電磁気学


18.静磁界のエネルギー

 空間に有限な大きさの完全導体 Ω' が与えられているものとし、全空間から Ω' を除いた部分を Ω と書きます。Ω' の各連結成分は必ずしも単連結とは限りませんが、Ω' にいくつかの連結な面分 Si (i=1,¼,m) で切れ目を入れた集合 Ω" の連結成分はすべて単連結になっているものとします。また、切断面の個数 m は、切断後の各連結成分が単連結になるという条件のもとで、最小の個数になるものを選んでおくことにします。
 このとき、どの切断面 Si も、その表面と裏面は Ω" の同じ連結成分に属していることがわかります。なぜなら、もしそうなっていない Si が存在したとすれば、その Si で切断しなくても既に全ての連結成分は単連結になっているはずで(2つの単連結領域をある連結な面で接合した領域はやはり単連結であることに注意)、これは m の最小性に反するからです。
 以上の条件のもとで、台がコンパクトで Ω に含まれる有界可測ベクトル J と、m個の実数 Ii (i=1,¼,m) と、十分遠方でスカラー定数となる正値対称テンソル μ を与えて、Ω において、電流密度が JΩ' の表面では面に平行な電流が流れ、各面 Si を通る電流が Ii で、透磁率が μ であるような静磁界 H と磁束密度 B を求めてみましょう。
 これは、方程式群:

(18-1)  rot H = J   in Ω
 
(18-2)  ò

Si
rot H · dS = Ii      ( i=1,¼,n )

(18-3)  rot H · n = 0   on Ω'

(18-4)  div B = 0

(18-5)  B = 0   in Ω'

(18-6)  B = μ · H

を満たすベクトル場 HB を求めることに他なりません。
 さて本節においても、条件式 (18-1),(18-2),(18-3) を、H が必ずしも滑らかでない場合にも意味が明確になるような形に書き直してみましょう。

 局所可積分なベクトル A は、Ω' 上と十分遠方で滑らかで

(18-7)  |A| £  K
—–
 r
   ( r º |s| ³ Ro )

を満たし、さらに rot A が2乗可積分で

(18-8)  rot A = 0   in Ω'

を満たすとき、静磁ベクトルとよぶことにします(ここだけの造語です)。(18-8) により、任意の静磁ベクトル A に対し、Ω' で定義され、Ω" で連続、Si (i=1,¼,m) でのみ不連続なスカラー場 Φ

(18-9)  A = grad Φ   in  Ω'

を満たすものが(Ω" の各連結成分ごとに定数差を除いて一意的に)存在します。(18-9) により、Ω" の同一の連結成分に属す2点 s0 , s1 を結ぶ曲線 Γ に対し、

(18-10)  Φ(s1) - Φ(s0) = òΓ A · ds

が成り立ちます。これから、(18-10) の右辺の積分は両端が一致すれば Γ の取り方に依存しないことや、Ω' では A が滑らかなので、ΦΩ" で滑らかであることがわかります。
 特に、Si の表面と裏面は同一の連結成分に属しますから、Si と1点 s で正の方向に交わる Ω"ÈSi 内の閉曲線 Γi に対し、Si 上の点 s に無限に近い表面側の点と裏面側の点をそれぞれ s+ , s- とすれば、

(18-11)  Φi º Φ(s-) - Φ(s+) = òΓi A · ds

の値は Γi の取り方に依存しません。しかもそれだけでなく、Φi の値は交点 s の取り方にも依存しません。なぜなら s'Si の別の点とすると、Si の連結性により、Si 内の曲線 Css' を結ぶものが存在しますから、s' に無限に近い表面側の点と裏面側の点をそれぞれ s'+ , s'- とすれば、

(18-12)  Φ(s'-) - Φ(s'+)
= { Φ(s'-) - Φ(s-) } + { Φ(s-) - Φ(s+) } - { Φ(s'+) - Φ(s+) }

= òC A · ds + Φi - òC A · ds      ( ∵ (18-10),(18-11) )

= Φi

となるからです。

 さて、H は2乗可積分で滑らか、A は静磁ベクトルとします。このとき、Gaussの定理と (18-7) により、

(18-13)  ½
½
ò div(A ´ H) dV ½²
½
=
liminf
R®¥
½
½
ò|s|£R div(A ´ H) dV ½²
½

=
liminf
R®¥
½
½
ò|s|=R (A ´ H) · dS ½²
½

£
liminf
R®¥
ò|s|=R |A|² dS ò|s|=R |H|² dS

£
liminf
R®¥
4pR² K²
—–
R²
ò|s|=R |H|² dS

= 4pK²
liminf
R®¥
ò|s|=R |H|² dS

 この右辺の積分を R の関数とみなすと、H の2乗可積分性により、区間 [Ro ,¥) で積分可能です。したがってその下極限は 0、つまり (18-13) の左辺は 0 であることがわかります。ゆえに、もし A · rot HΩ で可積分ならば

(18-14)  ò H · rot A dV
= ò div(A ´ H) dV + ò A · rot H dV

= ò A · rot H dV      ( ∵ (18-13) )

= òΩ A · rot H dV + òΩ" A · rot H dV

= òΩ A · rot H dV + òΩ" grad Φ · rot H dV      ( ∵ (18-9) )

= òΩ A · rot H dV + òΩ" div(Φ rot H) dV

= òΩ A · rot H dV + òΩ" Φ rot H · dS

= òΩ A · rot H dV + òΩ' Φ rot H · dS + åi æ
è
ò

Si
Φ(s-) rot H · dS - ò

Si
Φ(s+) rot H · dS ö
ø

= òΩ A · rot H dV + òΩ' Φ rot H · n dS + åi Φi ò

Si
rot H · dS      ( ∵ (18-11) )

が成り立ちます。したがって、特に H(18-1)(18-3) を満たせば、ΩA · rot H = A · J は可積分なので (18-14) が成り立ち、これに (18-1)(18-3) を代入すれば

(18-15)  ò H · rot A dV = òΩ A · J dV + åi IiΦi

が得られます。

 逆に、与えられた JIi (i=1,¼,m) に対し、2乗可積分で滑らかな H が、任意の静磁ベクトル A に対して (18-15) を満たすと仮定します。A として特に、滑らかで台がコンパクトな静磁ベクトルをとれば、A · rot HΩ で可積分になるので (18-14) が成り立ち、これと (18-15) から

(18-16)  òΩ A · (rot H - J ) dV + òΩ' Φ rot H · n dS + åi Φi æ
è
ò

Si
rot H · dS - Ii ö
ø
= 0

が成り立ちます。
 ここで、台が Ω に含まれる A を任意に取れば、Ω' では A = 0 なので Φ = 0 ととることができ、したがって Φi = 0 (i=1,¼,m) となるので (18-16) の左辺第2項と第3項は消えて第1項だけが残り、A の任意性により (18-1) が成り立ちます。その結果、(18-16) の左辺第1項は恒等的に 0 となります。
 次に、滑らかで台がコンパクトな任意の Φ をとり、A = grad Φ とおくと、A は明らかに静磁ベクトルになり、しかも ΦSi の表裏で連続なので Φi = 0 (i=1,¼,m) です。したがって (18-16) の左辺第2項だけが残り、Φ の任意性により (18-3) が成り立ちます。その結果、(18-16) の左辺第2項も恒等的に 0 となります。
 最後に、任意に与えたm個の実数 Φi (i=1,¼,m) に対し、Ω' の近傍で定義され、Si の表裏の差がちょうど Φi になるような Φ を作り、Ω' の近傍で grad Φ に一致する静磁ベクトル A を作って (18-16) に代入すれば、Φi の任意性により (18-2) が成り立ちます。
 以上で、2乗可積分で滑らかな H については、(18-1)(18-3) が成り立つことと、任意の静磁ベクトル A に対して (18-15) が成り立つことは同値であることがわかりました。
 ところで (18-15) は、H が滑らかでなくても、単に2乗可積分であれば意味を持ちます。そこで、今後は(滑らかさを仮定しない)2乗可積分なベクトル場 H が任意の静磁ベクトル A に対して (18-15) を満たすとき、H (18-1)(18-3) を満たすということにします。

 さて、方程式 (18-1)(18-6) の解の存在と一意性については次節にゆずり、2乗可積分な解 HB が与えられたと仮定します。μ は十分遠方でスカラー定数であり、十分遠方では J0 ですから、(18-1)(18-6) により rot B の台はコンパクトです。これと (18-4) から、Helmholtzの定理(「偏微分方程式」第4節 (4-60) 以下参照)により、

(18-17)  B = rot A

を満たす局所可積分なベクトル A が存在し、具体的には

(18-18)  A = 1
—–
4p
ò rot B
———
r
dV'

で与えられます。(18-18) は十分遠方で滑らかかつ (18-7) を満たしており、しかも B が2乗可積分なことと (18-17) により rot A は2乗可積分です。また、(18-5),(18-17) から (18-8) が言えます。更に、(18-18)A

(18-19)  div A = 0

を満たすので、これと (18-8) から、Ω' の内部では

(18-20)  D A = grad div A - rot rot A = 0

すなわち A は調和なので滑らかです。以上により A は静磁ベクトルであることがわかりました。
 一方、第5節 (5-5b) によれば、磁界のエネルギー Um

(18-21)  Um = 1
—–
2
ò H · B dV

で与えられますから、(18-15)A(18-18)A を代入すれば、(18-17),(18-21) により、静磁エネルギーの表示式:

(18-22)  Um = 1
—–
2
òΩ A · J dV + 1
—–
2
åi IiΦi

が得られます。

 この節の最後に、次のような相補性を証明しておきましょう。J , Ii (i=1,¼,m) とは別の J' , Ii' (i=1,¼,m) に対する解を H' ,B' とし、これらの間にも

(18-23)  B' = μ · H'

という関係があるとします。また、静磁ベクトル A'

(18-24)  B' = rot A'

(18-25)  rot A' = 0   in Ω

(18-26)  Φi' = òΓi A' · ds     ( i=1,¼,m )

を満たせば、(18-15)A' , H のペアと A , H' のペアに対して適用して、

(18-27)  ò H · B' dV = òΩ A' · J dV + åi IiΦi'

(18-28)  ò H' · B dV = òΩ A · J' dV + åi Ii' Φi

が成り立ちます。また μ の対称性により、

(18-29)  B · H' = H · μ · H' = H · B'

の関係が成り立つので、(18-27)(18-29) により、

(18-30)  òΩ A' · J dV + åi IiΦi' òΩ A · J' dV + åi Ii' Φi

が得られます。

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