微分多様体


16.Poincaréの補題

 第7節 (7-19) によれば、n次元多様体 Mp形式 ww = dh と表されれば dw = 0 となるのでした。では逆に、dw = 0 ならば、ある h によって w = dh と書けるでしょうか。結論を言えば、M から Rn の星状領域 Ω への同型 x : M ® Ω が存在するならばそれは正しいのです。ただし、星状領域とは、ξÎΩ , 0 £ t £ 1 ならば tξÎΩ であるような領域 Ω のことを言います(例えば原点を含む凸集合は星状領域です)。以下でこれを詳しく説明しましょう。

 0 < t £ 1 に対し、M のベクトル場 vt を、

(16-1)  vt = 1
—–
 t
 n
å
i=1
 xi  
—–
 ¶
xi

で定義し、vt に沿って動き、t = 1 で恒等写像となる M から M への部分多様体を (M, yt) とします。(14-43a)f = xi として適用すれば、(16-1) により、

(16-2)  
—–
t
(yt*xi) = yt*(vtxi) = yt* xi
——–
 t 

 よって

(16-3)  y1 = id

となる解は、

(16-4)  xi ° yt = yt* xi = t xi

 すなわち

(16-5)  yt = x-1 ° (t x)

で、Ω が星状領域であることから、0 < t £ 1 に対して ytM 全体で定義されることがわかります。ここで (15-6)(15-7)Tt = w として適用し、wt に依存しないため ¶w/¶t = 0 となることと、(7-1),(9-36) を使えば、

(16-6)  
—–
t
yt*w = yt*Lvtw = yt*ivtdw + yt*divtw = yt*ivtdw + dyt*ivtw

が成り立ちます。したがって、これを t について 0 から 1 まで積分すると、y1* が恒等写像であることに注意すれば、

(16-7)  w - lim
t ¯ 0
yt*w = Idw + dIw

が成り立ちます。ただし、I は、Mp形式 wに対して、

(16-8)  Iw = ò 1

0
yt*ivtw dt

を対応させる演算子です。この I がうまく定義されることを確かめましょう。まず、p = 0 なら被積分関数が 0 なので Iw = 0 となります。次に p ³ 1 の場合ですが、w が標準表示した場合の一つの項:

(16-9)  w = wk(x) dxk(1) ^ ¼ ^ dxk(p)

である場合を考えれば十分です(ただし wk(x) = wk ° x )。(16-1) により

(16-10)  vt xi =  xi
—–
 t 

ですから、(7-39)(16-9) により、

(16-11)  ivtw = t-1 wk(x)  p
å
i=1
(-1)i-1 xk(i) dxk(1) ^ ¼ ^  Ù
dxk(i)
 
^ ¼ ^ dxk(p)

 ただし、頭に Ù を付けたのはそれを除くという意味です。一方、(16-4),(16-5) により

(16-12)  yt*(wk(x)) = wk(x ° yt) = wk(tx)

(16-13)  yt*dxi = dyt*xi = d(txi) = t dxi

ですから、(16-11)yt* を施せば、(16-12),(16-4),(16-13) により

(16-14)  yt*ivtw = t p-1 wk(tx)  p
å
i=1
(-1)i-1 xk(i) dxk(1) ^ ¼ ^  Ù
dxk(i)
 
^ ¼ ^ dxk(p)

となり、p ³ 1 ですから、これは t に関して区間 [0, 1] で可積分であることがわかり、(16-8)I は、p 形式から p - 1 形式への演算子としてうまく定義できることがわかります。

 次に、(16-7) の左辺第2項を評価するために、w(16-9) で与えられたとすれば、(16-12),(16-13) により

(16-15)  yt*w = yt*(wk(x)) yt*dxk(1) ^ ¼ ^ yt*dxk(p) = t p wk(tx) dxk(1) ^ ¼ ^ dxk(p)

なので、

(16-16)    
lim

t ¯ 0
yt*w = ì
í
î
wk(0)       ( p = 0 のとき )
 
  0       ( 1 £ p £ n のとき )

となることがわかります。したがって、(16-7),(16-16) と、p = n なら dw = 0 であることと、p = 0 なら Iw = 0 であることを使うと、

(16-17a)  w - wk(0) = Idw       ( p = 0 のとき )

(16-17b)  w = Idw + dIw       ( 1 £ p £ n - 1 のとき )

(16-17c)  w = dIw       ( p = n のとき )

となることがわかります。

 以上の結果から、次のPoincaréの補題が得られます


 Poincaréの補題1

 wRn の星状領域と同型な n 次元多様体 Mp 形式とすると、次のことが成り立つ。

(a)p = 0 の場合:
 dw = 0 ならば、w は定数である。

(b)1 £ p £ n - 1 の場合:
 dw = 0 ならば、ある p - 1 形式 h によって w = dh と書ける(具体的には h = Iw と置けばよい)。

(c)p = n の場合:
 無条件で、ある n - 1 形式 h によって w = dh と書ける(具体的には h = Iw と置けばよい)。

 次に、台がコンパクトな p 形式に関する同様な問題を考えてみます。すなわち台がコンパクトな Mp 形式 wdw = 0 を満たすとき、同じく M で台がコンパクトな p - 1 形式 h が存在して w = dh と書けるか、という問題です。
 今度は M に関する条件をやや強めて、M から Rn凸領域 Ω への同型 x : M ® Ω が存在すると仮定します。今度は ξÎΩ1 £ t < ¥ に対し、ベクトル場 vξ,t

(16-18)  vξ,t = 1
—–
 t
 n
å
i=1
(xi - xi)  
—–
xi

で定義し、vξ,t に沿って動き、t = 1 で恒等写像となる M から M への部分多様体を (M, yξ,t) とします。(14-43a)f = xi として適用すれば、(16-18) により、

(16-19)  
—–
t
(yξ,t*xi) = yξ,t*(vξ,txi) = yξ,t*(xi - xi)
—————–
 t 
= yξ,t*xi - xi
—————
 t 

 これを初期条件 yξ,1*xi = xi のもとで解くと、

(16-20)  xi ° yξ,t = yξ,t*xi = xi + t (xi - xi)

 すなわち

(16-21)  yξ,t = x-1( ξ + t (x - ξ) )

となります。ただし、ξ + t(x(s) - ξ)Ω の外に出てしまうような s , t の組に対しては、yξ,t*w の値は 0 とします。

 さて、(16-6)vtvξ,t に、ytyξ,t にそれぞれ置き換え、Ω で台がコンパクトで、その積分が 1 に等しい ξ の滑らかな関数 r(ξ) を乗じて、ξ について Ω で積分すると、

(16-22)  
—–
t
òΩ r(ξ)yξ,t*w dξ = òΩ r(ξ)yξ,t*ivξ, t dw dξ + d ì
í
î
òΩ r(ξ)yξ,t*ivξ, tw dξ ü
ý
þ

 一方、yξ,1* は恒等写像ですから、

(16-23)   òΩ r(ξ)yξ,1*w dξ = òΩ r(ξ)w dξ = w

 従って、(16-22)t について 1 から ¥ まで積分して符号を変えれば、

(16-24)  w -  
lim

t®¥
òΩ r(ξ)yξ,t*w dξ = Jdw + dJw

 ただし、J は、M の台がコンパクトな p 形式 w に対して、

(16-25)  Jw = - ò ¥

1
dt òΩ r(ξ)yξ,t*ivξ, tw dξ

を対応させる演算子です。この J がうまく定義されることを確かめましょう。そのためには w(16-9) で与えられる場合のみを考えれば十分です。(16-18) により

(16-26)  vξ,t xi =  xi - xi
———
 t 

ですから、(7-39)(16-9) により、

(16-27)  ivξ, tw = t-1 wk(x)  p
å
i=1
(-1)i-1 (xk(i) - ξk(i)) dxk(1) ^ ¼ ^  Ù
dxk(i)
 
^ ¼ ^ dxk(p)

 一方、(16-20),(16-21) により

(16-28)  yξ,t*(wk(x)) = wk(x ° yξ,t) = wk( ξ + t (x - ξ) )

(16-29)  yξ,t*(xi - xi) = yξ,t*xi - xi = t (xi - xi)

(16-30)  yξ,t*dxi = dyξ,t*xi = d{xi + t (xi - xi)} = t dxi

ですから、(16-27)yξ,t* を施せば、(16-28)~(16-30) により

(16-31)  yξ,t*ivξ, tw =  p
å
i=1
(-1)i-1 qξ,t,i dxk(1) ^ ¼ ^  Ù
dxk(i)
 
^ ¼ ^ dxk(p)

 ただし、

(16-32)  qξ,t,i = t p-1 wk( ξ + t (x - ξ) ) (xk(i) - xk(i))

です。ゆえに、(16-25)J がうまく定義できるためには、

(16-33)  ò ¥

1
dt òΩ r(ξ)qξ,t,i dξ = ò 2

1
dt òΩ r(ξ)qξ,t,i dξ + ò ¥

2
dt òΩ r(ξ)qξ,t,i dξ

が収束しなければなりません。まず、(16-33) の右辺第1項は、ξ の積分範囲も t の積分範囲も有界な閉集合で、被積分関数は滑らかですから、積分は収束して滑らかな関数を定めます。次に右辺第2項ですが、

(16-34)  òΩ r(ξ)qξ,t,i dξ
= t p-1 òΩ r(ξ)wk( ξ + t (x - ξ) ) (xk(i) - xk(i)) dξ

= t p-1 òΩ r æ
è
t x - ζ
———
t - 1
ö
ø
wk(ζ)  zk(i) - xk(i)
————–
 t 
dζ 
———
 (t - 1)
n

= t p-2
———
 (t - 1)n
òΩ r æ
è
t x - ζ
———
t - 1
ö
ø
wk(ζ) (zk(i) - xk(i)) dζ

 ただし、3番目の等号で、ζ = ξ + t (x - ξ) = (1 - t) ξ + t x と置いて積分変数を ξ から ζ に変換しました。
 さて、t p-2 (t - 1)-n = O(t p-n-2 ) ( t ® ¥ ) で、p £ n ですから、最後の式は t について [2, ¥ [ で可積分なので、これもなめらかな関数を定めることがわかります。以上で (16-25)J がうまく定義できることがわかりました。

 また、wk の台と r の台を含む最小の凸集合を K とすれば、KΩ に含まれるコンパクト集合です。もし (16-33) の積分が sÎM0 でないとすると、ある ξt ³ 1 が存在して、ζ = ξ + t (x(s) - ξ) と置くと、r(ξ) ¹ 0 かつ wk(ζ) ¹ 0 となっていなければなりません。これは ξ, ζÎK を意味しますが、t ³ 1 で、K が凸であることから

(16-35)  x(s) = 1
—–
 t
ζ + æ
è
1 - 1
—–
 t
ö
ø
ξ Î K

となるので、Jw の台の x による像は K に含まれる、すなわち Jw の台は Ω に含まれるコンパクト集合であることがわかります。

 次に、(16-24) の左辺第2項を評価するために、w(16-9) で与えられたとすれば、(16-28),(16-30) により

(16-36)  yξ,t*w = yξ,t*(wk(x)) yξ,t*dxk(1) ^ ¼ ^ yξ,t*dxk(p) = t p wk( ξ + t (x - ξ) ) dxk(1) ^ ¼ ^ dxk(p)

 ゆえに、

(16-37)  òΩ r(ξ) yξ,t*w dξ = at(x) dxk(1) ^ ¼ ^ dxk(p)

 ここで、

(16-38)  at(x) = t p òΩ r(ξ) wk( ξ + t (x - ξ) ) dξ = t p
———
 (t - 1)n
òΩ r æ
è
t x - ζ
———
t - 1
ö
ø
wk(ζ) dζ

 ただし、積分変数を ξ から ζ = ξ + t (x - ξ) に変換しました。wk は台がコンパクトゆえ可積分なので、Lebesgueの収束定理により、t ® ¥ のとき、

(16-39)  òΩ r æ
è
t x - ζ
———
t - 1
ö
ø
wk(ζ) dζ  ®  r(x) òΩ wk(ζ) dζ

となります。特に p = n なら、wk の積分は、定義により wM における積分に他なりませんから、

(16-40)   
lim
t®¥
at(x) = ì
ï
í
ï
î
  0       ( 0 £ p £ n - 1 )
 
r(x) òM w       ( p = n )

となることがわかります。したがって、(16-24),(16-37),(16-40) と、p = n なら dw = 0 であることと、p = 0 なら Jw = 0 であることを使うと、

(16-41a)  w = Jdw       ( p = 0 のとき )

(16-41b)  w = Jdw + dJw       ( 1 £ p £ n - 1 のとき )

(16-41c)  w - ì
í
î
r(x) òM w ü
ý
þ
dx¹ ^ ¼ ^ dxn = dJw       ( p = n のとき )

となることがわかります。

 以上の結果から、次のような台がコンパクトな微分形式に対するPoincaréの補題が得られます。


 Poincaréの補題2

 wRn の凸領域と同型な n 次元多様体 M台がコンパクトな p 形式とすると、次のことが成り立つ。

(a)p = 0 の場合:
 dw = 0 ならば、w = 0 である。

(b)1 £ p £ n - 1 の場合:
 dw = 0 ならば、ある台がコンパクトな p - 1 形式 h によって w = dh と書ける(具体的には h = Jw と置けばよい)。

(c)p = n の場合:
 òMw = 0 なら、ある台がコンパクトな n - 1 形式 h によって w = dh と書ける(具体的には h = Jw と置けばよい)。

 さて、今度は Ωn-po(M) の連続な演算子 d , J に対し、その双対空間 Ω' p(M ) から Ω' p+1(M ) への線形演算子 dΩ' p(M ) から Ω' p-1(M ) への線形演算子 I' をそれぞれ次のように定義します:

(16-42)  á w, dq ñ = (-1)n-p á dw, q ñ       ( Ω' p(M ) , Ωn-p-1o(M ) )

(16-43)  á w, I'q ñ = (-1)n-p+1 á Jw, q ñ       ( Ω' p(M ) , Ωn-p+1o(M ) )

 このとき、(16-41) の各式で pn - p に置き換えたものに Ω' p(M) を施せば、次の関係式が成り立つことがわかります。

(16-44a)  q = dI'q       ( p = n のとき )

(16-44b)  q = dI'q + I'dq       ( 1 £ p £ n - 1 のとき )

(16-44c)  q - á r(x)dx¹ ^ ¼ ^ dxn, q ñ = I'dq       ( p = 0 のとき )

 これらから、次のようなカレントに対するPoincaréの補題が得られます。


 Poincaréの補題3

 q Rn の凸領域と同型なn次元多様体 Mp次カレントとすると、次のことが成り立つ。

(a)p = 0 の場合:
 dq = 0 ならば、q は定数である。

(b)1 £ p £ n - 1 の場合:
 dq = 0 ならば、ある p - 1 次カレント s によって q = ds と書ける(具体的には s = I'q と置けばよい)。

(c)p = n の場合:
 無条件で、ある n - 1 次カレント s によって q = ds と書ける(具体的には s = I'q と置けばよい)。

 また、Ωn-p(M ) の連続な演算子 d , I に対し、その双対空間 Ω' po(M ) から Ω' p+1o(M ) への線形演算子 dΩ' po(M ) から Ω' p-1o(M ) への線形演算子 J' をそれぞれ次のように定義します:

(16-45)  á w, dq ñ = (-1)n-p á dw, q ñ       ( Ω' po(M) , Ωn-p-1(M ) )

(16-46)  á w, J'q ñ = (-1)n-p+1 á Iw, q ñ       ( Ω' po(M ) , Ωn-p+1(M ) )

 このとき、(16-17) の各式で pn - p に置き換えたものに Ω' po(M ) を施すことにより、次の関係式が成り立つことがわかります。

(16-47a)  q - á 1, q ñ d 0 = dJ'q       ( p = n のとき )

(16-47b)  q = dJ'q + J'dq       ( 1 £ p £ n - 1 のとき )

(16-47c)  q = J'dq       ( p = 0 のとき )

 これらから、次のような台がコンパクトなカレントに対するPoincaréの補題が得られます。


 Poincaréの補題4

 wRn の星状領域と同型な n 次元多様体 M台がコンパクトな p 次カレントとすると、次のことが成り立つ。

(a)p = 0 の場合:
 dq = 0 ならば、q = 0 である。

(b)1 £ p £ n - 1の場合:
 dq = 0 ならば、ある台がコンパクトな p - 1 次カレント s によって q = ds と書ける(具体的には s = J'q と置けばよい)。

(c)p = n の場合:
 á 1, q ñ = 0 なら、ある台がコンパクトな n - 1 次カレント s によって q = ds と書ける(具体的には s = J'q と置けばよい)。

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