中学受験 国語 「読解トレーニング」 ご質問の回答として 2005年8月
夏休み前にはHPを更新するつもりでおりましたが、この1ヶ月体調を崩し、遅くなりました。
セミナー、研究会、あるいはHPの相談メールにいただいた多くのご相談の中から、今回は
「読解トレーニング」について述べてまいります。
5年生になったとたんに国語の点数が下がったというご相談を多くいただいております。6年生になるとこのご相談内容は、国語が足を引っ張るという言い方に変化していきます。その原因の多くは、本文を読み通すことをせずに、本文の傍線の前後だけを読んで答えを探していることにあります。4年生の段階では読解文章は短いものが多く、設問を読んで本文の傍線の前後を探せば答えられます。本文をほとんど読まなくても、器用なお子さんならばそこそこの点数がとれてしまいます。ところが、5年生になり急に長文になると、今までのそのやり方では通用しなくなり、点数が下がるということになるようです。そして、その原因を追究することなく、混乱のまま6年生まできてしまい、国語が足を引っ張るということになっているようです。このことを考えますと、長文の読解に入る前の段階で、つまり、塾やご家庭で読解問題をなさるなるべく早い段階で、丁寧な「読解トレーニング」を指導する必要があるということを強く感じます。
読解は、読書とは違い自由気ままに読んで良いものではありません。それならば、矯正しにくい習慣がつく前に、読解は読解として正しくトレーニングをして、文章を正確に読みとれるようにしたほうが良いと判断いたしました。(今までは、読解訓練は4年生の後半か、5年生になってからでよいと考えておりました。)
多くの子ども達とトレーニングをしてまいりましたが、受験後、明らかに本の読み方が変わり、読書が好き、国語が好きになったお子さんが多いことが事実としてあります。また、中学受験時の正しい読解訓練は、特に中学入学後の本の精読時に大変有効であることも明らかです。
このトレーニングはプロの指導ではなく、ご家庭でも充分できます。両者の大きな違いは、
「どこまで辛抱できるか」です。どうぞ辛抱して、親子でコツコツと丁寧にトレーニングをなさって下さい。
今回は今までも述べてまいりましたことを三段階に分けました。書き加えたものもあります。
「読解トレーニング」第一段階 〔読解問題の訓練をしようと思った日から〕
・親子で取り組みます。
・どんなに易しい問題でも、指導する前には必ず予習をなさって下さい。
・短めの問題を選んで、親子でじっくり取り組んでください。
◎ 文章の読み方――音読しながら目と手で読む――
物語文的文章
@場面分けの部分に「印つけ」をします。 時、場所の変化したところです。
A気持ちを表す言葉に「印つけ」をし、余白に気持ち言葉をメモしておきます。嬉しい気
持ち、楽しい気持ちには+を悲しい気持ちつらい気持ちには−を書き込むだけでも良い
です。
B気持ちの変化の原因となる出来事を□でかこむか、余白に大きく丸をつけてはっきり
させておきます。
説明的文章
@繰り返し出てくる言葉に薄く丸をつけておきます。それがその段落の話題となります。
「段落」とは一つの話題のまとまりがですから、繰り返し出てくる言葉が変化したとこ
ろが、段落分けとなります。〔話題が変わったということになります。〕
A段落ごとの要点に「印つけ」をします。要点とは、その段落の話題が「どうした」、
「どうである」と述べているところです。(要点はすぐにはつかめないのですが、読み分
けをしていくうちに要領がわかるようになります。それまでは教えてあげてください。)
Bつなぎ言葉を○で囲みます
C「つまり」、「ようするに」を○で囲み、それに続くまとめの文章に「印つけ」をしま
す。
Dとらえにくい指示語は、当てはまる語句、文章に→をつけ、はっきりさせておきます。
以上のことを、本文を音読しながらさせてください。
これが、「音読しながら目と手で読む読解トレーニング」の第一段階です。
・初めての読解訓練ですから、時間をかけて本文を丁寧に読み通し、内容を話し合って充分
に確認してから設問へと進みます。解答に結びつくような話し合いを心がけて下さい。何に
ついて書かれているのかを確認してから解答へと進みます。
◎ 問題への取り組み方
@本文を、以上のようにして丁寧に読みます。
A設問を音読しながら、聞かれていることや、間違えやすい条件に「印つけ」をします。
B本文に戻りながら、設問を一つ一つ解いていきます。あいまいに答えるくせをつけさ
せないために、本文中の解答の根拠に印をつけます。
じっくりと時間をかけて「読解」の基礎を身につけてください。 時間がかかりますし、テストでは時間内にできないことが長く続きます。でも、あせらずになさってください。時間内にできる事務処理能力を高めるのではなく、丁寧に読み取る読解力と、文章を読み通す集中力を養うのですから時間がかかります。 そのどちらもが、子どもの成長に大きくかかわってきます。どうぞ辛抱してなさってください。
・物語文 気持ち言葉だけではなく、気持ちを間接的に表している言葉や文章(たとえ
ば「空が急に暗くなった・・」のような書き方が、感情と関係がある場合)
に「印つけ」をし、余白に気持ち言葉をメモしておきます。気持ち言葉がす
ぐに出てこないときには、+の気持ちか−の気持ちかを記すだけでも良いで
す。
・説明文 段落毎に何についての文章か(話題)、具体例、説明、問いかけ、意見、結
論と読み分けてそれを文章の上にメモ書きしておきます。
・随筆文 筆者の経験をもとに感想を述べているものは、物語文と同じ読み方です。
筆者の経験をもとに意見を述べているものは、説明文と同じ読み方です。
第一段階のものに加えて以上のことを、音読しながら手作業をさせてください。
☆ 設問への取り組み方 〔6年生の夏頃からは、設問から先に読みます〕
@設問に印つけをしながら音読します。何についてどのようなことが問われているのか、
また、適当なものを選ぶのか、適当ではないものを選ぶのか、抜き書きか文中の言葉を
使って書くのか、一文からか、部分からかというミスをしやすいポイントに印つけをし
てはっきりさせます。
A次に本文を前述のように音読しながら「印つけとメモ書き」をしながら読みます。
簡単にできる接続詞の問題は、自分なりのものを考えて(順接か、逆接か、並列か)穴
埋めをしておきます。 答えを書くことで、「読み」が途切れることを避けるため、こ
の段階では解答用紙には書かないこととします。指示語の示すものを→をつけてはっき
りさせておきます。
B一気に読み通してから解答を進めます。本文を読みながら、設問にちらちらと目をやる
答え探し読み」をさせないためと集中力をつけさせるために、一気に読み通す訓練をし
ます。
C選択肢問題は一つ一つ検証して、○、×、△を選択肢の文章の部分に(上の番号ではな
く)つけます。選択肢の文章が長い場合は、読点を境にして上下に分け、上の部分、下
の部分をそれぞれ本文と検証をし○、×、△をつけます。(○はあっているもの、×は
違っているもの、△ははっきりわからないものとします。)正しいとする根拠、間違っ
ている根拠をはっきりさせて、あて勘の癖をつけないようにします。
D抜き書きの問題はその部分に「 」をつけて字数をはっきりさせておきます。
E記述問題は、文中のことばを使うならば、そのことばに印しをつけておきます。
F答えを書くときに、頭の中だけで自分勝手に組み立てずに、必ず文章に戻ります。一読
の時につけておいた印がこのときに役に立ちます。つまり、必ず文中に根拠を求めると
いうことです。だいたいこんなものだろうというあいまいな答え方では読み取れたこと
にはなりません。
以上のように、6年生の夏頃から設問を先に把握してから本文を通して読むこととします。設問も本文も必ず「音読をしながら目と手」で読んでください。
設問から読むことについて
設問を先に読む目的は、設問を丁寧に読む習慣をつけるためと、本文の読みのポイントを知るためです。たとえば、主人公の気持ちの読み取りは、設問を知らなければあっさりと読んでしまいますが、設問を把握していれば、正確に気持ちの変化をとらえながら読み進むことができます。余白に気持ち言葉をメモしておけば余計わかりやすくなります。
また、説明的文章では、作者の考えを書くという設問を頭に入れておけば、意見の部分に印をつけてはっきりさせておくことができるので、文章理解もしやすくなります。
昨今の読解問題の長文化、あるいは、本文を通しての記述に12歳の子ども達が対応するには、「設問から読む」ほうが無理がないようです。正しく読む練習を身につけた6年生の夏頃からがよいでしょう。 2008・11・29追記
注意しなければならないことは、設問を先に読み、本文を読み通さずに傍線の前後だけを読んで解答するというやりかたを、絶対にさせないということです。特に4年生に多く見られます。短くて易しい問題ならばそのやりかたでも正解につながるのですが、5年生になり長文読解になったときには、それでは太刀打ちできません。まして、読み通すことで養われる集中力もつきませんし、もちろん全文を通しての理解もできません。ですからこのやり方をしている場合は早めに改めてください。
「印つけ」をすることについて
「印つけ」をする目的は、文章を先に先にと読み飛ばしをする習慣をやめさせ、どこに「印つけ」をすればよいのかという気持ちを持って文章に向かわせることにあります。つまり、今までよりも丁寧に読ませるということです。子ども達は目だけで読むと、自分の目に入ったところしか読まない傾向があります。「印つけ」をすることによって、もう一歩文章に集中させます。しかし、「印つけ」を正確にしなければと気負う必要はありません。「印つけ」をしなければと思いながら読むこと自体が、すでに今までよりも丁寧に読むことつながっているのです。その証拠に「印をつけながら読むと時間がかかって面倒くさい」と子どもたちは言います。その通りです。本来、文章、特に問題文を読むことは、時間がかかり面倒なものなのです。ですから、今までいかに読み飛ばしていたかがその言葉でわかります。
丁寧に読む習慣をつけるトレーニングですから時間がかかることは覚悟して取り組んでください。
一回30〜40分、一週間に3回練習をすれば、2〜3ヶ月で少しずつ効果が表れます。ご自分で問題の予習をして、親子での練習をなさって下さい。慣れるまでは解答に進む前に内容について良く話し合い、解答がしやすいようにと導いてください。
「読解トレーニング」の第三段階 6年生 実践 過去問への取り組み 2005年9月
・6年生の過去問に対しては、少しテクニックが必要です。
・6年生の夏休み後半あるいは秋から、志望校の過去問に取り組みます。
・本番に近い条件で、時間設定も正確にし、問題文はコピーし解答用紙は拡大コピーをしま
す。
・過去問に取り組むことが、「読解トレーニング」の仕上げになります。今まで培ってきた丁寧さと集
中力を充分に出し切って、制限時間内に解答を終えることを過去問で練習をします。
◎問題への取り組み方
@試験問題の全体を見る。制限時間時間を確認する。
A知識問題、漢字を先にやる
B設問に「印つけ」をしながら読む。この時に、すぐにできそうなものと、読み通して
から解くものの見極めをする。問題の番号に自分なりに印をつけておく。
C設問を頭に入れてから「印つけとメモ書き」をしながら本文を読む。(トレーニングの
時は集中力を高める訓練として全文を読み通すことをしてきたが、実践ではB・Dの
ように見極めをしながら解答をする。)
Dすぐに解答できるものは解答用紙に書き込む。そうではないものは全文を読み通して
から解答をする。(ここをはっきりとさせること)
E段落分けの問題は、繰り返し言葉に印をつけておくことで話題が浮き上がってくるの
で、読みながらできる。
F記述問題は、何について聞かれているのかを正確にとらえ、聞かれていることが書か
れている文章、段落に必ず戻り、自分の印つけを頼りに書くべきキーワードをとらえ
る。キーワードを一つ見つけて安心せずに、その前後をもう少し読み、確認をする。
G抜き書き問題は、書き写し間違いをしないように、本文中の抜き書きをする部分に
[ ]をつけてはっきりさせておく。
H選択肢問題は、本文に戻って根拠を確認し、一文ずつ○、△、× を文中につけるこ
と。選択肢の文章が長い場合には、読点を境に線を引いて上下に分け、本文の根拠と
なるところと検証をしてそれぞれに○、△、×をつけること。
※子ども達の選択肢問題でのミスのパターン
・ 選択問題の文章が、本文のどこかに書かれていることを述べている場合、その文章
自体が設問にそっていないにもかかわらず、飛びついて正答としてしまうこと
・ 選択問題の文章が、設問の部分とは違うことについての常識を書いている場合「常
識」に反応してそれに飛びついて選んでしまうこと
・ 選択問題の文章が設問にそっておりだいたい合っているが、厳密にはそこまでは言
っていないもの〔つまり、言い過ぎているもの〕を選んでしまうこと
・ 選択問題の文章を全文読まずに前半だけを読んで選んでしまうこと〔引っ掛け問題
に見事に引っかかる、大変多いパターン〕
☆注意点
過去問に取り組み、志望校の問題傾向をはっきりと知ると、子ども達の志望校への意識はかなり高くなります。一回目から時間通りにやり点数もつけますが、初めは45〜50%出来れば充分です。多くの子ども達が、思うほどにはできなかったという経験をします。何とか志望校の合格ラインに達するようにという必死な思いは子どもの集中力を高め、今まで大きな壁となっていた時間配分への意識をも変えます。自分の中に「集中力の新しい神経」のようなものを一本作っていきます。大人では考えられない現象が実際におきるのです。そして、どの子も最終的には、ほぼ時間内に解き終えるようになります。後半の2〜3ヶ月、(特に最後の1ヶ月)子ども達が発揮する不思議な力には毎年本当に感心いたします。
尚、国語という教科は模試の偏差値が最もあてにならならない教科です。過去問をご自分で解いて研究なさればおわかりになると思いますが、模試と入試は全く別物です。国語の入試問題には学校ごとに大きな特徴があるからです。ですから、それにあわせて今までのトレーニングで培った力を充分に発揮できるようにする必要があります。たとえば、開成中に代表される長文で記述式の問題が多い学校の場合は、全文を読み通してから解答する方法が適しています。しかし、女子学院中のように、記述問題が少なく、それほど長文ではないがそれぞれの設問数が大変多い学校の場合は、読みながらできる問題はどんどん答えていくというやり方の方が適しています。どちらも設問から読むことは「トレーニング」と同じです。文章を一気に読み通したことで培った丁寧さや集中力を充分に発揮できるように、それぞれの志望校に特化したやり方をすることに過去問を解く意義があります。
「読解トレーニング」の効果
丁寧に読む訓練を受けることなく、早い段階から、長文を短時間で解かなければならない状況に置かれている子ども達は、良い文章に触れているにもかかわらず、文字を記号のように読み飛ばしては答え探しをしています。 字数を確かめてはそれを解答用紙にあてはめていきます。このようなことをしていては何にもなりません。問題文として切り取られた文章であっても、選ばれた多くの文章は深い内容のあるものです。受験というものがなければこの時期には自分では読まないような、高尚な文章が多いはずです。是非、一つ一つの文章を丁寧に読んで心に留めてください。速読、速答を目指すのではなく、どうぞ「文章を読む」ことに戻ってください。確実に読み取って、与えられた問いに素直に解答をしてください。
受験をするしないにかかわらず、子ども達には目の前にあるものを正確に、丁寧に扱うことを学んで欲しいと思います。小さい時から「早く、早く」と急かされ過ぎているため、「とりあえず早くやり終える」ことに慣れてしまっています。 どうぞ、基本に戻ってください。4年生、5年生は目先の偏差値を意識し過ぎることなく、辛抱して練習を繰り返して基本を身につけさせてください。
前にも述べましたが、このやり方は、問題を仕上げるには多少時間がかかります。しかし、辛抱して「読む」習慣を身につけた子どもたちは、次に「時間内に解く」ことを必ず自分で意識します。そこで、初めて集中力を自ら高めることを覚えます。読み通しながら時間内に解くには、集中するしかないということを知るのです。 子ども達はこうして自分で培った集中力で、6年生の後半から見事に伸びていきます。 与えられた条件を正確にとらえて長文を読み通すことが、子どもの気力と集中力を高めるということです。
中学生時代の読書量がその人の一生の読書量を決めると言われます。確かに、国語力は中学入学後の多読、授業での精読で鍛えられるものです。 まだ12歳という中学受験の段階で、「国語の点数が良くないから国語力がない」と決め付けてはなりません。 読書と分けて、正確な読解の練習をすることで、本文を全文読み通す力、また、与えられた条件を正確にとらえて、目の前の情報の中から条件に合うものを読み取る力を養うことは、中学以降の国語力の基礎となります。また、受験国語では国語力を育てることはできないと言われることもありますが、そんなことはありません。中学入学以降、高校生の中にも精読時、「目と手で読む」ことを継続している子ども達は、国語の成績が大変良いです。 小手先のテクニックではなく「読解」を指導することの有効性を強く感じます。
どうぞ、辛抱して「読解トレーニング」をお続けください。