熱・統計力学


2.熱力学的諸関数

 本節では平衡状態を考察の対象とし、熱力学的諸関数を定義して相互の関連を調べます。
 平衡状態 s(x, λx, U) は、xU を与えれば一意的に定まりますから、平衡状態を定める自由度は、操作可能な変数 x の次元 +1 となります。
 本節では、操作可能な変数として、系の体積 V と系を構成している物質の粒子数 N をとり(したがって自由度は 2 + 1 = 3 )、V に共役な力の符号を変えたものを圧力とよんで P と書き、N に共役な力を化学ポテンシャルとよんで m で表わします。したがって、第0節の (W)

(2-1)  d'W = - PdV + mdN

という形になります。これと (1-5)(T) に代入すると、

(2-2)  dU = TdS - PdV + mdN

という関係式が得られます。ここで、自由エネルギー Fエンタルピー Hギップス・エネルギー G とよばれる状態変数を、それぞれ

(2-3)  F = U - T S

(2-4)  H = U + PV

(2-5)  G = U - T S + PV = F + PV = H - T S

で定義します。(2-3) を微分すると、

(2-6)  dF = dU - TdS - SdT

ですから、特に等温変化、すなわち dT = 0 であるような変化のもとでは

(2-7)  dF = dU - TdS = dU - d'Q = d'W

となり、F は仕事に対するポテンシャルのように振舞います。

 一般の場合は、(2-6)(2-2) により、次の関係式が成り立ちます。

(2-8)  dF = - PdV - SdT + mdN

 次に、(2-4) を微分すると、

(2-9)  dH = dU + PdV + VdP

ですから、特に等圧変化、すなわち dP = 0 であるような変化のもとでは

(2-10)  dH = dU + PdV = dU - d'W = d'Q

となり、H は熱に対するポテンシャルのように振舞います。

 一般の場合は、(2-9)(2-2) により、次の関係式が得られます。

(2-11)  dH = VdP + TdS + mdN

 また、(2-5) を微分すると、

(2-12)  dG = dU - TdS - SdT + PdV + VdP

 これと (2-2) により、次の関係式が得られます。

(2-13)  dG = VdP - SdT + mdN

 さて、(2-2) から次の公式が得られます。

(2-14a)  T = æ
è
U
—–
S
ö
ø
V,N

(2-14b)  P = - æ
è
U
—–
V
ö
ø
S,N

(2-14c)  m = æ
è
U
—–
N
ö
ø
S,V

 ここで偏微分記号に添字を付けていますが、これは、偏微分記号の分子に出てくる変数を、分母に出てくる変数と添字に出てくる変数の関数とみなして偏微分したものを意味します。
 同様に (2-8),(2-11),(2-13) から次の公式が得られます。

(2-15a)  P = - æ
è
F
—–
V
ö
ø
T,N

(2-15b)  S = - æ
è
F
—–
T
ö
ø
V,N

(2-15c)  m = æ
è
F
—–
N
ö
ø
T,V

(2-16a)  V = æ
è
H
—–
P
ö
ø
S,N

(2-16b)  T = æ
è
H
—–
S
ö
ø
P,N

(2-16c)  m = æ
è
H
—–
N
ö
ø
S,P

(2-17a)  V = æ
è
G
—–
P
ö
ø
T,N

(2-17b)  S = - æ
è
G
—–
T
ö
ø
P,N

(2-17c)  m = æ
è
G
—–
N
ö
ø
T,P

 さて、一般に

(2-18)  dz = udx + vdy

という関係があったとすると、

(2-19a)  u = æ
è
 ¶z
—–
 ¶
x
ö
ø
y

(2-19b)  v = æ
è
 ¶z
—–
 ¶
y
ö
ø
x

ですから、

(2-20)  æ
è
 ¶u
—–
 ¶
y
ö
ø
x = z
——–
x
y
= æ
è
 ¶v
—–
 ¶
x
ö
ø
y

 一方、(2-18) を変形すると、

(2-21)  d(z - ux) = - xdu + vdy

となるので、(2-20) と同様に

(2-22)  - æ
è
 ¶x
—–
 ¶
y
ö
ø
u = æ
è
 ¶v
—–
 ¶
u
ö
ø
y

が得られ、(2-18)

(2-23)  d(z - vy) = udx - ydv

と変形すれば、同様に

(2-24)  æ
è
 ¶u
—–
 ¶
v
ö
ø
x = - æ
è
 ¶y
—–
 ¶
x
ö
ø
v

が得られ、(2-18)

(2-25)  d(z - ux - vy) = - xdu - ydv

と変形すれば、同様に

(2-26)  æ
è
 ¶x
—–
 ¶
v
ö
ø
u = æ
è
 ¶y
—–
 ¶
u
ö
ø
v

が得られます。(2-20),(2-22),(2-24),(2-26) は、Maxwellの関係式と呼ばれているもので、具体的に N を固定した場合の (2-2) に適用すれば、次の結果が得られます:

(2-27a)  æ
è
P
—–
S
ö
ø
V,N = - æ
è
T
—–
V
ö
ø
S,N

(2-27b)  æ
è
V
—–
S
ö
ø
P,N = æ
è
T
—–
P
ö
ø
S,N

(2-27c)  æ
è
P
—–
T
ö
ø
V,N = - æ
è
S
—–
V
ö
ø
T,N

(2-27d)  æ
è
V
—–
T
ö
ø
P,N = æ
è
S
—–
P
ö
ø
T,N

 さて、次に一般的な公式を導いておきましょう。(2-18) を変形すると、

(2-28)  dx = 1
—–
 u
dz -  v
—–
 u
dy

ですから、

(2-29)  1
—–
 u
= æ
è
 ¶x
—–
 ¶
z
ö
ø
y

 これと (2-19a) により、

(2-30)  æ
è
 ¶z
—–
 ¶
x
ö
ø
y æ
è
 ¶x
—–
 ¶
z
ö
ø
y = 1

という関係式が得られます。一方、(2-28) により、

(2-31)   v
—–
 u
= - æ
è
 ¶x
—–
 ¶
y
ö
ø
z

が成り立ち、(2-18) はまた、

(2-32)  dy = 1
—–
 v
dz -  u
—–
 v
dx

と変形されますから、

(2-33)  1
—–
 v
= æ
è
 ¶y
—–
 ¶
z
ö
ø
x

が得られます。(2-31),(2-33),(2-19a) を辺々乗じると、

(2-34)  æ
è
 ¶x
—–
 ¶
y
ö
ø
z æ
è
 ¶y
—–
 ¶
z
ö
ø
x æ
è
 ¶z
—–
 ¶
x
ö
ø
y = - 1

という関係式が得られます。

 さて、ここで系の合成について考えてみましょう。本節で考察している系の合成系の場合、操作可能変数はそれぞれの系の体積粒子数なわけですが、ここで操作可能な変数の体系を変更して、両系の体積の和粒子数の和のみを新しい操作可能変数にとり、この変数体系変更後の合成系が平衡状態になっているための条件を求めてみましょう。
 まず、(2-2) を一般に

(2-35)  dUi = TidSi + åj Xjidxji     ( i = 1, 2 )

と表わします。ただし、添字 i は合成される系の番号です。また、変数 UiSixji については、対応する変更後の系の変数を USxj と書けば、内部エネルギー、エントロピーの加法性と、上記の定義により

(2-36a)  U = U1 + U2

(2-36b)  S = S1 + S2

(2-36c)  xj = xj1 + xj2

となっています。ここで変数体系変更後の合成系に対してエントロピー最大の原理を適用すると、dU = 0dxj = 0 の条件下で dS = 0 となっていることが平衡状態であるための条件ですから、(2-35)Ti で割って移項してから i について和をとれば、

(2-37)  0 = dS = dS1 + dS2 = dU1
——
T
1
+ dU2
——
T
2
- åj æ
è
Xj1
——
T
1
dxj1 + Xj2
——
T
2
dxj2  ö
ø
= æ
è
 1 
—–
T1
-  1 
—–
T2
ö
ø
dU1 - åj æ
è
Xj1
——
T
1
- Xj2
——
T
2
ö
ø
dxj1 

 ただし途中の変形で (2-36) の微分をとったものを使いました。ここで dU1dxj1 は任意に取れるので、それらの係数は 0 、すなわち

(2-38a)  T1 = T2

(2-38b)  Xj1 = Xj2

という条件が得られます。これを (2-35) に代入して i について加えれば、

(2-39)  dU = T1dS + åj Xj1dxj

となり、これは変数体系変換後の合成系の T(2-38a) の両辺に等しく、Xj(2-38b) の両辺に等しいことを意味しています。

 USxj のように、上記のような変数体系変更後の変数が、変更前の各変数の和になるような状態変数のことを示量変数とよび、TXj のように、変更後の変数が、変更前の各変数と等しくなるような状態変数のことを示強変数とよびます。
 VN は示量変数、Pm は示強変数ですが、明らかに示量変数と示強変数の積は示量変数ですから、(2-3)(2-5) により FHG は示量変数です。

 さて、以上の考察を利用して、G をより簡単な形に変形してみましょう。系の自由度は 3 ですから、U を示量変数の関数 U = U(S, V, N) として表わすことができます。示量変数の加法性により、任意の l > 0 に対し

(2-40)  U(lS, lV, lN) = lU(S, V, N)

が成り立ちます。そこで (2-40) の両辺を l で微分して l = 1 と置き、(2-14) を用いると、

(2-41)  T S - PV + mN = U

 これを (2-5) と比較すると、

(2-42)  G = mN

が得られます。これをGibbs-Duhemの関係式とよびます。

 この節の最後に、自由エネルギーから内部エネルギーを求める式を導いておきましょう。(2-3)T で割ると、

(2-43)  F
—–
T
= U
—–
T
- S

 よって

(2-44)  d æ
è
F
—–
T
ö
ø
= TdU - UdT
—————–
T
²
- dS = dU - TdS
————–
T
- U
—–
 T
²
dT = - PdV + mdN
—————–
T
- U
—–
 T
²
dT

 ただし最後の変形で (2-2) を使いました。これから

(2-45)  U = - T ² ì
í
î

—–
T
æ
è
F
—–
T
ö
ø
ü
ý
þ
V,N

が得られます。これをGibbs-Helmholzの関係式といいます。

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