熱・統計力学


4.第2法則の古典的導出

 前節の最後に導いたKelvinの原理にはエントロピーの概念が含まれていません。そこで第2法則ではなく、このKelvinの原理を理論の基礎において、逆に第2法則を導出しようという考え方があります。これがいわゆる伝統的な熱力学の理論です。

 さて、熱力学では、第0節の諸仮定の中から第2法則を除いたものと、第1節で解説した第0法則に加え、更に次の2つの補助的な仮定:

【仮定A  系 s の平衡状態 a と、ある系の平衡状態 g が任意に与えられたとき、g と等温な s の平衡状態 b と断熱準静過程 aèb が存在する。

【仮定B  系 s とその操作可能な変数の値 x 、及びある系の平衡状態 a が任意に与えられたとき、操作可能な変数の値が xa と等温な s の平衡状態 b が唯一つ存在する。

を前提にします。これらの仮定をいちいち列挙するのは面倒ですから、これらをまとめて熱力学の仮定とよぶことにしましょう。
 本節では、熱力学の仮定の元で、Kelvinの原理から第2法則と第3法則が導かれることを証明します。ただし、エントロピーの存在は、平衡状態、あるいはそれを有限個合成した状態に対してのみ示されるという限定条件が付きます。

 さて、仮定Bは、同じ系の等温な平衡状態 bg が与えられたとき、bg を結ぶ等温準静過程の存在を意味します。実際、b = s(x1, λ1) 及び g = s(x2, λ2) と表わして、x1x2 を結ぶ曲線 x(t) (a£t£b) を取ると、仮定Bにより、各 t に対し、s(x(t), λ(t)) =T b となるような λ(t) が唯一つ存在し、s(x(t), λ(t)) (a£t£b)bg に繋ぐ等温準静過程になります。
 ゆえに、系 s の2つの平衡状態 ag が任意に与えられたとき、仮定Aにより、g と等温な平衡状態 b と断熱準静過程 aèb が存在しますが、更に等温準静過程 bðg が存在することがわかります。ag の役割を入れ替えれば、平衡状態 d と準静過程 gèddða が存在するので、結局可逆Carnotサイクル aèbðgèdða が存在することがわかります。

 C を任意のサイクルとします。(T) により d'Q = dU - d'W であり、dU のサイクル C に沿っての積分は 0 ですから、Kelvinの原理 (3-23) により

(4-1)  Q(C) £ 0

が成り立ちます。もし C が可逆なら、C の逆サイクルについても同じ不等号が成り立つので、

(4-2)  Q(C) = 0

 さらに C が等温過程 C' と断熱過程 C" から成るならば、Q(C") = 0 ですから

(4-3)  Q(C') = 0

が得られます。特に C が等温準静サイクルなら、C = C' ですから、等温な2つの平衡状態 ab が与えられたときに、これらを結ぶ等温準静過程 aðb で吸収される熱 Q(aðb) は、その両端の状態 ab のみに依存し、それらを結ぶ過程の取り方に依存しないことがわかります。そこで、これを今後は Q(a;b) とも書くことにします。等温準静過程に対し、明らかに

(4-4a)  Q(a;a) = 0

(4-4b)  Q(a;b) + Q(b;g) = Q(a;g)

(4-4c)  Q(a;b) = - Q(b;a)

(4-4d)  Q(a+a';b+b') = Q(a;b) + Q(a';b')

が成り立ちます。

 さて、以上の準備のもとで、Kelvinの原理からCarnotの定理が導かれることを証明しますが、かなり長くなるので、いくつかのステップに分けます。

STEP 1

 まず、(3-12) に関する主張のみ証明すればよいことに注意します。
 実際、(3-12) は証明されたとし、C と等価な(可逆とは限らない)Carnotサイクル a'èb'ðg'èd'ða' に対し、b,g =T b' と準静過程 b'ðba'èbbðggèd' をとります。a'èbðgèd'ða' は可逆Carnotサイクルですから、

(4-5)  R = Q(a';d')
———
Q(b;g)

が成り立ちます。一方、g'èd'ègðbðb'ðg' というサイクルを作り、これにKelvinの原理を適用すると、(4-1) により、

(4-6a)  0 ³ Q(g'èd'ègðbðb'ðg') = Q(g;b) + Q(b;b') + Q(b';g')

が成り立ちます。また、bèa'èb'ðb というサイクルを作り、これにKelvinの原理を適用すると、(4-1) により、

(4-6b)  0 ³ Q(bèa'èb'ðb) = Q(b';b)

が成り立つので、(4-6a),(4-6b),(4-4c) により、

(4-6c)  Q(b;g) = - Q(g;b) ³ Q(b;b') + Q(b';g') = - Q(b';b) + Q(b';g') ³ Q(b';g')

 ゆえに、これと (4-5)R > 0 により

(4-7)  Q(a';d') = R Q(b;g) ³ R Q(b';g')

となって (3-13) が得られます。

STEP 2

 次に、定理を準静Carnotサイクル、すなわち aèbgèd準静過程であるようなCarnotサイクルについて証明すればよいことに注意します。
 実際、仮定Aにより、平衡状態 b' =T b と準静過程 aèb'b'ðb が存在しますが、可逆サイクル b'ðbèaèb'(4-3) を適用すれば、Q(b';b) = 0 となり、

(4-8)  Q(b';g) = Q(b';b) + Q(b;g) = Q(b;g)

が得られます。同様に、d' =T d と準静過程 gèd'd'ðd が存在して Q(d;a) = Q(d';a) となります。
 b'ðbðgb'ðgd'ðdðad'ða と書けば、aèb'ðgèd'ðaC と等価な準静Carnotサイクルですから、仮定により

(4-9)  R = Q(a;d')
———
Q(b';g)
= Q(a;d)
———
Q(b;g)

となって一般の場合の定理が証明されます。

STEP 3

 次に、定理を bðg単調な準静Carnotサイクル(以下、単調Carnotサイクルとよびます)に対して証明すればよいことに注意します。
 実際、任意の準静Carnotサイクル C : aèbðgèdða に対し、bðgq(t) (a£t£b) と表わすと、前節定理6のあとの注意により、この部分と等温な等温単調過程 k(t) (c£t£d) と、分割 a = t0 < t1 < ¼ < tm = b 及びm個の関数 ti (i = 1, ¼, m) が存在して、合成曲線 q(t)+k(ti(t)) (ti-1£t£ti) が断熱準静過程になります。
 さて、仮定A,Bにより、a£t£b に対して m(t) =T a と準静過程 q(t)èm(t) , m(t)ða が存在し、c£t£d に対して n(t) =T a と準静過程 k(t)èn(t) , n(t)ða が存在します。ただし

(4-10a)  q(t0) = q(a) = b

(4-10b)  q(tm) = q(b) = g

ですから

(4-11a)  m(t0) = a

(4-11b)  m(tm) = d

にとっておきます。そこで a£s,t£b に対して m(s)ðaðm(t)m(s)ðm(t) と書き、n(s)ðaðn(t)n(s)ðn(t) と書けば、n(s)èk(s)ðk(t)èn(t)ðn(s) は単調Carnotサイクルですから、仮定により

(4-12)  Q(n(s);n(t))
—————
Q(k(s);k(t))
= R

が成り立ちます。ここで2つの準静サイクル m(ti-1)ðm(ti)èq(ti)ðq(ti-1)èm(ti-1)n(ti(ti-1))ðn(ti(ti))èk(ti(ti))ðk(ti(ti-1))èn(ti(ti-1)) を合成したサイクルを考えます。
 まず、前節定理4により、断熱準静過程の部分を合成したものは断熱可逆過程ですが、さらに q(t)+k(ti(t)) (ti-1£t£ti) が断熱過程になることから、3番目の矢印同士を合成したものは断熱準静過程になります。
 すなわちこれらを合成したものは、m(ti-1)+n(ti(ti-1))ðm(ti)+n(ti(ti))èq(ti)+k(ti(ti))èq(ti-1)+k(ti(ti-1))èm(ti-1)+n(ti(ti-1)) という最初の矢印が等温準静過程であるような可逆サイクルになります。そこでこのサイクルに (4-3) を適用し、(4-4d) によって変形すれば、

(4-13)  0 = Q(m(ti-1)+n(ti(ti-1))ðm(ti)+n(ti(ti))) = Q(m(ti-1);m(ti)) + Q(n(ti(ti-1));n(ti(ti)))

が得られ、合成サイクルの3番目の断熱過程についても、(1-24) により

(4-14)  0 = Q(q(ti-1)+k(ti(ti-1))èq(ti)+k(ti(ti))) = Q(q(ti-1);q(ti)) + Q(k(ti(ti-1));k(ti(ti)))

となるので、(4-12)~(4-14) により

(4-15)  Q(m(ti-1);m(ti)) = R Q(q(ti-1);q(ti))

が得られます。これを i について 1 から m まで加えて (4-4b) を繰り返し用いれば、(4-10),(4-11) により

(4-16)  Q(a;d) = Q(m(t0);m(tm)) = R Q(q(t0);q(tm)) = R Q(b;g)

となり、一般の準静Carnotサイクルに対する証明が得られます。

STEP 4

 次に、2つの単調Carnotサイクル aèbðgèdða , a'èb'ðg'èd'ða' に対し、

(4-17)  Q(b;g) = Q(b';g')   Þ   Q(a;d) = Q(a';d')

が成り立つことを証明しましょう。左辺の値を q と書き、bðgm(t) (a£t£b)b'ðg'n(t) (a'£t£b') と表わし、

(4-18a)  f(t) º Q(m(a);m(t))

(4-18b)  g(t) º Q(n(a');n(t))

と置けば、f , g は共に単調な関数で、f(a) = g(a') = 0 , f(b) = g(b') = q となります。そこで、関数 t

(4-19)  t(t) º g-1(q - f(t))

で定義すれば、t(a) = b' , t(b) = a' が成り立つので、等温準静過程 n(t(t)) (a£t£b)g'ðtb' と表わせば、これと bðg の合成過程に対する d'Q

(4-20)  d'Q = dg(t(t)) + df(t) = d(q - f(t)) + df(t) = 0

となり、前節定理1により、これは断熱過程になることがわかります。
 ゆえに2つのCarnotサイクル d'èg'ðtb'èa'ðd'aèbðgèdða の合成サイクルを考えると d'+aèg'+bètb'+gèa'+dðd'+a となりますから、この準静サイクルに (4-3) を適用し、(4-4d) により変形すれば、

(4-21)  0 = Q(a'+dðd'+a) = Q(a';d') + Q(d;a) = Q(a';d') - Q(a;d)

となって (4-17) は証明されました。

STEP 5

 前STEPにより、q = Q(b;g) の値が共通の単調Carnotサイクルについては、(3-12) の右辺が共通の値 Rq をとることがわかりました。あとは Rqq によらない正数であることを示せば証明が完成します。正値性は次のSTEPにまわし、まず Rqq によらないことを証明しましょう。

 単調Carnotサイクル aèbðgèdða に対し、bðgm(t) (a£t£b) と表わしたとき、任意の正整数 m に対し、分割 a = t0 < t1 < ¼ < tm = b で、

(4-22)  Q(m(ti-1);m(ti)) = Q(b;g)
———
m
= q
—–
m
      ( i = 1, ¼, m )

を満たすものが存在し、また仮定A,Bにより、各 i に対して ni =T a と準静過程 m(ti)èni , niða が存在します。ただし n0 = a , nm = d にとっておきます。niðaðni-1niðni-1 と書けば、ni-1èm(ti-1)ðm(ti)èniðni-1 は単調Carnotサイクルなので、(4-22) と前STEPの結果により

(4-23)  Q(n0;n1) = Q(n1;n2) = ¼ = Q(nm-1;nm)

が得られます。ところが (4-23)m項をすべて加えたものは、(4-4b) により Q(n0;nm) = Q(a;d) に等しく、これはまた RqQ(b;g) = Rqq に一致するので、

(4-24)  Q(ni-1;ni) =  qRq
——
 m 

となることがわかります。nm より小さい任意の正整数とし、(4-22)(4-24)i について 1 から n まで加え、(4-4b) を用いると、

(4-25)  Q(m(t0);m(tn)) =  nq
—–
m

(4-26)  Q(n0;nn) =  nqRq
——–
 m 

となりますが、n0èm(t0)ðm(tn)ènnðn0 は単調Carnotサイクルですから、(4-25),(4-26) により

(4-27)  Rnq/m = Q(n0;nn)
—————–
Q(m(t0);m(tn))
= Rq

となり、(Rqq に関する連続性を仮定すれば)、0q の間の任意の実数 r に対して Rr = Rq であることがわかります。また逆Carnotサイクルを考えれば R-r = Rr は明らかです。これらにより、Rqq に依存しないことがわかります。

STEP 6

 最後に R > 0 を帰謬法で証明しましょう。

 まず R = 0 と仮定すると、これは a と等温な準静等温過程 C はすべて Q(C) = 0 となるということですから、特に dða は、曲線に沿った無限小変化に対して d'Q = 0 となるので、前節の定理1により断熱過程です。ゆえにサイクル bðgèdèaèb に対して (4-3) を適用すれば、Q(b;g) = 0 となって仮定に反します。

 次に R < 0 と仮定します。gèdk(t) (a£t£b) と表わし、平衡状態 q(t) と準静過程 k(t)ðq(t) , q(t)èb をとり、

(4-28)  f(t) º Q(q(t);k(t))      ( a £ t £ b )

と置くと、k(a) = gk(b) = d に注意し、可逆サイクル bðgðq(a)èbaðdðq(b)èbèa(4-3) を適用すれば、

(4-29a)  0 = Q(bðgðq(a)) = Q(b;g) + Q(k(a);q(a)) = Q(b;g) - f(a)

(4-29b)  0 = Q(aðdðq(b)) = Q(a;d) + Q(k(b);q(b)) = Q(a;d) - f(b)

となります。f(a) ¹ 0 ですから、R £ 0 により f(a) f(b) = Q(b;g)Q(a;d) £ 0 となるので、中間値の定理により f(t') = 0 となる t' が存在します。すると、可逆Carnotサイクル q(t')èbðgèk(t')ðq(t') に対して

(4-30)  Q(q(t');k(t'))
—————–
Q(b;g)
= f(t')
———
Q(b;g)
= 0

となって、このサイクルの R0 になり、やはり矛盾します。

 以上でKelvinの原理からCarnotの定理を導く証明は完成しました。

 最後に、Carnotの定理から(エントロピーの存在を平衡状態の場合に限定した)第2法則と第3法則を導きます。

 まず基準となる平衡状態 a を任意に選んで固定します。平衡状態 g を任意に取ると、可逆Carnotサイクル C : aèbðgèdða が存在します。このとき Q(b;g)Q(a;d) は可逆Carnotサイクルの取り方に依存せず、g のみで決まります。
 実際、aèb'ðgèd'ðaag を通る別の可逆Carnotサイクルとすると、aèb'ðgèdðaC と等価な可逆Carnotサイクルですから、Carnotの定理により

(4-31)  Q(a;d)
———
Q(b;g)
= Q(a;d)
———–
Q(b';g)

となるので Q(b;g) = Q(b';g) がわかり、可逆Carnotサイクル aèbðgèd'ða を考えれば Q(a;d) = Q(a;d') がわかります。

 さて、すべての平衡状態に対してエントロピー S が存在したとすると、

(4-32)  dS = 0   on  aèb , dèg

が成り立ちます。また(1-12) 直後の括弧の中の注意により、温度が一意的に定義できますが、a における温度を To とすれば、dða の温度は To ですから、(1-5) により

(4-33)  d'Q = TodS   on  aðd

が成り立ちます。したがって、ag におけるエントロピーをそれぞれ SoS(g) と書けば、(4-32),(4-33) により

(4-34)  S(g) - So = ò
dS
aðdèg  
= ò
dS
aðd  
+ ò
dS
dèg  
=  1 
—–
 To
ò
d'Q
aðd  
=  Q(a;d) 
———
To

となるので、

(4-35)  S(g) =  Q(a;d) 
———
To
+ So

が成り立っていなければなりません。これから特に、平衡状態に対するエントロピーは、定数倍と定数差を除いて一意的に定まることがわかります。

 次に平衡状態に対するエントロピーの存在と第3法則を示すため、逆に (4-35)g における S を定義し、定数 SoTo を適当に定めれば、S がエントロピーの条件 (S),(I) を満たしていることを確かめます。
 まず2つの系 ss' に対し、それぞれの可逆Carnotサイクル aèbðgèdðaa'èb'ðg'èd'ða' を合成したCarnotサイクルを考えると、(4-4d) により

(4-36)  Q(a+a';d+d') = Q(a;d) + Q(a';d')

が成り立つので、基準点 aa' および合成系の基準点 a+a' では So = 0 とし、To を共通の値に取っておけば、(4-35) により、エントロピーの加法性 (S) が得られます。

 ゆえに、あとは (I) と温度の正値性が成り立つことを示せば十分です。
 g £ g' であるような任意の平衡状態の組を取ると、gèg' が存在します。また平衡状態 d' と準静過程 g'èd' , d'ða をとり、gèg'èd'gèd' と略記すると、aèbðgèd'ðaCarnotサイクルになります。したがって、Carnotの定理により

(4-37)  R Q(b;g) £ Q(a;d')

が成り立ち、R(3-12) を代入すれば、

(4-38)  Q(a;d) £ Q(a;d')

となります。平常状態 b' と準静過程 aèb' , b'ðg' が存在しますから、aèb'ðg'èd'ða は可逆Carnotサイクルになるので、To として正の値を選んでおけば(4-38) の両辺を To で割ることにより、エントロピーの定義式 (4-35) により、

(4-39)  S(g) £ S(g')

が得られ、(I) が証明されます。また、(4-35) の右辺に (3-12) を代入すると、

(4-40)  S(g) =  R 
—–
T
o
Q(b;g) + So

 ここで g に対する等温準静変化をとれば、

(4-41)  dS =  R 
—–
T
o
d'Q

となるので、これと (1-5) を比較すれば、

(4-42)  T = To
—–
 R 

が得られるので温度の正値性が得られ、熱力学の仮定のもとでCarnotの定理から第2法則と第3法則が導かれることがわかりました。

 前節と本節の結果を合わせると、熱力学の仮定のもとでは、Kelvinの原理Carnotの定理、(エントロピーの存在を平衡状態の場合に限定した)第2法則+第3法則はすべて同値であることがわかります。

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