慈しみと訓練と

親は、子どもが塾に行き始め、目の前にいないと、効率よく勉強しているものと思いたいものです。塾に行かせれば、いずれ子どもの成績は伸びるものと期待します。
 
私もその一人でした。6年生の夏休みの塾の講習は、お盆休み以外はほとんど毎日授業という大変厳しいスケジュールでした。しかし、「夏休みが天王山」とも言われますし、志望校別の授業も魅力がありましたので、息子には全てを受講させる予定でした。

ところが、夏期講習の半ば、息子が私のそばに静かに寄ってきて、「お母さん・・。僕・・、塾に行きたくない。休みたい・・・」と言い出しました。今までこのようなことは一度も言ったことありません。しかし、このときは確かに疲れている様子でしたし、宿題に追われて弱点補強の時間がとれず、消化不良気味でもありました。不安ではありましたが、思い切って講習を休ませることにしました。
 そして、気分転換をかねて、家族でキャンプに行くことにしたのです。テントを張り、飯ごうでご飯を炊き、おかずは釣った魚という典型的な野外キャンプです。娘は木陰のハンモックで読書三昧、息子は意外なことに、「お父さんに教えてもらう」と「算数ドジノート」(ミスした問題を貼り付けてファイリングしたもの。理解したものはそこからはずしていくことにしていました)を持参していました。ランタンの下での勉強です。振り返えると最後の家族キャンプでした。今となっては良い思い出です。

受験を意識して学習訓練をするようになると、敷かれたレールから少しでも外れないようにと考えがちです。そして、親は「頑張ってね」と声をかけてしまいます。子どもたちはそのことばを受けて、「頑張って」親の期待に応えようとします。でも、なかなか思うようにはいきません。次第に歯車が狂い始めます。受験目的の「訓練」に親がのめりこむと、こうして、子どもの心を見失ってしまうこともあります。  
  一方、子どもたちの巣立ちの訓練でもあるこの時期は、親が子どもを十分に慈しむことができる最後のときでもあります。 巣立つ前の小鳥たちは、親鳥から羽ばたく訓練を受けます。しかし、力強く飛んで餌を自分でとれるようになるまでは、必ず巣に戻って親に餌をもらい、親鳥の羽の下にもぐりこんで休みます。
 生意気になってきた子どもたちも、まだ生まれてから10年〜12年しか経っていません。一匙一匙、子どもの様子に合わせて段階を上げた離乳食、手をつないでゆっくり付き添った歩き始めの時期、なつかしいときを思い出して、「慈しみ育むこと」と「鍛えて育てること」のバランスをとりながら、受験準備の日々をお過ごしください。
 中学入学後は子どもたちは、温かいぬくもりのある巣から自分で飛び立とうとしていきます。

             読売ウイークリー カリスマ講師の教え第16 2007.8.19, 8.26