電磁気学


27.Hertz vectorと球面波

 本節では場の複素表示の応用として、電磁場の輻射について解説します。この場合には以下に説明する Hertz vector というものを考えると便利です。

 連続の式を満たす r , J が任意に与えられたとき、

(27-1a)  J = P
—–
t

(27-1b)  r = - div P

を満たすベクトル P をとります。このような P が必ず存在することは、次のようにして証明することができます。
 時間を含まないベクトル場 Po

(27-2)  div Po = - ro

を満たすように取ります(「微分多様体」第20節 (20-40d) 参照 )。ただし rort = 0 における値です。そして P

(27-3)  P = Po + ò t


0
J dt

で定義します。(27-3) の両辺を t で微分すれば (27-1a) が得られ、(27-3) の両辺の div をとれば、連続の式:

(27-4)  div J = - ¶r
—–
 ¶
t

により (27-1b) が得られます。

 さて、(27-1) を満たす P に対する d'Alembert方程式:

(27-5)  £Πe = - P
—–
e

の解 ΠeHertz vector といいます。Hertz vectorから Aj を、

(27-6a)  A = em Πe
——
 
t

(27-6b)  j = - div Πe

で定義すれば、AjLorentzゲージによるポテンシャルになります。
 実際、(6-19) は明らかに成り立ちます。また、(27-5) の両辺に em を乗じて t で微分し、(27-1a)(27-6a) 用いれば、£A = - m J となり、これは (6-20a) に他なりません。
 また、(27-5) の両辺の div を取り、(27-1b)(27-6b) を用いれば、- £j = r/e が得られ、これは (6-20b) に他なりません。

 逆に、Lorentzゲージによる任意のポテンシャル A , j に対し、(27-6) を満たすHertz vectorが存在することを、次のようにして示すことができます。
 時間を含まないベクトル場 Πeo

(27-7)  div Πeo = - jo

を満たすように取ります(「微分多様体」第20節 (20-40d) 参照 )。ただし jojt = 0 における値です。そしてベクトル場 Πe

(27-8)  Πe = Πeo + 1
—–
em
ò t


0
A dt

で定義します。この両辺に em を乗じて t で微分すれば (27-6a) が得られ、一方 (6-19) により

(27-9)  1
—–
em
div A = - ¶j
—–
 ¶
t

ですから、(27-8) の両辺の div を取り、(27-7),(27-9) を使えば (27-6b) が得られます。そこで P(27-5) で定義すれば、(27-6) と第6節 (6-20) により (27-1) が得られます。

 Hertz vector を用いると、電磁界は、

(27-10)  E
= - grad j - A
—–
t

= grad div Πe - em ²Πe
——
 
t²
      ( ∵ (27-6) )

= rot rot Πe + DΠe - em ²Πe
——
 
t²

= rot rot Πe + £Πe

= rot rot Πe - P
—–
e
      ( ∵ (27-5) )

(27-11)  B = rot A = em rot Πe
——
 
t
      ( ∵ (27-6a) )

で計算できます。ここで

(27-12)  C = e rot Πe

と置けば、

(27-13a)  D = eE = rot C - P

(27-13b)  H =  B
—–
m
= C
—–
t

となります。

 Hertz vector の応用として、振動する双極子の作る電磁界を計算してみましょう。角周波数 w で単振動する双極子とは、

(27-14)  P = pe-iw td(s)

という複素表示をもつ P から (27-1) で定義された電荷・電流分布のことを意味するものとします。ここで p は定ベクトル(双極子モーメント)です。このとき、rJ

(27-15a)  r = - div P = - e-iw t p · grad d(s)

(27-15b)  J = P
—–
t
= -iwpe-iw td(s)

で与えられ、この双極子に対して (27-5) を満たす Πe は、次の遅延ポテンシャルで与えられます:

(27-16)  Πe = 1
——
4pe
ò P(t-r/c,s')
————–
r
dV' =  pe-iw t+ik r
————–
4per

ただし、r = |s|k = w/c です。これをもとに C 、続いて DH を計算します。

(27-17)  C = e rot Πe = e-iw t
——–
 4p 
grad eik r
——
 r 
´ p = e-iw t
——–
 4p 

—–
 ¶
r
æ
è
eik r
——
 r 
ö
ø
n ´ p = e-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
ik
—–
 r
- 1
—–
r²
ö
ø
n ´ p

 ただし
(27-18)  n = grad r = s
—–
r

です。(27-17) により、

(27-19)  H = C
—–
t
= - iwe-iw t+ik r
—————
 4p 
æ
è
ik
—–
 r
- 1
—–
r²
ö
ø
n ´ p = we-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
k
—–
 r
+ i
—–
r²
ö
ø
n ´ p

(27-20)  D
= rot C

= e-iw t
——–
 4p 
grad ì
í
î
eik r  æ
è
ik
—–
 r
- 1
—–
r²
ö
ø
ü
ý
þ
´ (n ´ p) + e-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
ik
—–
 r
- 1
—–
r²
ö
ø
rot (n ´ p)

= e-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
- k²
—–
 r
- 2ik
—–
 r²
+ 2
—–
r³
ö
ø
n ´ (n ´ p) + e-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
ik
—–
 r
- 1
—–
r²
ö
ø
n ´ (n ´ p) - 2(n · p)n
—————————–
r

= e-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
- k²
—–
 r
- ik
—–
 r²
+ 1
—–
r³
ö
ø
n ´ (n ´ p) + e-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
- 2ik
—–
 r²
+ 2
—–
r³
ö
ø
(n · p)n

が得られます。ただしここで、

(27-21)  rot (n ´ p)
= r rot (n ´ p)
—————
r

= rot (rn ´ p) - grad r ´(n ´ p)
————————————
r

= Ñ ´ (s ´ p) - n ´(n ´ p)
——————————
r

= ( p · grad )s - p div s - n(n · p) + p
——————————————
r

= - n(n · p) - p
——————
r

= n ´ (n ´ p) - 2 n(n · p)
—————————–
r

を使い、(27-20) では原点のみに存在する P は無視しました。(27-19),(27-20) により DH は互いに直交していることがわかります。また、双極子から十分遠ければ、電磁場は 1/r に比例する項だけになり、

(27-22a)  D » -k²e-iw t+ik r
—————–
 4pr 
n ´ (n ´ p)

(27-22b)  H » wke-iw t+ik r
—————–
 4pr 
n ´ p

となり、その大きさは |n ´ p| = p sin q に比例することもわかります。
 また、複素表示であることに注意して Poynting vector の時間平均を計算すれば、十分遠方で、

(27-23)  S = Â(D ´ H*)
—————
2e
» wk³|n ´ pn
—————
32p²er²
= wk³p²sin²q n
—————
32p²er²

 したがって、半径 r の球面上で積分すれば、エネルギーの流れの時間平均は、

(27-24)  
= ò S · dS

» ò 2p
   df
0
ò p


0
wk³p²sin²q
————–
32p²e
r²
r²sin q dq

= wk³p²
———
16pe
ò p

0
(1 - cos²q) sin q dq

= wk³p²
———
16pe
ò  1

-1
(1 - l²) dl

= wk³p²
———
12pe

= mw4 p2
———
 12p
c

となります。ただし、最後の等号で、k = w/cc²em = 1 を使いました。

 次に、電荷密度 r = 0 である場合について考えてみましょう。この場合、連続の式により div J = 0 ですから、

(27-25)  J = rot M

を満たすベクトル M が存在します。この M に対する d'Alembert方程式:

(27-26)  £Πm = - M

の解 Πm を考え、これも Hertz vector といいます。この Πm を用いて

(27-27)  A = m rot Πm

と置くと、この Aj º 0 の組はCoulombゲージのポテンシャルになります。実際、(27-27) の両辺の div をとれば (6-28) が導かれ、(27-26) の両辺に m を乗じて rot をとれば、(27-25),(27-27) により £A = - m J が導かれ、(6-15) が成り立つからです。

 逆に、j º 0 であるようなCoulombゲージのポテンシャル A が与えられたとすると、(6-28) とポアンカレの補題により、(27-27) を満たす Πm が存在します。この Πm から (27-26) によって M を定義すれば、(27-26) の両辺の rot をとり、(27-27),(6-15) を用いることにより、(27-25) が得られます。

 この Πm を使って、今度は振動する磁気双極子の作る電磁界を計算してみましょう。角周波数 w で単振動する磁気双極子とは、

(27-28)  M = me-iw td(s)

という複素表示をもつ M から (27-25) で定義された電流分布のことを意味するものとします。ここで m は定ベクトル(磁気双極子モーメント)です。このとき J

(27-29)  J = rot M = - e-iw t m ´ grad d(s)

で与えられ、この双極子に対して (27-26) を満たす Πm は、次の遅延ポテンシャルで与えられます:

(27-30)  Πm = 1
—–
4p
ò M(t-r/c,s')
————–
r
dV' =  me-iw t+ik r
————–
4pr

 これをもとに A 、続いて EB を計算すると、振動する双極子の場合と同様にして、

(27-31)  A = m rot Πm = me-iw t+ik r
—————
 4p 
æ
è
ik
—–
 r
- 1
—–
r²
ö
ø
n ´ m

(27-32)  E = - A
—–
t
= - mwe-iw t+ik r
—————–
 4p 
æ
è
k
—–
 r
+ i
—–
r²
ö
ø
n ´ m

(27-33)  B = rot A = me-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
- k²
—–
 r
- ik
—–
 r²
+ 1
—–
r³
ö
ø
n ´ (n ´ m) + me-iw t+ik r
————–
 4p 
æ
è
- 2ik
—–
 r²
+ 2
—–
r³
ö
ø
(n · m)n

が得られます。(27-32),(27-33) により EB は互いに直交していることがわかります。また、磁気双極子から十分遠ければ、電磁場は 1/r に比例する項だけになり、

(27-34a)  E » -mwke-iw t+ik r
——————
 4pr 
n ´ m

(27-34b)  B » -mk²e-iw t+ik r
——————
 4pr 
n ´ (n ´ m)

となり、その大きさは |n ´ m| = m sin q に比例することもわかります。また、Poynting vector の時間平均を計算すれば、十分遠方で、

(27-35)  S = Â(E ´ B*)
—————
2m
» mwk³|n ´ mn
——————
32p²r²
= mwk³m²sin²q n
——————
32p²r²

 したがって、半径 r の球面上で積分すれば、エネルギーの流れの時間平均は、

(27-36)   = ò S · dS » mwk³m²
———–
12p
= mw4 m2
———
12p
c3

となります。

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