集合と位相


16.位相群の閉グラフ定理

 位相空間 X からHausdorff空間 Y への連続写像 f のグラフ { (x, f(x)) | xÎX } は、g(x, y) ( f(x), y) で定義される X ´ Y から Y ² への連続写像による Y の対角集合 DY{( y, y) | yÎY } の逆像で、YHausdorff性により DY が閉なので、閉集合です。
 逆はもちろん一般的には成り立ちませんが、XY がよい性質を持つ空間で、写像 f に一定の条件を付けた場合は、逆も成り立ちます。本節では XY位相群で、f が群の準同型の場合について考察します。
 また、f が群の準同型の場合、そのグラフ G は明らかに X ´ Y の部分群になります。逆に Y から X への群準同型のグラフの場合も同様です。そこで、準同型の像の場合と逆像の場合を統一的に扱うため、X ´ Y の部分群 R について考察し、本節では次の定理の導出を目的とします。


■ Martineau群に対する閉グラフ定理 ■

 XMartineau群、Y を位相群、RX ´ Y の閉部分群とする。
 もし R の値域 R[X ]Y の痩せていない部分集合ならば、X の任意の開集合 O の像 R[O]Y の開集合である。
 特に、値域 R[X ]Y の開集合である。



 ただしMartineau空間であるようなHausdorff位相群のことをMartineauと略称しました。

 さて、X を任意のMartineau空間、Y を位相空間、RX ´ Y の閉部分集合とするとき、ふるい ( I, p )X 上の網 j が存在して、(15-1) により

(16-1a)  È{ R[j0(i)] | I0 } = R[X ]

(16-1b)  È{ R[jk+1(i)] | pk(i) = l } = R[jk(l)]       ( Ik )

が成り立ちます。一方、第14節の議論により、(14-5) の形の集合は痩せた集合でしたから、

(16-2a)  A' o(R[X ]) \ È{ o(R[j0(i)]) | I0 }

(16-2b)  Ak,l o(R[jk(l)]) \ È{ o(R[jk+1(i)]) | pk(i) = l }       ( Ik )

はすべて痩せた集合で、従ってこれらの可算個の合併:

(16-2c)  AA' È( È{ Ak,i | kÎN , Ik } )

も痩せた集合です。さて、第14節の議論により R[X ] \ o(R[X ]) は痩せた集合ですが、更に

(16-3)  o(R[X ]) \ R[X ] Ì A

が成り立つことを示すことができます。実際、xÎo(R[X ]) \ A を任意に取ります。このとき、すべての k に対して

(16-4)  xÎo(R[jk(ik )])

となる糸 { ik | kÎN } が存在することを証明しましょう。
 まず、xÎo(R[X ]) かつ xÏA' ですから、xÎo(R[j0(i0 )]) となる i0ÎI0 が存在します。
 次に xÎo(R[jk(ik )]) と仮定すると、xÏAk,ik ですから (16-2b) により xÎo(R[jk+1(i)]) かつ pk(i) = ik となる Ik+1 が存在するので、この iik+1 と置けば帰納法が完成し、(16-4) が証明されました。
 ゆえに (16-4) と第14節 (14-3) により、x はすべての R[jk(ik )] の閉包に属します。一方、XMartineau空間なので { jk(ik ) | kÎN } はコンパクト・フィルターの基底であり、R は閉集合ですから、(8-3) により

(16-5)  xÎÇ{ _________
R[jk(ik )]
| kÎN } Ì  R[ Ç{ ______
jk(ik )
| kÎN }] Ì R[X ]

となります。すなわち o(R[X ]) \ A Ì R[X ] が導かれ、(16-3) は証明されました。ゆえに2個の集合の対称差:

(16-6)  A- B (A \ B)È(B \ A)

の記号を導入すると、R[X ]- o(R[X ]) は痩せた集合であることが証明されたことになります。

 以上の結果から、更にもし R の値域 R[X ]Y の痩せていない部分集合なら、X の任意の開被覆 O に対し、R[O ]- o(R[O ]) が痩せた集合で、かつ o(R[O]) ¹ Æ となる OÎO が存在することが証明できます。
 実際、(16-1a) において、右辺は仮定により痩せておらず、左辺は可算個の集合の合併ですから、それらの集合の少なくとも一つ R[j0(i)] は痩せていません。この ii0 と書くことにします。
 次に (16-1b) において、左辺は集合の可算個の合併ですから、右辺が痩せていなければ、{ } の中に少なくとも一つ痩せていない集合が存在します。よって帰納法により、糸 { ik | KÎN } で、すべての k に対して R[jk(ik )] が痩せていないようなものが存在することがわかります。
 一方、XMartineau空間なので、{ jk(ik ) | kÎN } はコンパクト・フィルターの基底であり、ここで第8節におけるコンパクト・フィルターの特徴付けを用いると、O の有限部分集合 O'kÎN が存在して

(16-7)  jk(ik ) Ì ÈO'

が成り立ちます。ゆえに

(16-8)  R[jk(ik )] Ì È{ R[O] | OÎO' }

となって、左辺は痩せていないので、右辺も痩せていないことになりますが、右辺は有限個の合併なので、R[O] が痩せていないような OÎO' が存在します。一方 OMartineau空間の閉部分集合ですからMartineau空間です。
 そこで、X のかわりに O とし、R のかわりに RÇ(O ´ Y ) として先述の結果を適用すれば、R[O ]- o(R[O ]) は痩せた集合であることがわかります。
 一方、R[O ] は痩せていないので o(R[O ]) ¹ Æ です。以下 SR[O] と略記します。o(S ) は空でない開集合で、S - o(S ) は痩せた集合です。

 さて次に、以上の結果に加えて、もし Y が位相群なら、

(16-9)  o(S )-1o(S ) Ì S -1S

が成り立つことを証明しましょう。
 まず、痩せていない部分集合 R[X ] を含む Y は痩せてない位相群なので、第14節の注意により YBaire空間であることに注意します。
 さて、xÎo(S )-1o(S ) を任意に取ると、o(S )xÇo(S ) ¹ Æ となります。ところが x を右から乗じる演算は位相同型写像なので o(S )x は開集合、従って o(S )xÇo(S )Baire空間 Y の空でない開集合なので痩せていません。一方

(16-10)  o(S )xÇo(S ) Ì (SxÇS ) È (Sx- o(S )x) È (S - o(S )) = (SxÇS ) È (S - o(S ))x È (S - o(S ))

が成り立ち、今示したことから左辺は痩せておらず、S - o(S ) も、その位相同型な写像による像 (S - o(S ))x も共に痩せた集合ですから、SxÇS は痩せていないことがわかり、従って特に空ではありません。ところがこれは xÎS -1S を意味しており、(16-9) は証明されました。
 ところで o(S ) は空でないので、(16-9) の左辺は、単位元を含み、かつ È{ x-1o(S ) | xÎo(S ) } と書けるので開集合です。従って (16-9) の右辺、すなわち R[O]-1R[O]Y の単位元の近傍であることがわかりました。

 最後に、上記の仮定に加えて XHausdorffな位相群で、R は部分群であると仮定します。
 X の単位元の任意の近傍 U に対し、V -1V Ì U となる X の単位元の開近傍 V を取ります。Hausdorff位相群は完全正則ですから正則で、W Ì V となる単位元の開近傍 W が存在します。
 ここで O{ aW | aÎX } と置くと、これは X の開被覆ですから、上で得られた結果を用いれば、ある aÎX が存在して R[aW ]-1R[aW ]Y の単位元の近傍になることがわかります。このとき

(16-11)  R[aW ]-1R[aW ] = R[(aW )-1]R[aW ] Ì R[(aW )-1aW ] = R[(aW )-1aW ] = R[W -1W ] Ì R[V -1V ] Ì R[U ]

となるので、X の任意の単位元の近傍 U に対し、R[U ]Y の単位元の近傍であることがわかりました。
 最後に OX の任意の開集合とし、任意に yÎR[O] を取ると、(x, y)ÎR となる xÎO が存在します。このとき x-1OX の単位元の近傍なので、今証明した結果により GR[x-1O]Y の単位元の近傍ですから

(16-12)  yG Ì R[{x}]R[x-1O] Ì R[xx-1O] = R[O ]

となって、R[O]y の近傍であることがわかります。y は任意ですから、これは R[O] が開集合であることを意味しています。特に O = X と置けば R[X ]Y の開集合であることもわかります。以上でMartineau群に対する閉グラフ定理は完全に証明されました。

 特に、この閉グラフ定理を、RY から X への群準同型のグラフである場合について適用すれば、位相群の痩せていない部分群で定義されたMartineau群への群準同型は、グラフが閉集合ならば連続で、かつ定義域は開集合であることがわかります。
 更に定義域が Y である場合を考え、Baire集合であるような位相群を単にBaireとよべば、Baire群からMartineau群への群準同型は、グラフが閉集合なら連続です。

 また、この閉グラフ定理を、RX から Y への群準同型のグラフである場合について適用すれば、Martineau群から位相群への群準同型は、グラフが閉集合で値域が痩せていないならば開写像で、かつ値域は開集合であることがわかります。
 更に値域が Y である場合を考えると、Martineau群からBaire群の上への群準同型は、グラフが閉集合なら開写像です。

 次に、Souslin群のBorelグラフ定理について解説します。Martineau群のところをSouslin群と強めると、逆に R に対する条件を閉集合より弱めることができます:


■ Souslin群に対するBorelグラフ定理 ■

 X , YSouslin群、RX ´ Y の列的Borel集合であるような部分群とする。
 もし R の値域 R[X ]Y の痩せていない部分集合ならば、X の任意の開集合 O の像 R[O]Y の開集合である。
 特に、値域 R[X ]Y の開集合である。



 ただしSouslin空間であるようなHausdorff位相群のことをSouslinと略称しました。
 さて、その証明ですが、X , Y は共にSouslin空間ですから、それらの積 X ´ YSouslin空間です。ゆえに第15節最後の結果により RSouslin空間、従って特にMartineau空間です。
 また、R から Y への写像 pp(x, y) = y で定義すると、p は明らかに連続な準同型なので、そのグラフは R ´ Y の閉部分群で、しかも p[R] = R[X ]Y の痩せていない部分集合です。
 ゆえにMartineau空間 R と位相群 Yp のグラフについてMartineau空間に対する閉グラフ定理を適用すると、p は開写像、すなわち X の任意の開集合 O に対して RÇ(O ´ Y )R の開集合ですから、p[RÇ(O ´ Y )]Y の開集合です。
 ところが yÎp[RÇ(O ´ Y )]  Û  $xÎO : (x, y)ÎR  Û  yÎR[O] ですから、R[O]Y の開集合です。以上でSouslin群に対するBorelグラフ定理は証明されました。

 さて、Souslin群に対するBorelグラフ定理において、Y は痩せていない部分集合 R[X ] を含むので Y 自身が痩せておらず、しかも位相群ですから実はBaire群です。すなわちSouslin群かつBaire群というわけですが、実はこのとき次のことが証明できます:


 Baire空間であるようなSouslinX は可分な距離空間である。更に XAbel群なら完備である。



 まず、XBaire空間であるようなSouslin空間とすると、ふるい ( I, p ) と、任意の空でない糸が収束する X 上の網 j が存在します。

 まず、可算集合 { jk(i) | kÎN , Ik } の空でない要素から1個ずつ元を選んで集めた集合を C とすると、CX の可算集合です。
 ところで任意の xÎX に対し、すべての要素が x を元に持つ糸が存在しますが、XSouslin空間なので、この糸は x に収束し、従って x の任意の近傍は C と交わります。すなわち CX で稠密であることがわかり、X は可分です。

 次に、j は前節の (15-1) を満たしますが、(15-1a) において、右辺は仮定により痩せておらず、左辺は可算個の集合の合併ですから、それらの集合の少なくとも一つ j0(i) は痩せていません。この ii0 と書くことにします。
 次に (15-1b) において、左辺は集合の可算個の合併ですから、右辺が痩せていなければ、{ } の中に少なくとも一つ痩せていない集合が存在します。よって帰納法により、糸 { ik | KÎN } で、すべての k に対して jk(ik ) が痩せていないようなものが存在することがわかります。
 一方、XSouslin空間なので、{ jk(ik ) | kÎN } は収束フィルターの基底であり、X のある点 a に収束します。一方 X の単位元の任意の近傍 U に対し、V -1V Ì U となる単位元の近傍 V が存在しますが、このときある k に対して jk(ik ) Ì aV となるので、更に (14-3) により

(16-13)  o(jk(ik ))-1o(jk(ik )) Ì ______
jk(ik )
-1 ______
jk(ik )
Ì ( aV  )-1 aV  Ì ( a )-1 a = ( aV )
-1 aV = V -1V Ì U

が成り立ちます。一方 jk(ik ) は痩せていないので、o(jk(ik )) ¹ Æ ですから、左辺は X の単位元の開近傍です。すなわち X の単位元の近傍は可算基底 { o(jk(ik ))-1o(jk(ik )) | kÎN } を持つことがわかり、これは X に距離が付くことを意味しています。

 最後に XAbel群の場合、その完備化 は位相群になります。更に、X はそれ自身の中で痩せていないので、 の痩せていない部分集合です(第14節参照)。ゆえに MartineauX と位相群 と標準写像 i : X ® に対してMartineau群に対する閉グラフ定理を適用すれば、X の開部分群であることがわかります。
 よってこれは の閉部分群でもあり(第13節参照)、X における閉包ですから X = となり、X は完備であることがわかりました。

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