熱・統計力学


1.温度

 エントロピー増大則 (I)a £ b   Þ   S(a) £ S(b) と書くことができます。一方、操作可能な変数が x 、内部エネルギーが u の平衡状態とは、Σ(s, x, u) の擬順序 “£” に関する最大値のことでしたから、これらを組み合わせると、平衡状態は、条件

(1-1)  U(s(x, λ)) = u

のもとでエントロピー S(s(x, λ)) が最大値をとる s(x, λ) で与えられる、ということになります。これをエントロピー最大の原理といいます。
 これは、Lagrangeの未定乗数法により、ある未定乗数 kb が存在して(わざわざ2つの数の積の形に書いたのは、後の統計力学の議論に合わせるためです)、x を固定して λλx,u の近傍で微小変化させたとき、

(1-2)  dS(s(x, λ)) = kbdU(s(x, λ))

が成り立つことを意味します。そこで、未定乗数 kb の逆数:

(1-3)  T º 1
—–
kb

のことを、この平衡状態の温度とよびます。(1-2)T を使うと

(1-4)  dU = TdS

と書かれますが、x は固定していますから、(Q) により dU = d'Q となるので、(1-4)

(1-5)  d'Q = TdS

とも書くことができます。

 ところで上記の議論では x を固定しているため、(1-4) でも (1-5) でも同じことですが、実は (1-5) の方は、x を変化させた場合でも、準静変化、すなわち微小変化前と変化後の状態が共に平衡状態であれば成立します(この場合の (1-5) まで含めて熱力学の第2法則とよぶことがあります)。

 この事実の証明に先立って補題を一つ証明しておきましょう。一般に a º s(x, λ)a' º s(x', λ') に無限小変化させたとき、断熱変化ならば (E) により d'Q = 0 が成り立ちますが、逆は必ずしも成り立ちません。しかしこれが準静変化なら逆も成り立ちます。すなわち、

補題  平衡状態 a º s(x, λx,u) から平衡状態 a' º s(x', λx',u') への無限小変化が d'Q = 0 を満たしていれば a £ a' が成り立つ。

 この補題の証明ですが、x が操作可能であることから

(1-6)  a £ s(x', λ')

となる λ' が存在します。そこで

(1-7)  u" º U(s(x', λ'))

と置けば、平衡状態の定義により

(1-8)  s(x', λ') £ s(x', λx',u")

が成り立ちますから、(1-6),(1-8) と“£”が擬順序であることにより

(1-9)  a £ s(x', λx',u")

となります。ゆえに (E) により、a から s(x', λx',u") への変化でも d'Q = 0 です。一方、a から a' = s(x', λx',u') への変化も s(x', λx',u") への変化も dx = x' - x は共通ですから、(W) により d'W は共通で、しかも共に d'Q= 0 ですから、(T) により dU も共通です。すなわち u' = u" となり、これと (1-9) から

(1-10)  a £ s(x', λx',u') = a'

が得られ、補題は証明されました。

 さて、この補題を用いて準静変化に対する (1-5) を導いてみましょう。d'Q = 0 を満たす任意の準静変化に対し、補題によってこれは断熱変化ですから、エントロピー増大則 (I) により dS ³ 0 が成り立ちます。ところが逆向きの変化を考えると、これも準静変化ですから、同様にして逆の不等式 dS £ 0 が得られるので、結局 dS = 0 が成り立ちます。すなわち、準静変化に対しては d'Q = 0 なら dS = 0 が成り立つことがわかりました。
 ゆえにLagrangeの未定乗数法により、ある未定乗数 kb' によって

(1-11)  dS = kb'd'Q

という関係式が成り立ち、kb' の逆数を T ' と書けば、

(1-12)  d'Q = T ' dS

となります(以上の議論は、エントロピーが平衡状態に対してしか定義されていない理論でも有効であることに注意します)。
 一方、内部エネルギーの異なる平衡状態への x を固定した準静変化は、d'Q ¹ 0 であり、準静変化であると同時に x を固定した変化ですから、両比例定数 TT ' は等しくなければなりません。
 以上で任意の準静変化に対して (1-5) が成り立つことがわかりました。

 さて、任意の平衡状態に対して温度という概念が定義されましたが、2つの平衡状態 a º s(x, λx,u)a' º s'(x', λ'x',u')等温であることと温度が等しいことが字義どおり同値であることを、以下のようにして示すことができます。
 まず、aa' が共に平衡状態であるとし、それぞれの温度を TT ' とします。このとき xx' を固定して λ , λ' を微小変化させると、(1-4) により、

(1-13a)  dU(a) = T dS(a)

(1-13b)  dU(a') = T ' dS(a')

が成り立ちます。さて、aa' が等温であるとは、a+a' が平衡状態であるということですから、それぞれの内部エネルギーを uu' とするとき、

(1-14)  U(s(x, λ)+s'(x' ,λ')) = U(s(x, λ)) + U(s'(x', λ')) = u + u'

を満たす λ , λ' に対し、S(s(x, λ)+s'(x', λ')) = S(s(x, λ)) + S(s'(x', λ'))(λ, λ') = (λx,u, λ'x',u') で最大値をとることと同値です。これは、x , x' を固定して (λ, λ')(λx,u, λ'x',u') の近傍で

(1-15)  dU(a) + dU(a') = 0

を満たすように任意に微小変化させたとき、

(1-16)  dS(a) + dS(a') = 0

が成り立つことと同値で、(1-16)(1-13a),(1-13b) によって変形すると、

(1-17)  dU(a)
———
 T 
+ dU(a')
———
 T ' 
= 0

 これに (1-15) を代入すると、

(1-18)  æ
è
1
—–
T
- 1
—–
 T '
ö
ø
dU(a) = 0

となり、dU(a) は任意に取れますから、これは

(1-19)  T = T '

と同値です。これで主張は証明されました。しかも、このとき (1-13a)(1-13b) を辺々加えれば、US の加法性により、

(1-20)  dU(a+a') = TdS(a+a')

であり、一般に系の温度は

(1-21)  T = æ
è
U
—–
S
ö
ø
x

によって一意的に定まるので、合成系の温度は両系共通の温度 T = T ' と等しいこともわかります。

 以上の事実から、等温という関係“ =T ”に対して次の法則が成り立つこともわかります:

(1-22a)  a =T a

(1-22b)  a =T b   Þ   b =T a

(1-22c)  a =T b ,  b =T g   Þ   a =T g

(1-22d)  a =T b   Þ   a+b =T a

 これらは、等温という関係が同値関係であること、等温な平衡状態の合成状態はもとの各平衡状態とも等温であることを意味しており、熱力学の第0法則とよばれることがあります。

 また、温度 T は、その定義式 (1-3) から明らかなように 0 にはなり得ませんが、この事実を熱力学の第3法則とよぶことがあります。ただし、T が負になる可能性は排除されていません。実際、特殊な環境のもとでは温度が負になることもあり得るのですが、本稿では温度は常に正であるという主張を第3法則の中に含めることにします。

 さてここで、温度の異なる2つの平衡状態を接触させた場合の熱流の向きについて調べてみましょう。

 一般に、2つの状態曲線 s(x(t), λ(t))s'(x'(t), λ'(t)) (a£t£b) に対し、前者が tt+dt の間に吸収する熱を d'Q 、後者が tt+dt の間に吸収する熱を d'Q' 、これらの合成曲線が tt+dt の間に吸収する熱を d'Q" とすれば、

(1-23a)  d'Q = U(s(x(t), λ(t+dt))) - U(s(x(t), λ(t)))

(1-23b)  d'Q' = U(s'(x'(t), λ'(t+dt))) - U(s(x'(t), λ'(t)))

(1-23c)  d'Q" = U(s(x(t), λ(t+dt))+s'(x'(t), λ'(t+dt))) - U(s(x(t), λ(t))+s'(x'(t), λ'(t)))

 ここで内部エネルギーの加法性 (U) を使うと

(1-24)  d'Q" = d'Q + d'Q'

が成り立ちます。
 さて、2つの平衡状態 ai ( i=1,2 ) の温度を Ti とし、1/T1 の方が大きい、すなわち

(1-25)   1 
—–
T1
>  1 
—–
T2

と仮定します。このとき、a1+a2 を始点とする合成系の断熱過程において、ai に流入する熱を d'Qi とします。すると、合成状態の過程は断熱過程なので、(1-24)(E) により

(1-26)  d'Q1 + d'Q2 = 0

 また、それぞれに対する (1-5) を書き下せば、

(1-27)  d'Qi = TidSi      ( i=1, 2 )

 ただし Si は系 ai のエントロピーです。一方、エントロピーの加法性 (S) と増大則 (I) により

(1-28)  dS1 + dS2 ³ 0

 ゆえに (1-27)dSi について解いて (1-28) に代入し、(1-26) によって d'Q2 を消去すれば、

(1-29)  0 £ d'Q1
——
T1
+ d'Q2
——
T2
= æ
è
1 
—–
T1
- 1 
—–
T2
ö
ø
d'Q1 

 ゆえに (1-25) により

(1-30a)  d'Q1 ³ 0

が得られ、これと (1-26) により

(1-30b)  d'Q2 £ 0

が得られます。つまり、温度の異なる2つの平衡状態を接触させると、熱は温度の逆数が小さい方から大きい方へ流れることがわかります。特に両者の温度が正の場合を考えると、熱は温度の高い方から低い方へ流れるという経験則に合致します。

 次に、上記の性質に逆らって、温度の逆数が大きい方から熱を奪う冷却装置 c を考えます(ただし、装置 c 自体の持つ内部エネルギーやエントロピーは無視します)。c が受け取る熱を d'Qc になされる仕事を d'W とすれば、c の内部エネルギーは無視しますから、(T) により

(1-31)  d'W + d'Q = dU = 0

 また、a1+a2+c が断熱変化することから、(1-26) のかわりに

(1-32)  d'Q1 + d'Q2 + d'Q = 0

が成り立ちます。(1-31)(1-32) から

(1-33)  d'W = d'Q1 + d'Q2

が得られます。また (1-25),(1-27) はこの場合でも成り立ちますが、c のエントロピーを無視しているので (1-28) もそのまま成り立ちます。
 さて、冷却装置 c は、a1 から熱を奪うので、

(1-34)  d'Q1 < 0

 ゆえにこれと (1-25) により

(1-35)  d'Q1
——
T1
< d'Q1
——
T2

が成り立ちます。ゆえに (1-27)dSi について解いて (1-28) に代入し、(1-35),(1-33) を使えば、

(1-36)  0 £ dS1 + dS2 = d'Q1
——
T1
+ d'Q2
——
T2
< d'Q1 + d'Q2
—————
T2
= d'W 
——
T2

 すなわち、逆数が小さい方の温度が正(負)の場合、熱の自然な流れの向きに逆らって温度の逆数の大きい方から熱を奪うためには、外部から(へ)正の仕事をしなければならないことがわかります。

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