dyn ) = y*dy¹ ^ ¼ ^ y*dyn = dx¹ ^ ¼ ^ dxn

 これは y*my = mx すなわち y*(-)y = (-)x を意味しますから、左から (x-1)* を施せば、

(11-49)  (x-1)*(-)x = (x-1)*y*(-)y = (y ° x-1)*(-)y = ( y-1)*(-)y

 これと (11-25) により

(11-50)  {(-)xy*w}x = {(-)yw}y

 よってこれを積分すれば、まず w の台が局所座標の定義域に含まれる場合について

(11-51)   òN y*w = òM w

が証明され、1の分解を使って台がコンパクトな場合、そして更に一般の場合も (11-51) が成り立つことがわかります。

 次に、(向きのついた)部分多様体と(向きのついた)部分多様体上の微分形式の積分を定義します。
 Mn次元多様体とします。(向きのついた)p次元多様体 L と、滑らかな写像 y : L ® M の組 (N, y) のことを M(向きのついた)p次元部分多様体といいます。
 M の2つの(向きのついた)p次元部分多様体 (L, y), (K, j) は、(向きを保つ)微分同型 c : L ® K によって y = j ° c と書けるとき、(向きのついた)部分多様体として等しいといい、(N, y) = (L, j) と書きます。この関係は明らかに同値関係です。(向きのついた)部分多様体 (L, y) を一つの変数 N で表記する場合、しばしば Ny(L) を同一視したような書き方(例えば sÎy(L) の代わりに sÎN と書く)をすることがあります。
 また、L がコンパクトなとき、部分多様体 (L, y)コンパクトであるといいます。これは等しい部分多様体の取り方に依存しない性質です。

 さて、wMp形式、N = (L, y)Mp次元部分多様体とするとき、wN 上の絶対積分

(11-52)  || w ||N = || y*w ||

で定義します。また、N = (L, y) を向きのついたp次元部分多様体とするとき、wN 上の積分

(11-53)   òN w = òL y*w

で定義します。(11-26) により、

(11-54)  || y*w || = || c*(j*w) || = || j*w ||

が成り立ち、(11-51) により

(11-55)   òL y*w = òL c*(j*w) = òK j*w

が成り立ちますから、部分多様体の絶対積分も、向きのついた部分多様体の積分も、等しい(向きのついた)部分多様体の取り方に依存せずに定まることがわかります。
 また、(11-52),(11-53) の右辺に (11-36) を適用することにより、

(11-56)   ½
½
òN w ½
½
£ || w ||N

が成り立つこともわかります。

 この節の最後に、曲線(= 1次元部分多様体)上の1形式の積分について考えます。I = [a, b] を実数の区間、(I, s)M の曲線とすると、I の点 t における微分 d/dtt の接ベクトルですから、それの s* による像を考えることができます。これを s'(t) と書いて、曲線 Cs(t) における接ベクトルといいます。すなわち

(11-57)  s'(t) f = s* æ
è

—–
t
ö
ø
 f =
—–
t
 f(s(t))       (  fÎE(M) )

 したがって、wM1形式とすると、wC 上の積分の定義により、

(11-58)   òC w = òI s*w = ò b


a
(s*w)t æ
è

—–
t
ö
ø
dt = ò b

a
ws(t)(s'(t)) dt

という公式が得られます。

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