電磁気学


25.電磁場の複素表示

 時間変化する実関数の場 f(t, s)t 関して周期 T を持つならば、f は一般にFourier級数展開して

(25-1)  f(t, s) = ¥
å
n=1
 fn(t, s) 

(25-2)  fn(t, s) = gn(s) cos(wnt) + hn(s) sin(wnt)

という形に書けます。ただし wnn番目の角周波数で、

(25-3)  wn = 2np
——
T

で与えられます。さて、ここで複素数値関数 Fn(t, s)

(25-4)  Fn(t, s) = gn(s) + hn(s) i      ( i = Ö-1 )

で定義すれば、

(25-5)  e-iwn t Fn(t, s) = {gn(s) cos(wnt) + hn(s) sin(wnt)} + {hn(s) cos(wnt) - gn(s) sin(wnt)} i = fn(t, s) + fn(t+p/(2wn ), s) i

と書けるので、fn(25-5) の実部を考察することと同値です。また、虚部も ft について単に p/(2w) だけずらしたものになっています。このように、t に関する周期関数 f を直接考察するかわりに、複素数を用いた (25-5) の形の関数(複素表示)を作ってこれを考察すると、時間の依存性が単なる e-iwn t という因子を乗じることによって表現できるので便利です。

 Maxwell方程式やLorentz力の式は実係数なので、複素表示を用いても、あたかも実数値の関数を考察しているかのように処理して問題ありませんが、関数の積が出てくるところでは注意が必要です。
 今、(25-1) とは別に、

(25-6)  f'(t, s) = ¥
å
n=1
 f'n(t, s) 

(25-7)  f'n(t, s) = g'n(s) cos(wnt) + h'n(s) sin(wnt)

(25-8)  F'n(t, s) = g'n(s) + h'n(s) i

という関数を考え、ff' の積を考えると、

(25-9)  f f'
= ¥
å
n,m=1
 fn  f'm

= ¥
å
n,m=1
Â(e-iwn tFn )Â(e-iwm tFm )

= ¥
å
n,m=1
e-iwn tFn + (e-iwn tFn )*
—————————–
 2 
· e-iwm tF'm + (e-iwm tF'm )*
——————————–
 2 

= ¥
å
n,m=1
e-i (wn+wm )tFnF'm + e-i (wn-wm )tFnF'm* + ei (wn-wm )tFn*F'm + ei (wn+wm )tFn*F'm*
———————————————————————————————–
 4 

 ただし Â は複素数の実部を表わします。ゆえに、周期 T における時間平均をとると、右辺の分子第2項と第3項で n = m となる項以外の項はすべて消え、

(25-10)  f f' º 1
—–
T
ò T

0
 f(t, s) f'(t, s) dt = ¥
å
n=1
FnF'n* + Fn*F'n
———————–
 4 
= ¥
å
n=1
Â(FnF'n*)
————–
 2 
= ¥
å
n=1
Â(Fn*F'n )
————–
 2 
= ¥
å
n=1
gn g'n + hn h'n
—————–
 2 

となります。すなわち積の時間平均については、各周波数ごとに、複素共役との積をとったものを 1/2 倍して足し合わせればよいという重ね合わせの原理が成り立つことがわかります。特に f' = f のときは、

(25-11)  f ² = ¥
å
n=1
| Fn
——–
 2 
= ¥
å
n=1
gn² + hn²
————
 2 

となります。また、関数がベクトル値の場合も同様で、内積や外積については

(25-12)  ——
 f · f' º
 
¥
å
n=1
Â(Fn · F'n*)
—————–
 2 
= ¥
å
n=1
Â(Fn* · F'n )
—————–
 2 
= ¥
å
n=1
gn · g'n + hn · h'n
———————
 2 

(25-13)  ——–
 f ´ f' º
 
¥
å
n=1
Â(Fn ´ F'n*)
——————
 2 
= ¥
å
n=1
Â(Fn* ´ F'n )
——————
 2 
= ¥
å
n=1
gn ´ g'n + hn ´ h'n
———————–
 2 

(25-14)  —–
| f |² =
 
¥
å
n=1
| Fn
——–
 2 
= ¥
å
n=1
| gn + | hn
—————–
 2 

となります。ところで、w ¹ 0 なら

(25-15)   
lim

t®¥
1

t
ò t

0
e±2iwt dt =  
lim

t®¥
e±2iwt - 1
————–
 ±2iwt 
= 0

ですから、(25-10) により、周期 T に対する時間平均は、[0,t] における時間平均の t ® ¥ に対する極限と一致することがわかります。そこで、異なる周期を持つ関数の和についても、[0,t] における時間平均の t ® ¥ に対する極限のことを時間平均とよぶことにすれば、上記のような重ね合わせの原理などはすべて成立します。

 さて、複素表示の応用例として、交流回路について考えてみましょう。回路において、電流が周期的な関数であるとき交流電流と言います。交流の場合は複素表示を使うと便利です。その場合、特定の周波数 w に関する項のみを考えると、(25-5) により、時間微分が -iw を乗じる演算に変わりますから、第12節の (12-31) を考慮した同節 (12-41)Kirchhoff の第2法則は、

(25-16)   
å
ΔÎa
( jLΔ w + RΔ ) iΔ  +  
å
ΔÎb
iΔ
———
jCΔ
w
+  
å
ΔÎg
EΔ = 0

となります。ただし交流理論では習慣的に虚数単位を j で表わし、(25-5)e の肩の符号は + にとるので、この習慣に合わせるために j = - i と置きました。すなわち、インダクタンスは抵抗値 jLw を持つ抵抗、コンデンサは抵抗値 1/( jCw) を持つ抵抗であるかのように振舞います。
 分岐のない交流回路の両端の(複素)電位差を E 、そこを流れる(複素)電流を i と書くとき、

(25-17)  E = Zi

と書けますが、この Zインピーダンスと呼びます。例えば抵抗、コイル、コンデンサを直列に繋いだ回路では、(25-16) により

(25-18)  Z = R + j æ
è
Lw - 1
——
Cw
ö
ø

となります。一般に、インピーダンス Z を実部と虚部に分けて、

(25-19)  Z = R + j X

と書いたとき、Rレジスタンス(抵抗)Xリアクタンスといいます。また Z の逆数 Yアドミッタンスとよび、Y を実部と虚部に分けて、

(25-20)  Y = 1
—–
 Z
= G + j B

と書いたとき、GコンダクタンスBサセプタンスといいます。また、交流における電力の時間平均は、(21-17)(25-10) により

(25-21)   = 1

2
åq Â( Vq Iq* )

と書けます。

 次に電磁場の複素表示を考えてみましょう。電荷・電流密度や電磁界が因子 e-iwt と空間変数のみの量の積として

(25-22a)  E = e-iwt Eo

(25-22b)  H = e-iwt Ho

(25-22c)  r = e-iwt ro

(25-22d)  J = e-iwt Jo

と表わされ、定数 e , m に対して D = eE , B = mH が成り立つものとすれば、Maxwell方程式は

(25-23a)  rot Ho = - iweEo + Jo

(25-23b)  e div Eo = ro

(25-23c)  rot Eo = iwmHo

(25-23d)  div Ho = 0

となります。もしさらにOhmの法則 J = sE が成り立つとすれば、(25-23a),(25-23c)

(25-24a)  rot Ho = (s -iwe)Eo

(25-24b)  rot Eo = iwmHo

という形になります。(25-24)div をとれば、

(25-25a)  div Eo = 0

(25-25b)  div Ho = 0

が得られ、(25-25a)(25-23b) を比較すると、

(25-26)  r = 0

が成り立っていなければならないことがわかり、これは前節冒頭で定義したところの電磁波であることを意味します。この条件のもとで、(25-24) の解は (25-23b),(25-23d) を自動的に満たします。(25-24) それぞれの rot をとると、

(25-27a)  rot rot Ho = (s - iwe)rot Eo = iwm(s - iwe)Ho = wm(we + is)Ho

(25-27b)  rot rot Eo = iwm rot Ho = iwm(s - iwe)Eo = wm(we + is)Eo

 これをさらに rot rot = grad div - D(25-25) を使って変形すると、

(25-28a)  D Ho + wm(we + is)Ho = 0

(25-28b)  D Eo + wm(we + is)Eo = 0

が得られます。これらの方程式の平面波解、すなわちある単位ベクトル e により f º e · s と置いて、HoEof のみの関数である場合の解を求めてみましょう。ここで

(25-29)  Du(f) = div grad u(f) = div (e du(f)
——–
d
f
) = e · grad du(f)
——–
d
f
= e · e d
—–
d
f
du(f)
——–
d
f
= u(f)
——–
df²

ですから、方程式

(25-30)  Du + wm(we + is)u = 0

は、平面波では

(25-31)  u
——
df²
+ wm(we + is)u = 0

となるので、その一般解は、

(25-32)  u = C+ eikf + C- e-ikf       (  k² = wm(we + is)  )

で与えられます。ゆえに、(25-28) の平面波解は、k º ± ke と置くことにより、ある定ベクトル EooHoo によって

(25-33a)  Ho = eik · s Hoo

(25-33b)  Eo = eik · s Eoo

と書ける場合のみを考察すれば十分です。このとき (25-24)

(25-34a)  k ´ Hoo = - (we + is)Eoo

(25-34b)  k ´ Eoo = wmHoo

となり、(25-28)(25-33) を代入すれば、k の満たすべき方程式:

(25-35)  k · k = wm(we + is)

が得られます。特に s = 0 のときは k を実ベクトルにとることができ、この場合は (25-34) の両辺と k の内積をとることにより

(25-36a)  k · Eoo = 0

(25-36b)  k · Hoo = 0

が得られ、電場も磁場も k に垂直な成分のみ存在する横波であることがわかります。この場合は、さらに (25-34b) を実部と虚部に分けて

(25-37a)  k ´ Â(Eoo) = wmÂ(Hoo)

(25-37b)  k ´ Á(Eoo) = wmÁ(Hoo)

とし、それぞれ Â(Eoo) および Á(Eoo) との内積をとることにより

(25-38)  Â(Eoo) · Â(Hoo) = Á(Eoo) · Á(Hoo) = 0

となって、電場と磁場は互いに直交することがわかります。

 本節の最後に電磁場の相反性を導いてみましょう。i = 1,2 として、系 i の電磁場

(25-39a)  Ei = Eioe-iwt

(25-39b)  Hi = Hioe-iwt

が、電荷 ri = rioe-iwt と電流 Ji = Jioe-iwt によって生じているとします。このとき (25-23a),(25-23c) がそれぞれの場に対して成り立つので、

(25-40)  div(Eio ´ Hjo) = Hjo · rot Eio - Eio · rot Hjo = iwmHio · Hjo + iweEio · Ejo - Eio · Jjo

が成り立ちます。これの ij を入れ替えた式を辺々引けば、

(25-41)  div(Eio ´ Hjo - Ejo ´ Hio) = Ejo · Jio - Eio · Jjo

 一方、第8節 (8-35),(8-36) により、遠方で 1/r のオーダーを持つ項 Eiorad , Hjorad については

(25-42)  Hjorad = rj
——
cmrj
´ Ejorad = ri
——
cmri
´ Ejorad + O(r -2)

(25-43)  ri · Eiorad = 0

が成り立ちます。ただし ri は系 i の荷電粒子の位置を原点とした観測点の位置ベクトルです。ゆえに

(25-44)  Eiorad ´ Hjorad - Ejorad ´ Hiorad = æ
è
ri
——
 cmri
- rj
——
 cmrj
ö
ø
( Eiorad · Ejorad ) = O(r -3)

ですから、結局

(25-45)  Eio ´ Hjo - Ejo ´ Hio = O(r -3)

がわかり、(25-41) の左辺を全空間で積分したものは、r -3 のオーダーの項の無限遠の面積分になるので消えます。よって、(25-41) を全空間で積分することにより、相反性

(25-46)  ò Ejo · Jio dV = ò Eio · Jjo dV

が得られます。ただし (25-46) の被積分関数は、一方が複素共役になっていないので、その実部を (25-10) のように変形することができず、したがって通常の仕事率とは解釈できないことに注意が必要です。

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