電磁気学


30.光学近似

 本節では、電荷 r = 0 、電流 J = 0 の場合の電磁波を扱います。周波数が高い場合に、場を激しく変動する部分と緩やかな変動部分に分けて考えると便利です。そこで w を周波数 、f = f(s) を激しく変化する場の因子として、

(30-1)  y(w, s, t) = w{f(s) - t}

と置きます。この因子を使って、電磁場を

(30-2)  E = Eoeiy , B = Boeiy , D = Doeiy , H = Hoeiy

と置きます。ここで、添え字 o を付けた場は、電磁場の変化が緩やかな部分を表します。r = 0J = 0 の場合の Maxwell方程式を書き下すと、

(30-3a)  0 = e-iy æ
è
rot H - D
—–
t
ö
ø
= rot Ho - Do
——
 
t
+ iwÑf ´ Ho + iwDo

(30-3b)  0 = e-iy div D = div Do + iwÑf · Do

(30-3c)  0 = e-iy æ
è
rot E + B
—–
t
ö
ø
= rot Eo + Bo
——
 
t
+ iwÑf ´ Eo - iwBo

(30-3d)  0 = e-iy div B = div Bo + iwÑf · Bo

となります。そこで

(30-4)  κ = Ñf

と置きます。κ の意味を考えるため、(30-1)dy = 0 と置いてみると、

(30-5)  0 = dy = w{Ñf · ds - dt} = w{κ · ds - dt}

 すなわち、

(30-6)  κ · ds
—–
d
t
= 1

 そこで、ds/dt の長さが最小になるように ds をとったときの ds/dt位相速度と言い、vp で表します。すなわち、κ と向きが一致するときに長さが最小になりますから、

(30-7)  vp = κ
—–
k²

となり、両辺の長さを取れば

(30-8)  vp = 1
—–
k

となります。
 さて、(30-3) において w に比べて添字 o の付いた量の微分を無視する近似を光学近似といいます。光学近似では、次の一連の方程式が得られます。

(30-9a)  κ ´ Ho = - Do

(30-9b)  κ · Do = 0

(30-9c)  κ ´ Eo = Bo

(30-9d)  κ · Bo = 0

 これらの方程式が成り立つには、必ずしも w が大きい必要はなく、例えば添字 o を付けた場が定ベクトルであれば成り立つことに注意します。
 なお、(30-9) はすべてが独立ではなく、(30-9b)(30-9a) から、(30-9d)(30-9c) からそれぞれ導かれますから、本質的なのは (30-9a)(30-9c) の2つの方程式です。(30-9a)(30-9c) から、

(30-10a)  Ho · Do = 0

(30-10b)  Eo · Bo = 0

が得られます。さて、以下では透磁率は m = mo で一定で、誘電率は一般に対称テンソル ε とします:

(30-11a)  Bo = mHo

(30-11b)  Do = ε · Eo

 以上のもとで、κ の満たすべき方程式を求めてみましょう。(30-9c),(30-11a),(30-9a),(30-11b) により、

(30-12)  κ ´ (κ ´ Eo) = κ ´ Bo = mκ ´ Ho = - mDo = - mε · Eo

 すなわち κ の満たすべき条件として次の方程式が得られます:

(30-13)  (κ · Eo)κ - k²Eo + mε · Eo = 0

 さて、EoDo が平行なら、(30-9b) により κ · Eo = 0 が成り立ちます。また逆に、κ · Eo = 0 なら、(30-13),(30-11) により k² Eo = mε · Eo = mDo ですから EoDo は平行です。
 以上の点に留意し、更に計算の便のため、座標軸を ε が対角行列になるように選びます:

(30-14)  ε = æ
ç
è
e1
0
0
0
e2
0
0
0
e3
ö
÷
ø

 以下、EoDo が平行な場合とそうでない場合に分けて考えることにします。

CASE 1

 まず EoDo が平行な場合を考えます。κ · Eo = 0 ですから、(30-13) により

(30-15)  0 = k²Eo - mε · Eo = (k²1 - mε)Eo

 すなわち Eomε の固有値 k² に対する固有ベクトルです。ゆえに、

(30-16)  det(k²1 - mε) = (k² - me1)(k² - me2)(k² - me3) = 0

 したがって、ある i に対して

(30-17)  k º |Ñf| = Ömei

が成り立ちます。これを f に対するeikonal方程式といいます。

(30-18)  ci = 1
——
Öme
i

と置けば、(30-8)(30-17) により

(30-19)  vp = ci

 特に誘電率がスカラー e の場合は、EoDo は平行ですから、常に eikonal方程式が成り立ちます:

(30-20)  |Ñf| = Öme

 しかも

(30-21)  c = 1
——
Öme

とおくと

(30-22)  vp = c

となるので、c はその点における光の位相速度を意味していることがわかります。このことから、次のようなFermatの原理を導くことができます。
 空間の曲線 Γ は、その接ベクトルが常に κ = Ñf に平行であるとき、光線といいます。光線上に2点 s0 , s1 を取ったとき、この2点を結ぶ任意の曲線 Γ に対し、光が Γ に添って s0 から s1 まで位相速度で進むのにかかる時間を TΓ と書くと、(30-20),(30-21) により、

(30-23)  TΓ º òΓ ds
—–
 c
= òΓ |Ñf| ds ³ òΓ Ñf · ds = f(s1) - f(s0)

 この右辺は Γ に依存しない定数です。したがって、この不等号が等号になるのは ÑfΓ の接ベクトルが常に平行な場合、すなわち Γ が光線に一致する場合であり、そのときに TΓ が最小値をとることがわかります。これをFermatの原理といいます。

CASE 2

 次に EoDo が平行でない場合を考えます。(30-13) を成分ごとに書き下せば、

(30-24)  (κ · Eo)ki - k²Eoi + meiEoi= 0

 あるいは

(30-25)  Eoi = (κ · Eo)ki
————
k
²
- mei

 そこで (30-25) の両辺に ki を乗じて i について加え、両辺を κ · Eo ¹ 0 で割れば、

(30-26)  1 = 3
å
i=1
ki²
———–
k² - me
i

という κ に対する方程式が得られます。これを変形すると、

(30-27)  0 = 3
å
i=1
æ
è
ki²
—–
 k
² 
- ki²
———–
k² - me
i
ö
ø
= 3
å
i=1
-ki²mei
—————
k
²(k² - mei)
= 1
—–
k
²
3
å
i=1
ki²mei
———–
mei - k
²
= 1
—–
k
²
3
å
i=1
ki²/k² 
—————–
k-2 - (mei)-1

 そこで

(30-28)  e =  κ
—–
k

と置き、これと (30-8),(30-18) を用いると、(30-27)

(30-29) 3
å
i=1
ei²
———–
vp² - ci²
= 0

と書けます。これをFresnel方程式と呼びます。左辺の分母を払った式を f(vp²) と書くと、

(30-30)  f(vp²) = e1²(vp² - c2²)(vp² - c3²) + e2²(vp² - c3²)(vp² - c1²) + e3²(vp² - c1²)(vp² - c2²)

という2次式になりますが、一般性を失うことなく

(30-31)  c1 ³ c2 ³ c3

と仮定することができ、

(30-32a)  f(vp²) > 0      ( vp² > c1²  or  vp² < c3² )

(30-32b)  f(c2² ) £ 0

ですから、vp は、ε や波の進む向き e の如何にかかわらず常に実根を持ち、

(30-33)  c1 ³ vp ³ c3

を満たすことがわかります。
 さらに場合分けを行うこととし、最初に2次方程式 f(vp²) = 0 が重根を持つための条件を考えましょう。(30-32) により、その条件は、

(30-34)  f(c2²) = f '(c2²) = 0

となることであり、この場合、c2² がその唯一の根となります。(30-30) により、

(30-35a)  0 = f(c2²) = e2²(c2² - c3²)(c2² - c1²)

(30-35b)  0 = f '(c2²) = (e1² + e2²)(c2² - c3²) + (e2² + e3²)(c2² - c1²)

 これらにより、まず e2 = 0 がわかります。なぜなら e2 ¹ 0 とすると、(30-35a) により、c2c1 , c3 の少なくとも一方と等しくなりますが、(30-35b) により、実はもう一方とも等しくなってしまい、これは e1 = e2 = e3 を意味するので EoDo は平行になり、仮定に反するからです。
 さて、e2 = 0 により (30-35b) は、

(30-36)  e1²(c2² - c3²) + e3²(c2² - c1²) = 0

 これと e1² + e3² = 1 により、

(30-37a)  e1 = ± Ö————–
c1² - c2²
———–
c1² - c3²

(30-37b)  e3 = ± Ö————–
c2² - c3²
———–
c1² - c3²

 すなわち波の進む向きが x-z 平面に含まれる特定の4方向にある場合に vp が重根を持つことがわかります。

 次に f(vp²) = 0 が相異なる2実根を持つ場合を考えます。(30-13) は、(30-28) を用いると、

(30-38)  {k²(ee - 1) + mε}Eo = 0

と書けますが(ただし は転置行列)、左から k-2(mε)-½ = vp²(mε)-½ を乗じれば、

(30-39)  {(mε)-½(ee - 1)(mε)-½ + vp²}(mε)½Eo = 0

 すなわち (mε)½Eo は、対称行列 C = (mε)-½(ee - 1)(mε)-½ の固有値 - vp² に対する固有ベクトルです。仮定により f(vp²) = 0 が相異なる2実根を持つので、2つの相異なる固有値に対する固有ベクトル (mε)½E1 , (mε)½E2 が存在します。一方

(30-40)  C (mε)½e = (mε)-½(ee - 1)e = (mε)-½(e - e) = 0

ですから、(mε)½e は固有値 0 に対する固有ベクトルです。したがって、これら3つのベクトルは互いに直交することがわかります。したがって、(i, j) = (1,2) or (2,1) に対して

(30-41)  Ei · Dj = EiεEj = Ei(mε)Ej
————–
 m 
= {(mε)½Ei} · {(mε)½Ej}
—————————
 m 
= 0

 同様に、i = 1,2 に対して

(30-42)  e · Di = eεEi = e(mε)Ei
———–
 m 
= {(mε)½e} · {(mε)½Ei}
————————–
 m 
= 0

が成り立ちます。さらに、(30-38)EoE2 を代入し、左から D1 を乗じれば、

(30-43)  0 = D1{k²(ee - 1) + mε}E2 = k²(e · D1)(e · E2) - k²D1 · E2 + mD1 · D2

 よって、(30-41),(30-42) により

(30-44)  D1 · D2 = 0

も得られます。さらに、この場合、(mε)½E1 , (mε)½E2 , (mε)½e は3つの独立なベクトルで空間は3次元ですから、各固有値に対する固有空間は1次元です。すなわち、与えられた e に対して、E は(したがって電磁場は)特定の2方向の波のみが存在する偏光になっていることがわかります。

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